マンダリン オリエンタル ホテル 東京は何故ピッツァバーを新設したのか?
ホテル新々御三家のマンダリン オリエンタル ホテル 東京
「20周年を迎えるウェスティンホテル東京のレストランを振り返る」シリーズでは、ホテル新御三家の一つであるウェスティンホテル東京のレストランをご紹介しています。
ホテル新御三家の次の世代はホテル新々御三家と呼ばれていて、「マンダリン オリエンタル ホテル 東京」「ザ・リッツ・カールトン東京」「ザ・ペニンシュラ東京」が挙げられます。
マンダリン オリエンタル ホテル 東京は2005年12月2日に日本へ初上陸した香港に拠点を置くホテルグループで、ミシュランによるホテル最高の六つ星評価を獲得していたり、旅行情報サイト「トリップアドバイザー」によるクチコミ評価がよかったりと、高級感があって人気も高いです。
日本上陸以来ずっと、最上級のラグジュアリー路線で進んできましたが、ここにきてレストランで新しい方向性を打ち出しています。
業態変更とピッツァバー新設
38階にある洗練されたアジア料理レストラン「ケシキ」をラスティックなイタリアの伝統料理を提供するオールデイダニングに、2階にあるイタリアンブッフェの人気店「ヴェンタリオ」を地中海料理ブッフェに業態変更しました。加えて、ケシキの一角に高級ホテルでは非常に珍しいピッツァバーを設けたのです。
これまであまり動きをみせなかったマンダリン オリエンタル ホテル 東京にしては驚く程の展開であると言えます。
このように業態を変更したり、ピッツァバーを新設したりしたのには、どういった意図があったのでしょうか。
お客さまにもっと利用し易くしたい
2012年9月にアンソニー・コスタ氏が総支配人に就任し、2013年にはコスタ氏のザ・ランドマーク マンダリン オリエンタル(香港)時代の右腕であったトーマス コンベスコット ルペル氏が料飲部長に就任しました。
アシスタントPRマネージャーである吉田元氏は「10ある料飲施設は全て直営なので責任感がある。高いクオリティを保たなければならない」と前置きした上で、「お客さまにより利用していただくにはラグジュアリーであるだけではいけない」と新総支配人であるコスタ氏の考えを述べ、「もちろん高級感とクオリティは維持したままにする。それに加えて、カジュアルで入り易いようにした」と補足します。
吉田氏は「日本人はイタリア料理がとても好きだ。気軽に食べられる身近な料理なので中心に据えた」とコンセプトを述べ、「ケシキにはもともと窯があったのでイタリア料理にし、差別化するためにヴェンタリオは発展的に地中海料理へリブランドした」、さらには「窯をもっと有効に利用するためピッツァバーを設けた」と業態変更とピッツァバー新設の理由を説明します。
高級感溢れるケシキをリーズナブルな価格に
お客さまが利用し易いようにという方針を受けて、ケシキは38階からの素晴らしい眺望とラグジュアリーな空間があるにも関わらず、高級なリストランテと謳っていません。
「家庭的で親しみ易い家庭料理を存分に楽しんでいただきたい」ということで「肩肘張った堅いコース料理をご提供するのではなく、皆様で取り分けて楽しく食べられるレストランにした」と吉田氏は言います。その証左に、ランチコースは2000円台からとなっていて、最も高いディナーコースでも7000円台となっています(いずれとも、サービス料金は別途)。高級リストランテのディナーコースでは1万円を超えることが普通なので、リーズナブルであると言えるでしょう。
ヴェンタリオはもっと寛げるように
ヴェンタリオに関しては引き続きブッフェを行っているので、気軽に利用し易いと言えます。変わったことは、イタリア料理だけではなく地中海料理へ拡大したことと、土日祝日のティータイムに行われていたデザートブッフェをやめたことです。
前者は品揃えの幅が広がったのでよいことでしょう。後者はランチタイムをもっとゆっくり寛ぎたい(ランチタイムの客はデザートブッフェの客と入れ替えになっていた)という客の要望に応えて、大人気のデザートブッフェをやめたのです。行列ができていたプランをあえてやめることにしたのは英断であると言えます。
