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藤井聡太七段、史上最年少でのタイトル挑戦決定!最強の相手にみせた「冷静さ」

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 4日、第91期ヒューリック杯棋聖戦挑戦者決定戦が行われ、藤井聡太七段(17)が永瀬拓矢二冠(27)に勝利し、渡辺明棋聖(36)への挑戦権を獲得した。

 タイトル戦は8日(月)に開幕する。

 そして藤井七段は最年少タイトル挑戦の新記録を達成することになる。

 終局後の記者会見では、ホッとした藤井七段の表情が印象的だった。

永瀬二冠の攻勢

 振り駒で先手番となった永瀬二冠は、相掛かり戦法を採用した。

 先日の記事では矢倉を予想したが、おそらく永瀬二冠としては相掛かりが最も勝つ可能性の高い戦法と判断したのだろう。

 実際、中盤過ぎまで永瀬二冠が思い描いていた通りの展開で攻め込んだ。

 感想戦では、「想定通りだが難解だと思っていた」と永瀬二冠は語っていた。

 藤井七段はかなり前から想定から外れていたようで、苦しい展開だった。

 しかし、最善の受けでこらえて互角のまま終盤戦に入っていった。

 以前だと、こうした展開で時間を消費しすぎてしまい、早い段階から秒読みに追い込まれることも多かった。

 しかし、先日の記事で書いたように「タイムマネジメント」にも意識を配っているようで、以前よりは時間を残していた。

 ただ、局後の記者会見では「まだうまくいっていない」とも語っていた。

耐えた藤井七段

 ずっと際どい攻防が続く。ABEMAに映し出される将棋AIの勝率は50%前後で推移していた。

 互角の終盤戦。手に汗握る、緊張感のある展開が続いた。

 そして手が難しい中、藤井七段がポンと思わぬところに歩を打った。

 観戦しながら筆者はこう書いたのだが、実は相手の攻めをウッカリしたと感想戦で藤井七段は語っていた。

 見落としがあると人間誰しも動揺する。しかも残り時間は6分。藤井七段といえど、ここは冷や汗をかいただろう。

 しかしそこで藤井七段は耐えた。

 ギリギリの状況下で冷静さを保ったのだ。

 6分とはいえ、時間が残っていたのも大きかった。「タイムマネジメント」が功を奏したのだ。

 そして結果的にみてここが大きな分かれ目だった。

 直後、永瀬二冠に悪手が出たのだ。

 一瞬のスキをついて飛車を敵陣に打ち込んだ藤井七段が、一気の攻めで勝負を決めた。

予想を覆すか

 本局のような互角が続く流れ、野球で例えると1対1で8回、9回と入っていく展開は、最も実力を問われる。

 この展開で、最強といえる永瀬二冠に競り勝ったのだ。強い内容だった。

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 斎藤慎太郎八段、菅井竜也八段、佐藤天彦九段、そして永瀬二冠に勝っての挑戦権獲得だ。

 このままタイトルも獲得か、そう思ってしまいそうだ。

 しかしタイトル獲得にはもう一山ある。

 待ち受けるは渡辺棋聖。最強のチャンピオンだ。

 渡辺棋聖はその実力もさることながら、番勝負においてさらに強さを増してくる。

 劣勢と思われた番勝負でも、下馬評を覆して制してきた。

 筆者は同時代を過ごしてきたこともあり、渡辺棋聖の強さをよく知っている。

 いまの藤井七段でも、五番勝負で3勝あげるのはかなり険しい道のりだ。

 しかし、藤井七段は人の予想を超えてくる。

 昨年11月に挑戦権を逃したときは、まさか最年少タイトル挑戦の記録にまたチャレンジするとは夢にも思わなかった。

 棋聖戦決勝トーナメントが延期になったとき、もう記録更新の夢は断たれた、誰もがそう思った。

 藤井七段が人々の予想を超える、またそんな未来が訪れるのか。

 注目の五番勝負は8日(月)に開幕する。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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