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北朝鮮に先制攻撃をすべきはアメリカではなく日本

山田順作家、ジャーナリスト
太陽節で兵士たちに手を振る金正恩(写真:ロイター/アフロ)

北朝鮮クライシスに対する報道フィーバーが下火になってきた。この間、さまざまな観測、意見が飛び交ったが、事態はきわめて当たり前の展開を見せているようだ。

つまり、すわ開戦かと日本のメディアが煽ったにもかかわらず、アメリカも北朝鮮もこれまで通りに振る舞ったにすぎない。ただ、どちらかと言えば、空母打撃群や中国を使った脅迫にもかかわらず、金正恩は相変わらずミサイルを発射し、アメリカ人の人質を取ったりしているので、トランプの「負け」に等しいだろう。脅しは利かなかったのだ。

この史上最低のアメリカ大統領は、安全保障、自由と人権、民主主義などと、経済や貿易、自分のメンツをいっしょくたにしてトレードしてしまうのだから、どうしようもない。本来、こうしたものは取引できないはずだ。

中国がちょっと言うことを聞いてくれれば、すぐに「よくやってくれている」だから、あきれる。逆に習近平の術中にはまっている可能性がある。

トランプは中国に対して、北朝鮮が核・ミサイル開発を放棄すれば金正恩をアメリカに招いて首脳会談に応じ、北朝鮮への武力侵攻などもしないとの方針を説明したという報道(5月8日『日経新聞』)があったが、これは本当なのだろうか?

また、中国は、北朝鮮説得の見返りに、対中強硬姿勢を示すハリス米太平洋軍司令官の更迭を求めたという報道(5月6日『共同』)もあったが、これは本当なのだろうか?(中国側は強く否定した)

いずれにせよ、これまで北朝鮮を保護し続けてきた中国は、ここにきて態度を豹変させているという。これに対し、北朝鮮も反発している。ただ、これが出来レースでないという証拠はない。

こうしたなか、『聯合ニュース』の9日の報道では、北朝鮮外務省で対米交渉や核問題を担当する崔善姫北米局長とアメリカの元政府高官らは、8日からノルウェーのオスロで非公式接触を始めたという。結局、北の話を聞くのだから、トランプは北を無視し続けたオバマより、日本にとって最悪かもしれない。

これまでいろいろなことが言われてきたが、定説化しているのが、結局、アメリカは北を攻撃できないということだ。なぜなら、北の反撃にあって、ソウル首都圏は火の海になり、大きな犠牲が出るからだ。

こうして、結局、なにも変わらずに、今回も時間だけがたっていくだけだろう。

となると、今回のこと、そして将来にわたってもっともソンするというか、最悪の状況に晒され続けるのが、わが国である。

なぜなら、日本はすでに北の中距離ミサイルの射程に入っているからだ。核を積んで打ち込まれたら、どうなるのか? BMDで全部撃ち落とせるという保証はない。

この点、アメリカはICBMが開発されない限り、北など脅威でもなんでもない。つまり、「先制攻撃」をもっともしなければいけないのはアメリカではなく日本である。

これは先制攻撃をしろと言っているわけでない。その能力を持たない限り、北の脅しに屈しなければならないということ。つまり、抑止力を持てということだ。残念ながら、いまの自衛隊にはこの能力がない。

万が一、アメリカが日本を守らないとしたらと考えたとき、この選択をしておかない限り、国家は崩壊する。日米同盟は軍事同盟だが、軍事同盟が守られるかどうかはそのときになってみなければわからない。

これは対中国に関しても言える。中国と日本が紛争状態になったとき、いくら日米同盟があろうと、尖閣は日米安保の適用内だろうと、アメリカが中国に参戦するはずがない。なぜ、アメリカにとって取るに足らない小さな岩にすぎない島のために、戦争をする必要があるのか?