高級ホテルでは珍しいピッツァバー
2014年1月30日にオープンした「ピッツァバー ON 38TH」には、窯を囲むようにして「くの字形」のカウンターがあるので、どのスツールからも窯や調理台がよく見えます。オープンキッチンが目玉となっている町場のピッツェリアと比べても、臨場感に遜色はないでしょう。
吉田氏は「8席だけというエクスクルーシブな空間によってスペシャル感を演出している」としつつも「開放感のあるケシキの一角に設けたことにより、閉塞感や窮屈感、入りにくいという感じはない」と、このようにデザインした意図を説明します。
実はこういった手法はマンダリン オリエンタル ホテル 東京が得意とするところです。日本での化学調理を広めた分子ガストロノミー「タパス モラキュラーバー」は「オリエンタルラウンジ」の一角に設けて大成功を果たしました。これを受けて同じような空間デザインにしたのではないでしょうか。
また、タパス モラキュラーバーも「鮨 そら」も、カウンターのみの8席となっていることが共通しています。これは実演パフォーマンスを最大化する席数や空間の広さが、8席程度であることを知悉しているからでしょう。
ナポリ風でもローマ風でもない生地
BUFALA トマトと水牛のモッツァレラ
PIZZA MARINARA ニンニク風味 マジョラム エキストラバージンオリーブオイルとトマトソース
ピッツァバーのシェフはコスタ氏がスカウトしたローマで生まれ育ったダニエレ・カーソン氏で、ピッツァを作るのは全てピッツァ職人であるピッツァイオーロです。
ピッツアは生地にこだわっていて、厳選されたイタリア産オーガニック小麦をブレンドし、通常は総重量に対して60%のところを80%の割合で水を含ませて、24時間の熟成を2回も行っています。
多加水で熟成をしっかりと行うことで、柔らかいのに空気がしっかりと入り、口当たりがよい生地となっています。モチモチのナポリ風ともカリカリのローマ風とも違う、カーソン氏独特の生地に仕上がっているのです。
自家製ピクルス
パンナコッタ ストロベリーソース
ティラミス
ピッツァはもちろん、アンティパストからドルチェ、アミューズのピクルスに至るまで、どれも手作りとなっていて妥協はありません。ディナーがランチと同じ値段に設定されていたり、ワイン(スパークリングワイン、白ワイン、赤ワイン)のフリーフローが行われていたりと、非常にリーズナブルです。
テーブルウェアにもこだわる
テーブルウェアにもこだわっています。ピッツァを載せるのはプレートではなく、厚みがあるウッドボードです。重厚感があってダイナミックなピッツァに合っていますし、大きいのでピッツァがはみ出ることもなくて食べ易いです。
メインで使用しているカトラリはドイツのアイヘンラウプで、他のホテルでは見掛けられない珍しい高級ブランドです。ウッドボードと雰囲気が合っていて、こだわりの程が窺えます。一方、デザート用のカトラリは日本でもメジャーなブランドであるイタリアのサンボネです。
高級ホテルも変化しなければならない
ご紹介した以外にも、一階にある「マンダリン オリエンタル グルメショップ」を2014年3月中にリニューアルオープンする予定です。「まだ詳しいことは明かせないが、こちらもお客さまの要望に応えてサービスを拡大する」と吉田氏は自信を覗かせています。
外資系ホテルが続々と東京へ上陸する中で、最高級と言われているマンダリン オリエンタル ホテル 東京でさえも、積極的に生まれ変わろうとしています。利用者の関心が移り易くて動きが激しい外食産業においては、留まっていること、つまり、何も変わらないことは後退を意味します。逆説的になりますが、ブランド力があって安定しているホテルであるからこそ、ブランド力を維持して安定するために、率先して変わる必要があるのではないでしょうか。
情報
詳しくは公式サイトをご確認ください。