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20年以上活躍した「オール2階建て新幹線」が引退へ 意義はどこにあったのか?

小林拓矢フリーライター
「とき」をイメージした色の帯を巻いたE4系(写真:KUZUHA/イメージマート)

 Maxと呼ばれる「E4系2階建て新幹線」は人気の車両だ。速達性能ではE2系に劣ったものの、独特の前面と2階建ての車内が、多くの人からの人気を集めている。

 そのE4系Maxが、10月1日に最終運行となる。もともと、E4系は2020年度末までに全車両廃車し、E2系と新しく製造されるE7系に置き換えられる予定となっていた。ところが、2019年10月の台風19号により北陸新幹線の長野新幹線車両センターが浸水したため、E7系が廃車になる。E7系は、上越新幹線にも導入することになっており、上越新幹線用の新車を北陸新幹線のために使用しなければならないことになった。

 すでに引退しているはずのE4系は、ここへきて「最後のご奉公」となった。追加導入のE7系を待つ間、上越新幹線で「Maxとき」「Maxたにがわ」に使用された。

 E4系とは、どんな意義のある車両だったのか。

オール2階建て8両編成が2本連結で運行

 E4系Maxは、オール2階建て車両というのが特徴である。オール2階建て新幹線車両は、すでにE1系12両編成で実績があったものの、ホームに収まる最長編成である16両編成が可能であり、いっぽうで時間帯や運用によっては8両編成での運用というのも可能だった。

 2編成をまとめて1編成にすることができ、それにより繁閑にあわせて運用されていた。

 8両編成で定員817名、16両編成で1,634名となっており、新幹線通勤への対応のためにつくられた車両といえるだろう。E1系12両編成が1,235名だったため、時間帯によってはがらがらということもある。調整可能な車両ゆえに、通勤向け「なすの」や東北方面と行き来する「やまびこ」などで便利に使用された。1997年に営業運転を開始した当初は、東北新幹線で運用されていた。

 1999年には200系の代わりに山形新幹線「つばさ」と併結を開始する。1編成が8両と短いため、このような使い方も可能だった。

 2001年には上越新幹線にも登場、高崎方面からの通勤輸送に役立ついっぽう、新潟と東京とを結ぶ車両として親しまれた。

 どんな車内だったのか。多くの人を乗車させるため、普通車自由席の2階席は、3人がけ席と3人がけ席が通路をはさんで並んでいる。このシートにはリクライニングはない。一部車両のデッキには補助席が設けられている。

 自由席の1階席や指定席は3人がけ席と2人がけ席の組み合わせとなっている。これはふつうの新幹線と同じだ。グリーン車は2人がけ席が並ぶ。

 2階建て車両ゆえ、車内販売のワゴンはどうするのかというのが課題になった。E1系ではワゴンが不可能だった代わりにバスケットを使用していたが、この車両では昇降機を設けワゴン販売が可能になった。

 大量輸送に特化した車両であったため、E2系よりも最高速度は低く、240km/hとなっている。「やまびこ」「なすの」「とき」といった、停車駅の多い列車に使用されている。

 大量輸送に特化するために2階建てにしたこの車両は、それゆえに眺望がよく、いっぽうで高速運転のために空気抵抗を減らすために独特の形をしていたことから、人気の車両となった。また、同形式の併結作業を行うというのもユニークだった。一種の愛嬌のある「顔」が、親しまれた。

 だがそれゆえの困難が、この車両には待ち構えていた。

進む高速化の中で引退を迫られる

 東北新幹線では2005年にE4系は仙台以北での運行がされなくなった。2012年には山形新幹線との併結を終え、東北方面への運行は終わった。それから活躍の主舞台を上越新幹線に移行した。上越新幹線ならば、東北新幹線ほどの高速性は要求されず、いっぽうで輸送力は必要だからだ。当時の東北新幹線は、新青森開業によるE5系・E6系の登場で速達化が一層進み、ダイヤ編成上最高速度の遅いE4系は去るしかなかった。いっぽう、東北新幹線からの通勤向け新幹線はE2系・E5系といった速達型対応車両と「つばさ」用E3系もしくは「こまち」用E6系の組み合わせで乗車人員を確保できる状況になっていた。

 そうこうしているうちに老朽化が進み、置き換えの話が出る。上越新幹線用の車両は、北陸新幹線と共通運用できるE7系となる。通勤時間帯の対応は増発となるという。

「2階建て」という特徴的な車両ゆえ愛され、親しまれたE4系Maxは、老朽化といまの新幹線が求める高速性能を満たさないという理由で消えることになった。また、バリアフリー対応の点から2階建て車両には難があった。だが、通勤輸送のために貢献したこれまでの活躍と、愛くるしい「顔」は、多くの人の記憶に残ることになるだろう。

 おそらく、これが最後の2階建て新幹線になる。遠距離からの通勤が認められるような会社は、テレワークも可能であり、会社には時々行くだけで十分な場合も多い。コロナ禍前から新幹線通勤利用者は減っていたが、この傾向は加速していく。ある時代に求められた2階建て新幹線は、その時代が終わっていくのに合わせて、去っていく。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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