金与正氏“下命法”に続き“下命解雇”?――韓国外相交代で国内にくすぶる邪推
韓国外相が康京和(カン・ギョンファ)氏から鄭義溶・大統領外交安保特別補佐官への電撃交代を受け、韓国の一部で「康京和氏が北朝鮮の金正恩総書記の実妹・金与正氏に非難されたことと関係があるのではないか」との憶測が出ている。文在寅政権は過去にも北朝鮮側の批判に呼応するかのように措置を取ってきた経緯があり、野党を中心に疑心暗鬼が広がっている。
◇在職期間は約3年7カ月
康京和氏は文在寅政権発足に合わせて外相に就任した。文大統領の信任が厚く、韓国政界では「文政権の間は彼女が外相を続けるだろう」との観測もあった。
ところがバイデン米政権の発足に合わせるように20日、文政権は外相の交代を発表した。交代の理由がはっきりしなかったため、韓国国内では「サプライズ人事」と受け止められた。
ここで浮上したのが「北朝鮮への配慮」説だった。
康京和氏は先月5日の国際会議で、北朝鮮が「新型コロナウイルス感染者はゼロ」と主張しながらも非常防疫措置を取っていることを「不思議な状況」と指摘した。
これに対し、北朝鮮で南北関係を総括する金与正氏が3日後に談話を発表。康京和氏の発言を「差し出がましい」と批判したうえで「恐らく正確に計算されるべきであろう」と警告した。これは韓国側に対価を支払わせるというニュアンスをにじませたものだった。
こうした背景があるため、今回の外相交代が金与正氏の談話と関連しているのではないかという憶測が語られるようになった。韓国最大野党 「国民の力」議員で元第1外務次官の趙太庸氏は、韓国メディアに「“まさか康京和氏まで交代する?”と思っていたが、金与正氏の言葉通り、正確に『計算』がなされた。金与正氏のひと言で(康外相が)崩れた」との見方を示している。
◇南北対話復活を視野に?
こうした保守陣営の見方に対し、大統領府は20日、「全く事実ではない」「国論を分裂させる無理な憶測だ」と強く否定。康京和氏の退任について「本人は体力的、精神的に疲れていたという。昨年来、何度も辞意を表明してきたが、引き留めてきた。今回、バイデン米新政権発足に合わせ、外交・安保ラインの人事を断行した」と説明している。
昨年にも、金与正氏の談話に韓国側が“呼応”したと思われるような例があった。
韓国の脱北者団体「自由北韓運動連合」が金正恩氏を非難するビラを北朝鮮に向けて大量に飛ばしたことに対し、金与正氏は昨年6月、「悪行を働く者よりそれを見ないふりをしたりあおり立てる者がもっと憎い」「悪意に満ちた行為が放置されるなら、南朝鮮(韓国)当局は遠からず最悪の局面まで予測しなければならないであろう」と警告した。
その後、北朝鮮側が開城・南北共同連絡事務所を爆破したことで韓国側に衝撃が走り、統一相だった金錬鐵氏が辞任する事態に発展した。その後任には親・北朝鮮系の学生運動組織トップを務めた経験のある李仁栄氏が就いたという経緯がある。また北朝鮮側の強硬姿勢を受けるかのように整備された「対北朝鮮ビラ散布禁止法」は「金与正下命法」と揶揄されている。
康京和氏の後任外相となる鄭義溶氏は2018~19年に開かれた米朝、南北の首脳会談に際し、大統領府国家安保室長として中心的な役割を果たした人物だ。
米国のカウンターパートだったボルトン元米大統領補佐官の回顧録によると、鄭義溶氏は金正恩氏に対し、米国との首脳会談に応じるよう勧めたともいわれる。ロイター通信は鄭義溶氏の外相就任を「北朝鮮との対話を復活させようとする努力の一環」と説明している。