Yahoo!ニュース

【大阪グルメ】SATSUKIとサクラから読み解く、ホテルニューオータニ大阪の高い志

東龍グルメジャーナリスト
フランス料理「サクラ」

SATSUKIがホテルニューオータニ大阪に

「【桜スイーツ】50周年を迎えるホテルニューオータニの想い」「ホテルニューオータニ「ベッラヴィスタ」料理長にトップシェフが就任した背景とは?」の記事でもご紹介したように、SATSUKIはホテルニューオータニの料飲施設の中でもブランド力が高いパティスリーやダイニングです。高級路線でスイーツ通を満足させるスーパーシリーズや、3種のメープルシロップでいただくリコッタチーズ入りパンケーキ、昔ながらの洋食を上質にアレンジした「東京洋食屋厨房(下町洋食フェア)」など、代表的な商品は枚挙に暇がありません。

人気のSATSUKIブランドで、6月1日にパティスリーが、7月1日にダイニングがホテルニューオータニ大阪にオープンします。これまでホテルニューオータニ大阪にSATSUKIブランドがなかったのは何故でしょうか。加えて、今になってオープンするのは何故でしょうか。

世界一を目指した

広報 支配人 勝浦美奈子氏は「大阪ビジネスパークを再開発するにあたってホテルと文化施設の誘致があり、ホテルニューオータニが1986年にオープンした」と開業の経緯を話します。

開業するに際して「世界一のホテルを目指すという高い志を持っていた。それには東京で成功を収めていたホテルニューオータニのブランド力に頼らず、大阪独自のブランドで挑戦しようとした」とビジョンを語ります。こういった考えが根底にあったので「今でこそ他のグループホテルでも作成しているが、グループホテルで初めて独自のロゴを作成した」と独自ブランドへのこだわりがあったとし、「ロゴは大阪城の天守閣をイメージした」と説明します。

大阪でも外資系ホテルが進出

「マンダリン オリエンタル ホテル 東京は何故ピッツァバーを新設したのか?」の中で東京に外資系ホテルが進出していると紹介していますが、大阪においても同様です。「ザ・リッツ・カールトン大阪」「ウェスティンホテル大阪」「セントレジス大阪」「インターコンチネンタルホテル大阪」といった外資系ホテルが次から次へと進出しており、ホテルニューオータニ大阪も当然のことながら意識していました。

アイデアは大胆に行動は慎重に

勝浦氏は「個々のホテルだけで頑張っていくのでは限界がある。せっかくブランド力のあるホテルニューオータニのグループなので、それを最大限に生かした方がよいという結論に達した」と状況が変わったとし、「1階にあるアゼリアは好評を博しているが、付加価値をこれまで以上に高めていかなければならない」とさらなる高みを目指していると述べます。

そういった考えから「アゼリアで東京下町洋食フェアを行ったり、スーパーブレックファストを始めたりした」とSATSUKIで好評を博しているものを提供し始めたとする一方で、「お客さまのご反応は何よりも大切。大阪のお客さまの好みに合うかどうかを慎重に確かめながら進めていった」と、アイデアは大胆に発想し、行動は慎重に行ったと話します。

SATSUKIの味が大阪でも支持された

その結果、勝浦氏は「東京と大阪とではお客さまの好みは違うが、おいしいと感じるものは同じだった。嗜好の違いを乗り越えて、大阪でもSATSUKIの上質な味をご支持いただけた」と手応えを掴んだと述べます。そのため、「アゼリアをSATSUKIにするだけではなく、ラウンジをSATSUKIラウンジにする」とSATSUKIブランドをさらに押し進めることにしたと話します。

ホテルのフレンチを牽引

サクラ
サクラ

勝浦氏は「ホテルニューオータニ大阪はオープン当初から国際的なホテルを目指したので、メインダイニングであるフランス料理店の名前は外国人のお客さまにも親しみのある『桜』にした」と話します。

大阪はミシュランの三つ星フランス料理がないなど、東京に比べるとフランス料理に元気がありません。大阪人の気質に合わないためか、敷居が高く感じられるホテルのフランス料理では、町場以上に厳しい状況となっています。しかし、フランス料理「サクラ」はネオクラシックを謳った新しい感覚と大阪城の眺望が人気となり、食べログでの評価も高かったり、メディア露出も多かったりと異彩を放っています。

※2014年6月1日より「サクラ」から「SAKURA」に変わります

鉄板焼からフランス料理の料理長へ

勝浦氏は、サクラ料理長の永井義昌氏に関して「サクラで副料理長を務めた後に鉄板焼『けやき』で料理長を務め、またサクラに戻って料理長に就任した」と経歴を説明します。

焼くという調理において、フランス料理で可能な技法は全て鉄板焼で可能であると言われています。それに加え、鉄板焼では牛肉の扱い方がとても磨かれます。こういったことを踏まえて、永井氏は「鴨料理も得意だが、牛肉の肉質を見分けて、最も相応しい調理を行うことも得意」であるとして「ジビエ料理もお勧めしているが、尾崎牛や佐賀牛といったブランド牛にこだわりを持っているので、牛肉料理を是非食べていただきたい」と自信を覗かせます。

