バイク乗りは「満月の夜」に要注意
ルナティック(lunatic)という言葉があるがルナ(luna)は月だ。月夜や満月は人をソワソワさせるのではないか(※1)、ということで、洋の東西を問わず月の満ち欠けと人間の行動を調べる研究は多い。
月と事故や事件の関係は
だが、両者の関係について言えば、否定的な結果がほとんどだ。
例えば、米国で1972年から2年間、緊急通報電話(Crisis Calls)の件数と月齢の周期を調べた研究(※2)では、有意な関係を見いだすことはできなかった。カナダのバンクーバーで3年間の緊急通報電話を調べた研究でも、ある一定の周期があることはわかったが満月や新月に合わせて増減するというような結果は見いだせていない(※3)。
また、カナダ中西部のサスカチュワン州で9年間の間に起きた交通事故で、24万6926件の軽微なものや5万492件の重軽傷事故を調べたところ、月齢周期や満月との関係による事故件数の変化はなかった(※4)。月の周期と自殺との関係も否定されているし(※5)、重大な犯罪との間にも関係はないようだ(※6)。米国で4年間、救急外来のデータを調べたところ、期間中に49回の満月があったが、ほかの日との違いはなかった(※7)。
だが、こうした研究結果が出る一方、事故や事件などのアクシデントと月齢との関係に何らかの関係があるのではないか、という研究も少なくない。
例えば、英国の緊急通報電話で4年間のデータを分析した英国の研究では、新月になると女性の電話が増えて男性の電話が減る傾向が見られた(※8)。この調査によれば、女性の電話件数は月の満ち欠けと何らかの関係があることが示唆されたようだ。
また、動物による咬傷事故は、満月に増えることがわかっている。1997年から3年間、英国中部の病院に緊急外来で運び込まれた患者を調べたところ、月齢によってイヌやネコ、ネズミに咬まれたことによる怪我人の数に増減があり、その前後に比べて満月になると患者が急増した(※8)。ただ、これは人間ではなく、月齢によって変化する動物の行動を現しているのだろう。
さらに、最近の研究によれば、月の明るい夜は屋外で犯罪が増える、という研究もある(※10)。米国のフロリダ国際大学の研究者は、これまでの研究は屋内と屋外を混在させていたと批判し、屋外で起きた犯罪に限ってデータを分析すると、月齢と犯罪との間に相関関係があることがわかった、と言う。
満月の夜に多いバイク死亡事故
そうした月と事故の関係で新たな研究が英国の医学雑誌『BMJ』に出た。月と交通事故との関係は、なぜかカナダの研究者が精力的にやっているが、これもカナダのトロント大学の研究者によるものだ(※11)。
彼らは、1975年から2014年までの40年間、米国のバイク事故による死亡者数(1万3029人)を調べた。これらの事故死者は、1482件の夜間(夕方16時から翌朝8時)の事故で亡くなっている方たちだ。
彼らの多くは、大排気量のロードバイクにノーヘルで乗り、農村部を走行中に対物か車かに正面衝突して亡くなった男性(中央値年齢32歳)だった。そして1万3029人中、4494人が494日の満月の夜(スーパームーン65夜を含む)に事故に遭い、それ以外の8535人は満月以外の988日の夜に事故に遭っていたことがわかった、と言う。
この数字を分析したところ、満月の夜には9.1人が、それ以外の夜には8.6人が事故死していた。約5%の増加になるが、これは40年間の満月の夜に226人多く亡くなっている計算になる。
また、特にスーパームーンの夜の事故死者が目立ち、65回のスーパームーンの夜に703人が事故死していることがわかった。これは満月以外の夜に比べると約22%も死亡リスクが増えていることになる。
もちろん、満月の日は晴れた夜ばかりではないし、空に月が出ていない夜もある。曜日や季節の影響もあるだろうし、事故に遭った運転者の技能のレベルもわからない。だが、スーパームーンの夜の死亡率の高さでもわかるとおり、月に惹かれたバイク乗りの気が散ることは予想できる。
これまでの交通事故を対象にした研究は、バイクを含めた自動車や歩行者などの全体を調べたものが多かった。今回の研究は、満月の夜に屋外で犯罪が増えるという研究と同じようにバイク事故に絞っていて、今後の研究で特定の事象や対象、状況などと月齢との相関を調べれば、何らかの因果関係がわかってくるかもしれない。
バイクに限らず、若く未熟な運転者が事故を起こしやすいことはよく知られている。彼らは特に終末や夜間、悪天候時、仲間と一緒のときによく事故を起こすようだ(※12)。警視庁交通企画課の資料によれば、自動二輪車の死亡事故は、観光娯楽といったドライブの際、都市部の運転者が近隣の道府県に行って起こす割合が多い。
満月と言えば都会の夜はとても明るくなっている。夜間照明が強くなり過ぎたせいだ。そのため、月光の影響があったとしても、以前よりは弱められている可能性がある(※13)。逆に言えば、都会ではなく夜の暗い地方などの場合、予期せぬ月光のせいで何らかの影響が出るかもしれない。
