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"永遠の化学物質"PFAS 世界的に変わる飲料水基準。日本は?

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
(写真:アフロ)

健康被害や生態系への悪影響

「発がん性疑い「PFAS」汚染が広範囲に 取水停止の井戸34本、東京・多摩地域 米軍基地関連疑い」と東京新聞(2022年1月3日)が伝えている。

 PFAS(ピーファス)とは、ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物のことで、人工的に合成された有機フッ素化合物群の総称。 EUの定義では4700種類以上の物質があるとされる。

 PFASは、国内の米軍基地周辺の川や井戸などで検出されてきた。これまで嘉手納基地や普天間飛行場周辺の河川や地下水、わき水でも検出されてきた。

 PFAS は米軍基地内の泡消火剤で使用されており、2016年1月、沖縄県企業局は北谷浄水場の水源で高濃度の PFOS (ペルフルオロオクタンスルホン酸。PFASの1つ)が検出されていると公表した。

 また2021年2月に航空自衛隊那覇基地から泡消火剤が流出した事故では、指針の128倍にあたる最大6390ng/L が検出されている。

 だが、PFASが使用されるのは泡消火剤だけではない。

 耐水性、耐脂性、防汚性などに優れた特性を持つため、コーティング剤、界面活性剤、表面処理剤など様々な用途に長年使用されてきた。

 しかし、環境中で容易に分解されず、蓄積性が高く、健康被害、環境への悪影響をもたらす可能性があるため、国際的に製造や使用が制限されている。

米国の新基準はPFOS0.02ng/L以下、PFOA0.004ng/L以下

 世界的に規制が進むが、ここでは飲料水について見ていくことにしたい。

 米バイデン政権は2021年10月にPFASに関して規制を強化する方針を発表した。それを受けて米国環境保護庁(EPA)は2022年6月、新たなガイドラインを公表した。

 新ガイドラインでは、PFASの発がん性や免疫力の低下など、人体への悪影響の可能性を踏まえ、基準を大幅に強化した。

 PFASのなかでも毒性が強いとされるPFOA(ペルフルオロオクタン酸)とPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)について、飲料水として生涯摂取し続けていい濃度を表す「生涯健康勧告値」を引き下げた。

 これまでPFOSとPFOAの合計を70ng/L以下としていたが、PFOSを0.02ng/L以下、PFOAを0.004ng/L以下とした。現在、ホワイトハウス行政管理予算局(OMB)に正式に送付され検討されている。

 ECHA(欧州化学品庁)は「飲料水の水質及び飲料水と接触する材質の基準」などを定めた「飲料水指令」の改正指令を2021年1月13日に発効した。

 この指令を受けて加盟国は2年以内に国内法を改正する。 EU飲料水指令の改訂においては、全PFAS に対して0.5µg/L以下、特定の20種類のPFASの合計0.10µg/L以下という基準値が設定された。

日本はPFOS、PFOAの合計50ng/L以下だが

 日本ではどうか。水道水は、水質基準に適合するものでなければならず、水道法により、水道事業体等に検査の義務が課されている。

 水質基準以外にも、水質管理上留意すべき項目を水質管理目標設定項目、毒性評価が定まらない物質や水道水中での検出実態が明らかでない項目を要検討項目と位置づけ、必要な情報・知見の収集を行っている。

 水質基準、水質管理目標設定項目、要検討項目の関係は以下のようにまとめられている。

厚生労働省資料より筆者作成
厚生労働省資料より筆者作成

 厚生労働省は2020年4月に、PFOS、PFOAを水質管理目標設定項目に位置づけけ、暫定目標値をPFOSとPFOAの合計で50ng/L以下と設定ている。さらに2021年4月にはPFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸。PFOSやPFOAと同様の性質をもつ)も水道水の要検討項目として、新たに追加された。

 同省は今年1月中に、水道水に含有されるPFAS濃度の指針値見直しを議題として有識者会議を開く予定。環境省も厚生労働省と連携し、PFOSとPFOAに関する水質の目標値などを検討する会議、PFASの全体戦略を取りまとめる会議を立ち上げる。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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