昼は気軽に、夜はしっかりと

永井氏は「昼は幅広い層のお客さまに気軽に楽しんでいただきたいのでリーズナブルにしている」とする一方で、「夜はしっかりとした本格的なフランス料理を食べていただきたい」と、どういった客に何を伝えたいかがはっきりとしています。

加えて、「お客さまに驚きを与えられるように工夫も凝らしている」として、演出やプレゼンテーションについてもこだわりがあると話します。

永井氏の料理をご紹介しましょう。

プロローグ 3種の味わい

プロローグ 3種の味わい
プロローグ 3種の味わい

グジェールに桜海老が載せられていたり、サーモンのタルタルと根菜グレッグに緑茶ジュレを合わせたりと、アミューズにも一工夫凝らしています。

シトロネル香る茄子のフォンダン 貝と山葵風味の軽いムースを添えて

シトロネル香る茄子のフォンダン 貝と山葵風味の軽いムースを添えて
シトロネル香る茄子のフォンダン 貝と山葵風味の軽いムースを添えて

大阪の水茄子を使ったフォンダンに、山葵のエスプーマと、和の食材をさりげなく使っています。そうかと思えば、フランス料理では旬であるアスパラソヴァージュを添えたりと、食材も幅広いです。

とんぶりとジュンサイをあしらった枝豆の冷製スープ フロマージュブランの味わい

とんぶりとジュンサイをあしらった枝豆の冷製スープ フロマージュブランの味わい
とんぶりとジュンサイをあしらった枝豆の冷製スープ フロマージュブランの味わい

枝豆の冷製スープはとても濃厚なので、つるんとしたジュンサイを合わせたという一品です。和の食材を使うことはもはや珍しいことではありませんが、ジュンサイを使うことは珍しいです。とんぶりとキャビアの競演もユニークでしょう。

鮮魚とクルヴェットの取り合わせ ディエップ風

鮮魚とクルヴェットの取り合わせ ディエップ風
鮮魚とクルヴェットの取り合わせ ディエップ風

鮮魚は旬のスズキです。クルヴェット(小海老)は身を焼いて頭は揚げています。ジャガイモは茹でて器にしたり、ピューレにしたり、フリットにしたりしています。同じ食材に対して様々な調理方法を用いることは手間がかかることです。その食材の魅力を伝えたいという良心の現れであると言えるでしょう。

黒毛和種A-4牛フィレ肉とフォアグラポワレミルフィーユ ロッシーニ風 黒トリュフ香るペリグーソースと菜園の彩りを添えて

黒毛和種A-4牛フィレ肉とフォアグラポワレミルフィーユ ロッシーニ風
黒毛和種A-4牛フィレ肉とフォアグラポワレミルフィーユ ロッシーニ風

佐賀牛のフィレ肉でフォアグラをサンドし、フレンチフライで串刺しにして、ハンバーガーに見立てています。大阪ならではのユニークなプレゼンテーションでしょう。肉質や火入れがよかったり、トリュフを使ったペリグーソースがかけられていたりと、本格的なフランス料理に仕上げられています。

ペルスヴァル「9.47」

ペルスヴァル「9.47」
ペルスヴァル「9.47」

肉料理のナイフは2013年10月に日本で発売されたばかりの、切れ味が鋭いと評判のペルスヴァル「9.47」です。ナイフへのこだわりはフランス料理通に伝わるでしょう。

瞬間スモークのチーズケーキ ミルキーな苺アイスと共に

瞬間スモークのチーズケーキ ミルキーな苺アイスと共に
瞬間スモークのチーズケーキ ミルキーな苺アイスと共に

目の前でガラスのクローシュを外してもらうと、スモーキーな香りが広がります。デザートにクローシュを被せることはもちろん、チーズケーキをスモークするという発想が新しいです。

紅茶と小菓子

紅茶と小菓子
紅茶と小菓子

小菓子は一口サイズのバーチディダマとマドレーヌ、クレームカラメルです。クレームカラメルは小さい瓶で供されていて、女性でも食べられるように配慮されています。

大阪と共に歩んでいく

大阪城
大阪城

ホテルニューオータニ大阪は大阪城公園にあり、何も遮られる建物がないので、大阪城の全容を目の前に望むことができます。大阪城は夜にライトアップされ、「ピンクリボン」のキャンペーンではピンクになったり、「世界糖尿病デー」の日にはブルーになったりと、大阪文化の一つとして浸透し、名所の一つとなっています。

勝浦氏は「ホテルニューオータニとしてのクオリティを保ちつつ、大阪らしさを大切にしていきたい。大阪の伝統野菜を積極的に使ったり、ソムリエにはお酒に対する見識を高めるだけではなく、お客さまに笑っていただけるように話術も磨いてもらっている」と話します。

大阪の再開発で誕生したホテルニューオータニ大阪は世界一を目指しながらも、大阪らしさを大切にし、大阪と共に発展していきました。今後も高い志を持ち続け、地域性を大切にしていくことができれば、世界一のホテルへと近付いていくことができるのではないでしょうか。

情報

詳しくは公式サイトをご確認ください。

関連リンク

【大阪グルメ】2016年で20年を迎える帝国ホテル 大阪、躍動の兆し

参考

レストラン図鑑

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

東龍の最近の記事