例えば、交通事故と月齢の関係の調査から、事故が新月に多く満月になると最も少なくなる、という四国の某県警による報告もあるようだ。夜の街路が暗くなる四国という土地柄もあり、満月の明るさが事故を減らしていることも予想される。
直近の満月は、2018年正月2日と1月31日だ。特に正月2日の満月はスーパームーンとなる。初詣ツーリングや走り初めでは、月に気を取られず、夜間の走行に十分に注意して欲しい。
※1:M A. Riva, et al., "The Disease of the Moon: The Linguistic and Pathological Evolution of the English Term “Lunatic”." Journal of the History of the Neurosciences, Vol.20, Issue1, 2011
※2:Susan D. DeVoge, et al., "Moon Phases and Crisis Calls: A Spurious Relationship." Psychological Reports, Vol.40, Issue2, 1997
※3:Mikelis Bickis, et al., "Crisis Calls and Temporal and Lunar Variables: A Comprehensive Examination." The Journal of Psychology, Vol.129, Issue6, 1995
※4:W H. Laverty, "Cyclical Calendar and Lunar Patterns in Automobile Property Accidents and Injury Accidents." Perceptual and Motor Skills, Vol.86, 1998
※5:V M. Mathew, et al., "Attempted suicide and the lunar cycle." Psycological Reports, Vol.68, 927-930, 1991
※6:Teresa Biermann, et al., "Relationship between lunar phases and serious crimes of battery: a population-based study." Comprehensive Psychiatry, Vol.50, Issue6, 573-577, 2009
※7:David A. Thompson, et al., "The full moon and ED patient volumes: Unearthing a myth." The American Journal of Emergency Medicine, Vol.14, Issue2, 161-164, 1996
※8:Nicholas Kollerstrom, et al., "Sex difference in response to stress by lunar month: A pilot study of four years' crisis-call frequency." BMC Psychiatry, Vol.3, 20, 2003
※9:Chanchal Bhattacharjee, et al., "Do animals bite more during a full moon? Retrospective observational analysis." BMJ, Vol.321, 1559, 2000
※10:Lisa Stolzenberg, et al., "A Hunter’s Moon: the Effect of Moon Illumination on Outdoor Crime." American Journal of Criminal Justice, Vol.42, 188-197, 2016
※11:Donald A. Redelmeier, et al., "The full moon and motorcycle related mortality: population based double control study." BMJ, Vol.359, j5367, 2017
※12:Lyndel J. Bates, et al., "Factors Contributing to Crashes among Young Drivers." Sultan Qaboos University Medical Journal, Vol.14(3), 2014
※13:Charles L. Raison, et al., "The moon and madness reconsidered." Jounal of Affective Disorders, Vol.53, Issue1, 99-106, 1999