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ビジャレアルの躍進。「知将」エメリの策略と、特殊な可変システム。

森田泰史スポーツライター
CLで躍進のビジャレアル(写真:ロイター/アフロ)

彼らの欧州での躍進は、大きなサプライズだった。

今季のチャンピオンズリーグで、ビジャレアルはベスト4に進出した。レアル・マドリー、リヴァプール、マンチェスター・シティといったビッグクラブがひしめく中、人口およそ5万人の街のクラブがヨーロッパのトップレベルで戦えることを証明している。

■オトラ・リーガの誇り

リーガエスパニョーラでは、長く「2強時代」が続いてきた。

レアル・マドリーとバルセロナ。実績、知名度、影響力、ブランディング、資金力、あらゆる面で、スペインではこの2クラブが突出していた。

オトラ・リーガという言葉が、「マドリー+バルサ」と「それ以外」のチーム同士のリーグ戦という意味で、いつからか自然に使われるようになっていた。

ただ、“オトラ”のチームが弱いということではない。それを実証しているのが今季のビジャレアルだ。決勝トーナメントに入り、ユヴェントス、バイエルン・ミュンヘンと強豪を次々に撃破した。弱体化したと揶揄されていたスペイン勢の誇りを、見せつけた。

ビジャレアルのエメリ監督
ビジャレアルのエメリ監督写真:ロイター/アフロ

バイエルン、ユヴェントス、グループステージで対戦したマンチェスター・ユナイテッドなどには、ビッグプレーヤーがいる。ロベルト・レヴァンドフスキ、クリスティアーノ・ロナウド、ジョルジョ・キエッリーニと各国を代表するような選手がいる。

一方、ビジャレアルの場合、そうではない。そんな中で、“強者のフットボール”に講じるというのは難しかった。今季のチャンピオンズリーグで、ビジャレアルのポゼッション率は48.1%だ。バイエルンとの試合では、ファーストレグ(38%)、セカンドレグ(32%)と、ボールを握るという点では圧倒された。

■特殊なシステム

今季のビジャレアルは特殊なシステムを採用している。【4−3−3】と【4−4−2】の可変式システムで、攻撃時と守備時に形を使い分ける。ウィングの一枚がボール非保持時にサイドハーフ化して、フォー・フォー・ツーのブロックを組み、相手のアタックに対して構えるのだ。

シーズン序盤は【4−3−3】で戦っていた。両翼にカンテラーノのジェレミー・ピノと新戦力のアルナウト・ダンジュマを据え、中央にジェラール・モレノやパコ・アルカセルを置く布陣だった。

だがエメリ監督は少しずつ変化を加えていく。

大きかったのは、G・モレノの負傷離脱だろう。スペイン代表として臨んだE URO2020を含め、2020−21シーズン、多くの試合に出場したエースが、今季はケガに悩まされていた。決定力のあるG・モレノが不在となり、ウナイ・エメリ監督は失点を避けるための戦い方を選択するようになっていった。

ドリブルするジェラール・モレノ
ドリブルするジェラール・モレノ写真:ムツ・カワモリ/アフロ

また、指揮官は多様性のある選手配置を試みてきた。本職がボランチであるフランンシス・コクランや本来ならウィングのピノのサイドハーフ起用、後述するドブレ・ラテラルと守備を固めるための配置が行われた。

元々、エメリ監督はドブレ・ラテラル(ダブルサイドバック)の使い手である。すなわち、守備を重視する指揮官だ。セビージャ時代には、コケとマリアーノを縦列で並べていた。2015−16シーズン、ヨーロッパリーグの決勝で、この戦い方でユルゲン・クロップ監督のリヴァプールを倒して優勝を飾っている。

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スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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