なぜレアルはエムバペを獲得しなかったのか?ベリンガムの躍動…アンチェロッティとペレスのプラン。
現在のメンバーに対する信頼は、揺らいでいないということだろう。
この夏、大きな注目を集めたのがエムバペの去就だ。昨夏、パリ・サンジェルマンと契約延長を行ったエムバペだが、契約延長オプションを行使しない旨をクラブに通達し、移籍をほのめかした。
そして、エムバペの移籍先の筆頭候補として挙げられていたのが、レアル・マドリーである。
■ビッグサマーにはならず
マドリーは今夏、静かな夏を過ごしたと言える。ジュード・ベリンガム(移籍金1億300万ユーロ/約162億円)、アルダ・ギュレル(移籍金2000万ユーロ/約31億円)、フラン・ガルシア(移籍金500万ユーロ/約8億円)、ブライム・ディアス(レンタルバック)、ケパ・アリサバラガ(レンタル)、ホセル(レンタル)らを獲得。ベリンガムの獲得に高額な移籍金を支払ったとはいえ、「ビッグサマー」とはならなかった。
それでもエムバペにマドリー移籍の噂が立っていたのには理由がある。マドリーは昨季終了時にカリム・ベンゼマが退団。背番号9が、空いたままになっているのだ。
初夏の段階では、ハリー・ケインの獲得が検討されていた。カルロ・アンチェロッティ監督はケインを高く評価していた。だが30歳という年齢、将来的な売却の難しさ、トッテナムのダニエル・レヴィ会長とのタフな交渉、そういった要因がマドリーのケイン獲得の態度を消極的にさせた。
またマドリーは2024年夏にエンドリック(パルメイラス)が正式に加入する。ブラジルのヤングタレントを確保している状況で、この夏に関しては「お金を貯めておく」という選択肢を採った。
■ペレスの考えと若返り
マドリーは現在、世代交代を進めている。
この夏のベリンガム(20歳)の獲得を筆頭に、近年、オウレリアン・チュアメニ(2022年夏加入/23歳)、エドゥアルド・カマヴィンガ(2021年夏加入/20歳)と若き才能を引き入れてきた。
フェデリコ・バルベルデ(25歳)、ヴィニシウス・ジュニオール(23歳)、ロドリゴ・ゴエス(22歳)を含めれば、今季のマドリーのスタメンにおいて、中盤から前線にかけての選手は25歳以下で構成されている。
マドリーはこの数年、若い選手を積極的に獲得してきた。それがクラブの、フロレンティーノ・ペレス会長の考えである。なぜかと言えば、彼らに育成の余地があるからだ。
また、成長次第で、将来的な売却が見込める。獲得した時以上の「値段」で売る、というのが十分に可能なのだ。
■守護神の代役のみ確保
このプレシーズンにおいては、ティボ・クルトワが負傷した。加えて、ラ・リーガ開幕後、エデル・ミリトン、ヴィニシウスが相次いで負傷している。クルトワとミリトンに至っては、長期離脱が見込まれている。
だがマドリーが獲得に動いたのは、ケパのみだった。大型補強を敢行しなくても、タイトルを獲得できるという自信がそこからは窺える。
「世代交代は次のシーズンから始まるわけではない。私の就任前から、始まっていた」とは昨季終盤にアンチェロッティ監督が残したコメントだ。
「このメンバーは、素晴らしいことを成し遂げてきた。しかし、2018年にクリスティアーノ・ロナウドが去ってから、少しずつ選手がいなくなっていった。以降、若い選手が到着するようになった。彼らにもまた、高いクオリティがあった」
「世代交代はすでにスタートしていたんだ。次のシーズンも変わらない。若い選手たちが徐々に主役になっていき、ベテランの選手たちは少し活躍の場が減るだろう。それは私の就任前から始まっていたことで、今後数年、続くと思う」
Transición dulce(トランジション・ドゥルセ)、「甘美なる移行」という形容を用いたのはビセンテ・デル・ボスケ監督だったか。彼はスペイン代表で世代交代に腐心していた。
マドリーは、アンチェロッティ監督またペレス会長は、甘美なる移行を実践している。その路線に、この夏、エムバペは入ってこなかった。
次の夏は、分からない。だがマドリーの哲学は、変わらないようにみえるのだ。