死角を「見える化」して事故を防ぐ 〜子どもが保護者や知人に轢かれる事故を予防するために〜
「死角」とは何か
死角とは、ある位置や立場からは観察できない、どうしても見えない範囲とされている。「死角」という単語の中に「死」が入っているように、見えないと死に至ることがある。
自動車には必ず死角が生ずる。前方死角、側方死角、後方死角、ピラー(ルーフを支えている車の支柱)による死角、サイドミラーの死角などがある。自動車の死角に関しては、ネット上などでたくさんの資料を見ることができる。
保護者や知人の車に轢かれて子どもが死亡
2018年11月17日、釜石市で父親の運転する車に3歳児が轢かれて死亡した。7月にも記事を書いたが、また起こってしまった。7月の記事で紹介した件も含め、最近の同様な事故死の例を振り返ってみよう。
◆2018年5月1日 兵庫県加古川市 母親が自宅駐車場から車を出す際に、車の前にいた1才女児が轢かれて死亡。
◆2018年5月20日 群馬県沼田市 自宅敷地内の車庫から車を出そうと母親が車をバックさせた際、2歳男児がはねられて死亡。
◆2018年6月16日 愛知県岡崎市 自宅前の道路で、父親が駐車場から出した車にはねられて、4歳男児が死亡。
◆2018年7月13日 滋賀県湖南市 塾に子ども3人を車で迎えにきた母親が、3人のうち2人が乗ったところで車を発進させ、車外にいた3歳女児が轢かれて死亡。
◆2018年7月18日 大阪府大東市 保育園に隣接する駐車場で、他の園児の保護者が運転する車に轢かれ、2歳女児が死亡。
◆2018年7月21日 千葉県市川市 父親が自宅駐車場から車を出そうとしたところ、車の前方にいた2歳女児が轢かれて死亡。
◆2018年10月14日 兵庫県高砂市 父親が自宅駐車場から車を出したところ、2歳男児が轢かれて死亡。
こうして列記してみると、ほぼ毎月、死亡事故が起こっているではないか!
これまでの対策は
車を発進させる前や駐車時には、子どもがいないか目視で確認すること、ピラーで見えない死角を減らすように頭を動かすこと、他の車が作る死角、交差点の死角、車線変更時に後方車が作る死角を予測することなどが勧められている。これらは、すべて運転者が意図して行わなければならない。現実には、急に状況が変化したり、急いで対応する場合などに事故が発生している。正確なデータはないが、保護者らの自動車に子どもが轢かれる事故の発生件数は減っているようには思われない。このような悲惨な事故を防ぐためには、人の努力だけでなく、センサやカメラなどの機器を活用することが不可欠である。
アメリカの状況は
アメリカでは、2018年5月から新たに販売、あるいはリースとなる約4.5トン以下の車両は、運転者が後方を画像で見ることができる装置を設置することを義務付けた。その経緯についてNational Highway Traffic Safety Administration(NHTSA:米国運輸省道路交通安全局)の文書(2014年3月31日付)を見ると、自動車がバックしたときの事故で、平均すると1年間に210人が死亡し、15,000人がけがをしており、そのうち5歳以下が31%、70歳以上が26%を占め、後方視ができる装置を自動車につければ毎年58〜69人の命が救われると試算している。その文書の中で、わが国の国交大臣にあたる運輸省長官は「こういう事故は本当に悲劇だ」と述べ、自動車がバックしたときの死傷事故を予防するため、2018年5月から装置を義務付けることとしたと記載されていた。
わが国の状況は
わが国でも、ミリ波レーダーやカメラなどのセンサによって前方を検知し、車両や歩行者を認識して自動でブレーキをかけるシステムが導入された自動車について検証が行われ、1万台当たりの事故発生件数は、全体としては61%減、追突事故については84%減少したというデータも出ている。
わが国で、国交大臣が「保護者の車に子どもが轢かれて死亡するような悲惨な事故は防がねばならない」と述べたことはないのではないか。
子どもを検知するシステムとは
センサを実際に使用してもらわなければ、また同じ事故が起こる。具体的にどのような製品があるのかを産業技術総合研究所の北村 光司さんに調べてもらった。
Q:子どもを検知する機器の原理は、どのようなものですか?
A: 基本的には魚群探知機と同じような原理で、超音波などを発信してから、それが物体や人にぶつかって反射して返ってくるまでの時間を測って、その物体や人までの距離を測ります。この距離が一定距離以下になると、アラームを鳴らすなどして運転者に知らせるものです。
Q:自動車のどこに、どのようにつけるのですか?
A:自動車のバンパー、背面部、コーナーなどに取り付けます。電源の供給やアラームを鳴らすために車内に設置する機器と接続する必要があり、配線が必要なものがほとんどです。最近は、Bluetooth(無線)でスマートフォンと連動するタイプのセンサも出てきており、それらのセンサでは配線は不要です。
Q:いますぐに購入するとしたら、どれくらいの価格で、どこで取り付けることができますか?
A:センサ自体は、数千円~2,3万円程度のものが多いようです。検知できる範囲や性能によって価格は変わります。取り付けは、カー用品店や自動車整備工場などで、3万円程度で取り付けてもらえます。また、自動車のディーラーで、各自動車メーカーの純正のセンサを後付けで設置してもらうことも可能です。
メディアの役割に期待する
同じ悲惨な事故死が起こり続けている。新聞記事では事実経過だけが十行程度記載され、テレビやラジオでは1〜2分間の報道で終わってしまう。事故直後に死亡した場合はニュースになるが、事故の発生から日時が経過してからの死亡、入院して障害が残った、あるいはケガをした例は何件起こっているのかわからない。ヒヤリとした経験まで入れれば、死亡例の数百倍以上起こっているはずである。
メディアは、以下のようなシナリオで番組を作って定期的に問題提起をして、センサの必要性を国民に訴えていただきたい。
1.最近の死亡事例を列挙する
2.事故を再現したアニメーションを見せる
3.死角の実際を映像で見せ、死角の範囲を示す
・普通車の場合
・大型車の場合
・子どもを模した人形を車のそばに置いて、死角を示す
・ヒヤリとした経験がある人を取材する
4.死角をなくす具体的なツールを紹介する
・使っている人を紹介(例:ヒヤリとしたことがあったが、これを付けたら○○した)
・機器の使い勝手を取材
・機器のメーカーを取材
5.アメリカでは、死角をなくす機器を車につけることを義務化した
新しい車を買い替えるまで待つのではなく、後付けですぐにつけること
6.日本でも、自動車メーカー、国交省が早急に対応を検討する必要がある
・自動車メーカーの意見を聞く
・国交省、国交大臣の見解を聞く
・モニター等の設置に対する補助金の検討
おわりに
子どもが保護者の車に轢かれて死亡するニュースはもう聞きたくない。同じ事故が起こり続けているのは、対策が不十分だからである。現在、予防可能なツールは存在している。メディアを通して、そのツールの存在を広く国民に知らせ、なるべく早く自動車に設置する必要がある。その有効性が確認できたなら、センサやモニターを規格化し、その設置を義務化すべきである。