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NHKアナは『虎に翼』に対する態度をどこで変えたのか 「おはよう日本」の豹変

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:2021 TIFF/アフロ)

NHKアナの朝ドラへのコメントが復活

朝ドラ『虎に翼』に、「おはよう日本」のアナウンサーが触れるのが復活した。

「おはよう日本」は早朝から午前8時まで放送しているNHKのニュース番組である。

最後7時45分からはローカルニュースとなる。

東京で見られるのは関東甲信越エリア限定のニュース、全国ニュースのメインキャスターがローカルニュースも担当している。

いまの時点では、月曜から木曜までは、首藤奈知子アナと三條雅幸アナを中心に是永千恵アナと今井翔馬アナ。そのメンバーで担当している(金曜はメンバーが変わる)。

『ブギウギ』では2話に1回は触れていた

前の朝ドラ『ブギウギ』については頻繁に語っていた。

回数でいうなら全126話中、66回も触れていた。半分以上である。

ところが『虎に翼』に代わって、第1話の直前に触れて以降、ずっと触れなくなっていた。控えていたというレベルではない。

新しいドラマが始まり、最初は意外なことが連続して起こるものだけど、その間、一切ふれなかったのだ。

NHKの関東甲信越では、ドラマ前に触れることはやめたのだ、とおもっていた。

『虎に翼』29話前にいきなり復活

ところが5週間経って、いきなり再開した。

29話の前である。

5月9日木曜日の放送。

ヒロインたちがいわゆる「司法試験」(高等文官試験司法科)を受ける当日の話だ。

「お腹といえば、優三さん!」

首藤アナは「今朝、冷え込んでいますね」という普通の気候の話で始めた。

ところがそれを受けた三條雅之アナが「お腹冷えないようにしたいですけど、お腹といえばね、優三さん!」と、いきなり朝ドラの登場人物の名前を出したのだ。

首藤アナが「優三さん!」と反応して、是永アナが「大丈夫ですかね」と受けて、試験がんばれ、という流れで8時を迎えた。

ひさしぶり、一か月と8日ぶりに朝ドラに触れたのだった。

豹変である。

29話は女性弁護士誕生の重要回であった

たしかにこの29話は重要回であった。

優三さんはやっぱりダメで、でもヒロインの寅子(伊藤沙莉)は試験に合格し、話はトントンと進み、史上初の女性弁護士が誕生して記者会見を開く、というとろこまで進んだ。

重要な回である。

ただ、その重要さで触れたというより、試験がんばれメッセージを言いたかったから、という感じであった。朝ドラに触れることを5週ぶりに解禁されたという感じであった。

三條雅幸アナの細かい指摘

その次は、一週間後の5月16日、34話前に触れた。

花岡くん(岩田剛典)が婚約者と現れたので驚いた、という反応をみせていた。

もっと驚いてたのは轟くん(戸塚純貴)だったと三條アナが指摘していて、三條アナの指摘はいつもなかなか細かくて楽しい。

5月はこの2回だけであった。

6月になって触れたのは11日から

次は少しあいだがあいた。

3週近くあいて、6月11日火曜52話の前に触れた。

この日はいきなり首藤アナが「よねさんがねー」と言うのですかさず是永アナが「ねえー、生きてましたねえ」と受けた。

山田よね(土屋志央梨)が空襲に遭っても生き延びていたことを喜んでいた。三條さんはぼそっと「とどろき……」というので、また是永アナが「さんもねえー、よかったー」と受けていた。

金曜日の味わいは井上二郎アナ

その次は3日後、6月14日の金曜。金曜は首藤さんではなく赤木アナ、三條さんではなく井上二郎アナが担当である。

二郎アナが「虎に翼では寒さ対策として、ぴんぴんぴんってありましたけど、暑さ対策どうしましょうか」と朝ドラでの昭和の運動に触れていた。

赤木アナが是永アナの「号泣」を指摘

さらに一週間後、また金曜日。60話前。

前話の最後にヒロインの母(石田ゆり子)が急逝した。

赤木アナが隣の是永アナに「あの、是永さん、昨日の「虎に翼」みて、大号泣してましたね」といきなり切り出した。是永「あっ、ばれてました?」、赤木「聞こえてましたよ、すすり泣き」と展開していると、井上二郎アナは問わず語りに「あの、私も昨日から口数が少ないんですよ」と言って、赤木アナは「ええっ」とだけしか反応しなかった。

