十字架のような奇妙な天体を新発見!珍しすぎるその正体とは
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「新発見の奇妙な天体と、その正体について」というテーマで動画をお送りしていきます。
●新発見の奇妙な天体とその正体
ストックホルム大学などの研究チームが、奇妙な形をした非常に珍しい天体を新たに発見し、その研究成果を2023年6月に発表しました。
星空のある領域にズームしていくと、このように十字架のような奇妙な形をした天体が見えてきます。
これが今回の主題である、新発見の天体です。
○新発見の天体の正体
ではこの十字架構造の正体は一体何なのでしょうか?
中心にある天体は銀河ですが、その上下左右にある4つの天体は、なんと一つの同じ天体となっています。
当然同じ天体が4カ所に実在しているわけはないのですが、なぜこのように見えているのでしょうか?
その鍵は、「重力レンズ効果」という現象にあります。
重力レンズ効果とは、特に質量が大きい天体の周囲の空間が強大な重力によって歪められている影響で、その天体の背後にある天体から地球にやってきた光の進路が歪められ、背後の天体が歪んだり明るく見えたりする現象です。
重力レンズ効果が起こると、本来地球に届かなかった光まで進路が歪められて地球に届くようになるので、本来よりも多くの光が届き、背後の光源の天体はより明るく見えます。
また、複数の経路を辿って地球に届く場合もあり、新発見の十字架構造はまさにそのようなメカニズムでレンズ銀河の上下左右4カ所に同一の天体の姿が見えています。
そしてレンズ銀河の上下左右に映る同一天体の正体は、遠方で発生したIa型超新星「SN 2022qmx」です。
SN 2022qmxはレンズ銀河により、25倍に拡大されています。
実は十字架構造の左上には、超新星が発生した銀河も映っています。
SN 2022qmxの発生源銀河は地球から約40億光年彼方にあり、レンズ銀河はだいたいその半分の距離にあるとされています。
○新発見の天体の希少性
今回の天体と非常によく似た、有名な天体が存在します。
それは「アインシュタインの十字架」という天体です。
アインシュタインの十字架では、遠方のクエーサーが、手前の銀河による重力レンズ効果で4カ所に見えています。
クエーサーの明るさの正体は、非常に遠方にある銀河の中心にある超巨大ブラックホールの周囲で輝く降着円盤などの構造であると考えられています。
超新星爆発のように数年程度で輝きが失われる一過性の現象と異なり、クエーサーは比較的長期にわたって安定して強い輝きを放ち続けます。
そのためクエーサーは比較的継続的に安定して輝き続ける天体としては、「宇宙で最も明るい天体」と表現されることも多いです。
新発見の天体に含まれる4つの光は、遠方で発生したIa型超新星「SN 2022qmx」が起源でした。
単一のクエーサーが4カ所に見えて輝くアインシュタインの十字架とは異なり、超新星由来の新発見の天体の光は数年ほどで見えなくなります。
新発見の天体は、重力レンズ効果という珍しい現象により、珍しい現象である超新星の光が歪められて地球に届いているということから、珍しい現象が2重で起きることで観測された非常に珍しい天体であると言えます。
●時差で超新星の光が到達する事例も…
超新星SN 2022qmxから放たれ、別々の経路を辿った4つの光はほぼ同時に地球に到達しました。
ですが超新星の光が複数に分かれたのち、明確な時差をもって地球に到達する事例も存在しています。
ハッブル宇宙望遠鏡は2016年、超新星「AT 2016jka」を捉えました。
この超新星の発生源天体の前方にはレンズの役割を担う巨大な銀河団があります。
重力レンズ効果によって、2016年の撮影時にはレンズ銀河団周囲の3カ所に超新星の光が出現していました。
この超新星の光は、爆発から約100億年かけて地球に到達しており、レンズの役割を担う巨大銀河団から地球までは約40億年かけて到達していると考えられています。
これらの3つの光は別々の経路を辿って地球に届いていますが、レンズ天体が巨大な銀河団であるため、光が辿った経路の長さには差があります。
短い経路を辿った超新星の光は、最初地球に届いてから少し時間が経過しています。
そのため超新星の段階が進み、他の超新星の光よりも暗く映っています。
反対に長い経路を辿った超新星の光は、地球に届いて間もないため、超新星が発生したばかりの強い光が映し出されています。
このように単一の超新星の光でも、経路差によって超新星の異なる段階が見えているわけです。
その後2019年の撮影時には、3つの光が全て消滅しています。
このことは、消滅した光が一過性の超新星爆発由来の光であることと矛盾しません。
さらにコンピュータシミュレーションの結果、もう一つ未到達の超新星の光があり、その光は2019年の撮影時の画像左上にある黄色○の部分に2037年に到来すると予想されています。
銀河団の質量分布や超新星の明るさなど、不確定な要素もあるため、到達時刻が約2,3年前後する可能性もあるようです。
このように超新星の光が辿った経路が、他の光が辿った経路より著しく長い場合、地球から見るとこのように他の超新星由来の光が見えなくなった後にもう一つの光が到来する事例も存在するわけです。
今回新発見された十字架構造のように、レンズ効果を担う天体が単一の銀河の場合だと、重力レンズ効果がそこまで強くなく、背後の天体からやってきた光の経路の距離差があまり生じません。
そのため光が現れる地点が近くなって十字架構造に見えますし、地球に光が到達する時刻もほぼ同時になります。
ということで今回は、非常に珍しい超新星の光から成る十字架構造を紹介させていただきました。