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世界一のクリスマスツリーは「営利」ではないのか?

田中淳夫森林ジャーナリスト

 神戸市のメリケンパークに「世界一のクリスマスツリー」を立てられた。神戸開港150年記念事業なんだそうだ。

 使われたのが、富山県氷見市の山中から出された高さ約30メートル、直径約1メートル、重さ約24トン、推定樹齢約150年のアスナロ(ヒバ)である。

 この件に関するテレビや新聞の報道は、おおむね好意的に感じるのだが、ネット界では喧々囂々、だいたいは批判的で罵詈雑言も目に留まる。

 巨樹をわざわざ山から運び出して一過性のツリーにしたうえに、最後は小さく刻んでしまうのがケシカラン。プロジェクトを進めた西畠清順氏がアスナロを「落ちこぼれの木」とか言ったのがケシカラン、クリスマス後に小さく刻んで記念品にするというのはケシカラン……等々。

 私自身は、「世界一のクリスマスツリー」にたいして興味はなく批判もしていないのだが、西畠氏がこの「騒ぎ」に関して発表したメッセージを目にした。

'''あすなろの木について寄せられるご意見等について'''~清順より大切なメッセージ~

 いくつか誤解を生んだ点を説明している。「ご神木ではない」「根ごと運んだ理由」等々。それはいいのだが、その一節に

「営利目的ではありません。そして、あすなろのその後について。」

とある。つまり非営利の事業であり、このプロジェクトを行ったことによって自分は億単位の赤字を背負うこと……とある。

 これはイカンだろう。関係者皆がしっかり利益を上げてこそ、この木が活きるのではないか。(本当に億単位の赤字が生じるのなら、倒産しかねない。おそらく元を取る算段はしているはずだ……。)

 このメッセージによると、事業総費用は約3億円で、アスナロの木は60万~100万円だという(はっきりした額を知らないのはどうかと思う)。ヒノキなら300万~400万になったかも、とある。

 たしかにアスナロは、そんなに高価格の木ではない。ただ腐りにくく、木の香りが強く、強度もあり、非常に優れた木だ。それなのに木肌がヒノキほどきれいではないというだけで価格が落ちてしまう。

 現在、林業界で最大の問題は、材価の下落だ。どんどん価格が落ちて、一頃の3分の1ぐらいになってしまった。そのため森林経営が立ち行かなくなった山主は数多い。しかも太い木ほど価格が安くなるという現象さえ起きている。太すぎると製材機に入らないからだ。

 何十年、ときに何百年もその木を育て守った山主が受け取る金額があまりに少ないと、森をつくり守る気概が失せるだろう。伐った跡地に再造林もできない。

 だから、このアスナロの巨木に敬意を表するなら、十分な金額で買い取ることが山のためになったのではないか。

 そして山主だけでなく、森から掘り出した人、運搬に関わった人、そして企画した自身も含めて、みんながそこそこの利益を上げてほしい。ぼろ儲けは困るが。

「営利事業ではない」と威張られたら、森づくりをする人はいなくなる。ちゃんと収支が合うことを示してほしい。そして、みんなが幸せになれる程度の利益が上がることを示すプロジェクトであってほしかった。

 ちなみに樹齢150年くらいの木は全国でいくらでも出荷されている。巨樹だから問題なのではない。

 使い道が一過性なのも、世間にあふれている。紙にしたら誰も読まないまま捨てられる量は莫大だし、バイオマス発電の燃料だとか言って山の木を全部伐りだしては燃やしている。発電のためにはげ山を作る行為こそ、犯罪行為だと私は思うのだが。

 あと、もう一つ引っかかる点がある。キリスト教の行事であるクリスマスのツリーにした後は、神社の鳥居にすると決まっているとあることだ。これって、宗教を超越しているよ(苦笑)。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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