なぜエムバペは移籍しなかったのか?レアルとパリSGの思惑…水面下で行われた駆け引き。
ビッグディール実現には、至らなかった。
今夏、大きな注目を集めたのがキリアン・エムバペの去就だ。昨夏、パリ・サンジェルマンと2年+1年延長オプションという条件で契約延長を行ったエムバペだが、その契約延長オプションを行使しない旨をクラブに通達。移籍の噂が加速していた。
■プレシーズンツアーに帯同せず
「我々は世界最高の選手をフリーで移籍させるつもりはない。エムバペは、1週間か2週間で決めなければいけない。(移籍の)扉は開かれている」
エムバペが契約延長オプションを行使しないと知った後、アル・ケライフィ会長はこのように語っている。
事実、パリSGはプレシーズンツアーにエムバペを帯同させなかった。チームがフランスに戻ってからも、トップチームでの練習には参加させず。リーグ・アンの開幕節でもスタンド観戦を命じた。
■ネイマールのサウジアラビア移籍
風向きが変わったのは、移籍市場が終盤を迎えた頃だ。ネイマールの移籍が決まったのである。
バルセロナ復帰の可能性が取り沙汰されていたネイマールだが、最終的にはアル・ヒラルからオファーが届いた。移籍金9000万ユーロ(約142億円)で合意に達し、稀代のドリブラーのサウジアラビア移籍が決定した。
ネイマールは花の都を去った。すでにリオネル・メッシのインテル・マイアミ移籍は決まっていた。ネイマール、メッシ、エムバペを一挙放出、というわけにはいかない。かくしてエムバペは2024年夏までの現行契約を全うする形で残留する運びとなった。
■レアル・マドリーの思惑
一方、この夏、エムバペの移籍先候補として挙げられていたのが、レアル・マドリーだ。
ただ、マドリーは状況を静観していた。具体的なオファーを出すことは最後までなかった。この数年で、マドリーが本気でエムバペの獲得に動いたのは2021年夏だけである。その時は移籍金2億ユーロ(約316億円)の最終オファーを出していた。
しかし、この夏はシチュエーションが異なった。「パニック・バイ」的な動きをマドリーが見せることはついぞなかったのである。
■ベリンガムの加入と布陣変更
マドリーは、この夏にジュード・ベリンガムを獲得している。移籍金1億300万ユーロ(約161億円)でボルシア・ドルトムントと合意に至り、イングランド代表のヤングタレントを確保した。
ベリンガムの加入で、カルロ・アンチェロッティ監督はシステムチェンジを断行した。【4−3−3】をやめて、【4−4−2】中盤ダイヤモンド型の布陣を採用。トップ下にベリンガムを据えて、得点力アップを図った。
アンチェロッティ監督はベリンガムに自由を与えている。ビルドアップに参加したと思えば、2列目から飛び出してゴールを狙う。ベリンガムの守備の負担を軽減するため、エドゥアルド・カマヴィンガ、フェデリコ・バルベルデ、オウレリアン・チュアメニとフィジカルベースの高い選手を後方に構えさせている。
「ベリンガムの加入で(カリム・)ベンゼマの穴を埋められるはずだ」とはアンチェロッティ監督の言葉だ。
マドリーは昨季終了時にベンゼマが退団している。アル・イテハドからビッグオファーが届き、移籍が決定した。
ホセルをエスパニョールからレンタル獲得したが、マドリーの「9番」は空席のままだ。それでも、アンチェロッティ監督はベリンガムを強く信頼しており、ベリンガムは開幕から期待に応えている。
これが、マドリーが開幕から不調で、得点力不足に喘ぐ状況であれば、「エムバペ待望論」が再び巻き起こったであろう。しかしながらマドリーは開幕から4連勝を飾り、ベリンガムはゴールを量産している。また、スペインではフットボール連盟のルイス・ルビアレス会長の辞任問題が騒がれており、それどころではなくなった。
エムバペは2024年夏にパリSGとの契約が満了する。来夏、また移籍騒動が起きる可能性は残されている。ただ、ひとまず、この夏のエムバペの物語はパリ残留で決着を見た格好である。