二郎アナもまた味わいがある。

6月末の是永アナ

このへんから朝ドラに触れるのに活発になってくる。

次週の水曜、6月26日、63話前 。

かつての学友たちが集まったことを喜んで、三條アナが「きわだったのは轟さんの人の良さ」と言ったら是永アナ「轟さんほんとに好き」と言うので、三條アナがぎりぎり「何の告白!?」とツッコんでいた。

続いて翌日6月27日、64話前。

三條アナが「道男が作ったお稲荷さん、あれ、映ってないのに道男の顔が見えたのは気のせいですかね」と言って首藤アナが「そんな感じのお稲荷さん……おいしいでしょうきっと」と言ったあと是永アナは「おいしいでしょう、おれにはわかる!」と言い放った。

これはヒロインの亡き兄・直道(上川周作)の口癖だった。それをぶち込んでくる是永アナのセンスはなかなか尖っている。

6月は5回触れた。

三條アナのアナウンサーぽい感想

7月はまだ終わってないが4週目までで5回触れている。

7月3日水曜の68話前。

連雀町にある(とおもわれる)志るこ屋で、長官が自著の序文を読み上げたシーンを受けて、首藤アナ「昨日はあの「序文」に胸が熱くなりました」、三條アナ「どうしたらああいう伝わる文章が書けて、伝わる読みができるのか……みならいたい!」、首藤アナが三條さんを眺めつつ「アナウンサーぽいわ」

三條アナの「道男」に関する予知能力

一週間後の7月10日水曜、73話の前。

「花江ちゃんはたまってましたねえ」とヒロインの嫂(森田望智)について触れたときに三條アナは「そろそろ道男に出てきてほしいな」と言ったので首藤アナが「道男!?(笑)」と驚いたのだが、じつは73話に道男(和田庵)が登場した。

翌日、7月11日木曜、74話前はとうぜんその話題になる。

首藤「昨日、三條アナが……」というと若い二人のアナが「そう」「道男が」「出てました」と畳み込んでいくので、三條さん「出てきましたね、いや、びっくりしました」首藤さん「びっくり…なんか台本もっているとか?」と言われて、三條アナ、なぜか両手を広げて小さくセーフのポーズを取りつつ「持ってま……せん」と否定していた。

井上二郎アナの推しは多岐川さん

翌日12日金曜、金曜なので赤木アナが「三條さんは道男推しですけれども二郎さんは?」と聞いて井上二郎アナ「わたしは多岐川さんですね…」と滝藤賢一が演じるヒロインの上司を挙げた。赤木「…多岐川さん……」「やっぱり愛……愛ですよ」

3日連続で朝ドラに触れていた。

イネさんはブギウギの大野さんのようだと三條アナの指摘

3日連続があったので、そのあと少しなりをひそめる。

このへんはなんかNHKらしい「感覚」で間を取ってるようにおもう。

ひさしぶりに7月24日水曜。

田園風景の映像を受けて首藤アナ「こちらの田んぼの稲、実ってますねえ」と言ったのを受けて三條アナ「稲と言えば、イネさんが寅子のところに来てくれました」といきなり話題を変えて、首藤「イネさんって安心感ありますね」から三條「ブギウギの大野さんみたい」。

前作『ブギウギ』でヒロインの家に押しかけて家事をやってくれた大野さん(木野花)はたしかに『虎に翼』でも突然押しかけてきた旧知のイネさん(田中真弓)ととても似ている。

三條アナの指摘はほんわかしていて、鋭い。

深い朝ドラ愛を感じられる発言が多い。

月5回のペースを続けるのか

『ブギウギ』ではだいたい2話に1回は触れていたので、ちょっとオーバーペースだったのかもしれない。いまからおもうと、ややはしゃぎすぎ、という印象がある。

だから、4月と5月は大人しくしていて、6月以降は月5回くらいのペースになっている。

どう考えても春ころは自粛していたということだろう。

でも完全にスルーし続けるのも変な感じがする。

だから少しだけ復活した。

そのあたりのようにおもえる。

NHKらしい配慮、というところだろうか。

月5回くらいのペースがいいようにおもうが、この先、どうなるかはわからない。

まだまだ見守っていこうとおもう。

(申し訳ないが、関東甲信越地方の話です)

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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