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マス・メディアの限界とメディア・リテラシー・・・政治・政策リテラシー講座12

鈴木崇弘政策研究者、PHP総研特任フェロー

記事「マス・メディアとその役割」において、マス・メディアが社会や政治において重要であることおよびその役割について述べました。そこで指摘したように、マス・メディアは非常に重要な社会的な役割や機能を果たしているのです。

しかしながら、マス・メディアは、多くの問題点や制約・課題も抱えているのです。

まず、マス・メディアは、紙面の大きさや番組の時間的制約などから、世の中で起きていることのありとあらゆることを伝えることをできません。そのために、起きている事柄のほんの一部を編集して、読者や視聴者の興味を引くために、興味深く伝えようとします。購読者数や視聴率が、ビジネス的にも重要だからです。このために、どうしても偏りや特定の傾向に陥ることがあるのです。

また書き手や作り手は人であるので、どうしても先入観が入ったり、政府を含めた情報提供者の意図などが反映されてしまうこともあります。

そしてほとんどの新聞や雑誌、あるいはテレビやラジオは、スポンサーやCMなどを通じての資金提供で発行や運営がなされているために、スポンサーの意志やそれへの配慮などにより、提供情報が影響されることもあります。

またマス・メディアと行政や政治家などとの関係は、記者クラブ制度(注1)や番記者制度(注2)などに象徴されるように、非常に密接であり、相互依存的側面があるために、公平な報道がなされない危険性もあるわけです。

さらに最近はマス・メディアが、巨大組織化し、官僚主義的(注3)になっていたり、社会的意識が薄れてきていると指摘されたり、SNSやウェブ・メディア(注4)などの機動力や速報性・多様性などと比べて、優位性が低下してきている面もあります。

このように考えると、マス・メディアは非常に重要で有効なものですが、一方的に信じてしますのではなく、注意深くかつ慎重に、何が本物の情報か否かを見極めながら、扱っていくことが必要なようです。受け手である、私たち一人ひとりが自分の頭と目を使って、確かめていくことが必要なのです。その意味で、そのようにメディアの真偽を見極めるための素養であり力である「メディア・リテラシー」(注5)が必要なのです。

とはいっても、そのリテラシーの習得は、そんなに簡単ではありません。

日ごろから、社会の様々な情報に関心をもつことがまず大切です。複数の新聞や雑誌を読み比べたり、複数のテレビ番組を見比べて、その同じ点や相違点に関心を払ったり、それらの情報をネットでさらに調べて比較するようなことも、そのリタラシーを磨いていく上で大切です。

また視点や指摘が優れている筆者や話者に日ごろから関心をもち決めておいて、定点観測的にそれらの方々の意見などをチェックしておくことも、マス・メディアからの情報の真偽を見極める上で大いに役立ちます。

以上述べてきたような視点を理解した上で、改めてマス・メディアに接してみてください。きっと違ったものに見えてくると思いますよ。

(注1) 省庁や自治体など公的機関や業界団体などの組織を継続的に取材する目的として、主に大手メディアなどが中心となって構成されている任意組織のことです。公的機関も、それを通じて情報提供を行い、情報管理をしていることもあります。またそれに属すことのできないメディアへの情報提供は排除される場合が多いのです。これらのために、マスコミと官庁の癒着の温床ともなっているといわれることもあります。

(注2) 特定の議員などの特定の取材対象者に密着して取材する記者のことです。密着することで普段は得られない重要な情報を得られるなどのメリットもあrますが、特定取材者と記者が癒着したりして、報道が偏向するような問題が起こることもあります。

(注3) 官僚主義とは、「組織で働く職員が、個別のケースに対して独自の裁量と責任

で行動するのではなく、規則や前例、建前論を根拠に、画一的、形式的な対応をすること。被害を受ける側からは、しばしば傲慢で独善的に見える」(出典:はてなキーワード)ことを指します。

(注4) これらのメディアも、偏っていたり、間違った情報も多く、質が問題であったり、

玉石混交で、多くの問題と課題があります。またSNS(social networking service)は、「個人間のコミュニケーションを促進し、社会的なネットワークの構築を支援する、インターネットを利用したサービスのこと。趣味、職業、居住地域などを同じくする個人同士のコミュニティーを容易に構築できる場を提供している」(出典:kotobank)ものを指す。

(注5) メディア・リテラシーとは、「情報が流通する媒体(メディア)を使いこなす能力。メディアの 特性や利用方法を理解し、適切な手段で自分の考えを他者に伝達し、あるいは、 メディアを流れる情報を取捨選択して活用する能力のこと」(出典:IT用語辞典e-Words)です。

政策研究者、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。経済安全保障経営センター研究主幹等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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