これは、昨年、外交専門誌『フォーリンポリシー』に載ったシミュレーション記事でも明らかだ。この記事では、アメリカが参戦しないため、日本はわずか5日で中国に敗れるとなっている。

じつは、日本にとって北朝鮮よりはるかに脅威なのが、中国であり、中国の中距離ミサイルの射程内に日本全土が入っていることだろう。北京は地上発射型の中距離ミサイルでいつでも東京を破壊できる。これに対する抑止力は、日本自身にはない。

アメリカは旧ソ連との間にINF(中距離核戦力全廃条約)を結んでしまったために、地上発射型の中距離ミサイルを保持できない。したがって、西太平洋地域での中距離核戦力では、空中発射型、艦上発射型しか使えず、不利な状況にある。だから、対中戦争を想定した「エアシーバトル戦略」では、第7艦隊などの海軍戦力はいったん第二列島線の外まで引いてしまう。日本など、守ってくれないのだ。

日本のメディア報道だと、前記したように、アメリカは犠牲が大きすぎるので、北朝鮮を先制攻撃できないとなっている。たしかに、トランプのように自分の名声にしか興味のない“オレさま”大統領にはできないだろう。

しかし、「やれ」と主張する人間はいる。その筆頭が、マケイン上院議員とともに共和党穏健派を代表するリンゼー・グラム上院議員(サウスカロライナ選出)だ。彼は、昨年の予備選に出たが、トランプに「取るに足りない人間」と罵られ、4~5年前に電話をかけてきて選挙運動の資金として献金を依頼してきたことを暴露された。

そして、「なんなんだ、この男は。物乞いか?」とバカにされ、携帯電話の番号を聴衆の前で読み上げられ、「みんな、奴に電話をかけろ」とまで言われたのである。

なんで、こんなトランプが大統領になってしまったのか不思議だが、グラム議員は、トランプと比べたら、よほどアメリカ人らしい。両親が早くに亡くなり、幼い妹の面倒を見ながら大学で勉強したグラムは、人いちばい愛国心が強い。

したがって、トランプがシリアにミサイルを撃ったこと、北朝鮮に対してあらゆるカードがあるとしたことで、トランプを擁護したが、それでは生ぬるいとしている。

グラム議員は、『デイリーメール』のインタビューに対して、大統領は米本土を守る責任があるとし、北を攻撃せよと主張している。そして、「それが韓国、日本、中国にとって悪いことでも」やるべきというのだ。なぜなら、北との戦争は、「ここではなく向こうでやるのだから」と言っている。要するに、日本や韓国などの犠牲は厭わないと言っているのだ。

これが、愛国アメリカ人の本音であろう。

さて、最後に、日本の選択について書いておきたい。これは、日本国憲法、安保法制などの制約を考慮していない。なぜなら、国内法にしたがって安全保障政策を行うことは、国が滅びることに直結するからだ。

あなたは、次の3択のうちどれを選ぶだろうか?

(1) なにもしないで放置、現状維持(=すべてアメリカにまかせる)。

(2) 北に降伏して経済制裁をすべて解除し、大規模援助して核開発および日本に打ち込めるミサイル開発を止めてもらう。

(3) 北を先制攻撃して核関連施設を含めたすべてのミサイル基地を破壊する。

このうち(2)と(3)は、戦略家のエドワード・ルトワック氏が提言していることだ(文春ウエブ)。

しかし、(3)ではまだ生ぬるい。地政学から言えば、朝鮮半島が「反日」であることが、日本の安全保障にとってもっとも脅威である。

とすれば日本とって最前のかたちは、韓国も北朝鮮も「親日」にするか、日本のコントロール下に置くことである。とすると、次のような戦略をもありえる。

(4)北朝鮮と和解し、大規模援助をして抱き込み、中国と決定的に仲違いをさせ、核とミサイルを北京に向けさせる。

日本の本当の脅威は北朝鮮ではなく中国である。したがって、中国の核に対する抑止力を持つには、アメリカの核の傘だけでいいとは言い切れない。となると、最終的には、核武装が必要になる。

(5)早急に核武装し、独自の中距離ミサイルを開発・配備して対中抑止力とする。

いずれにせよ、トランプ大統領にいくら気にいられようと、日本の安全は保障されない。これだけはたしかだと思う。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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