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株価もGDPも地価も個人資産も大幅下落。もういい加減、誰かアベノミクスを止めてほしい!

山田順作家、ジャーナリスト

■『花子とアン』のエンディングよりあきれるアベノミクス

『花子とアン』のエンディングにあきれ果てて、その後、なにかもの哀しくなってしまった。いまもなおその後遺症が続いている。ホント、なんとかならなかったのだろうか? 最終週に登場した脳科学者の演技にあきれ、年を取っても若いときと同じ演技でとおすヒロインにあきれ、出版記念会の学芸会的演出にあきれ、余りに「あきれ」が多すぎて、番組終了後は、1時間は呆然としていた。「命がけの本の出版記念会で客をほったらかして家に帰り、続編の翻訳を始める」なんて作家がいるわけがない。

せめて、本を持って故郷・甲府に帰り、そこで「おとう」の墓に行ってほしかった。そこに麦藁帽子が飛んできたほうが、どんなにすっきりしたことか。

というわけで、本題のアベノミクスだが、こちらはもう、もっとあきれ果てるとしか言いようがない事態になってきた。安倍首相が力強く言ってきたことは、なにも起っていないばかりか、日本経済はどんどん悪化しているからだ。

■ドルベースでは下がり続けている株価

なんといっても、最近は、株価が下がり続けている。下がっていると言うと「まさか?」と思うかもしれないが、ドルベースで見れば、この7月から下がっている。なぜなら、この1カ月で急激な円安が進んだからだ。

株価は、9月19日には6年10カ月ぶりの高値を付け、25日には1万6374円と今年最高値を更新した。しかし、上がったといってもそれは円ベースの話だ。円安が進んだので、その分を換算すれば下がっている。

1ドル109円でドル換算すれば、株価は約150ドルにすぎない。

株価は、高値をつけた9月25日の2カ月前の7月25日は、1万5457円だった。このときは、1ドル101円だったので、ドル換算すると153ドルとなる。つまり、ドルベースでは日本の株価は下がっていているのだ。

日本のメディアは、日本円だけでモノを見るから、これを「株が上がっている」とし、短絡的に景気がよくなっていると考えているようだ。

しかし、現在のグローバル経済のなかでは、こんな見方は無意味だ。すべて、ドルベースで見なければならない。

■GDPはなんと1兆ドル(約100兆円)も減ってしまった

世界中の資産は、ほとんどがドルベースで評価される。これは、ドルが基軸通貨だけに当然のことだ。

これは、GDPだって同じだ。

以下、この3年間の日本の名目GDPの推移(2014年はIMFによる推計)を示すと、次のようになっている。

2012年473兆7771億円

2013年478兆3682億円

2014年492兆3952億円

少しずつだが、確実にGDPが増えているのがわかる。ところが、これをドルベースにすると、どうなるだろうか?

2012年5兆9378億ドル

2013年4兆9015億ドル 

2014年4兆8463億ドル

なんと、アベノミクスが始まる前、円が1ドル70円台の「円高」だったときは、約5兆9000億ドルあったGDPは、いまや約4兆8500億ドルと、1兆ドルも吹き飛んでいるのだ。日本の富は、ドルベースでは大幅に失われてしまったのである。

■住宅資産の価値はなんと30%も下落

さらに資産ということで言えば、日本の住宅資産もどんどん下がっている。これまでずっと下落してきたところに、円安がやってきたのだから、ドルベースでは2012年から30%近くは下落している。

この9月18日、国土交通省は7月1日時点の基準地価を公表した。それによると、《三大都市圏(東京、大阪、名古屋)の住宅地はリーマン・ショック前の2008年以来6年ぶりに上昇に転換。商業地も2年連続で上昇。ただし、地方は下落が止まっていない》ということになる。

ところが、上昇といっても、三大都市圏の住宅地の上昇率はたったの0.5%である。とすると、円のドルに対する下落率は30%近いのだから、1億円の住宅資産は円では1億50万円になったが、ドルでは100万ドルが70万ドルという、とんでもなく下落したことになる。

4月の消費税増税を前にして首都圏マンションには大きな駆け込み需要が発生した。その反動で、8月の首都圏マンションの発売戸数は大きく落ち込んだ。そのうえに、ドルベースで資産価値がどんどん下がっていることを加味すれば、日本の住宅資産の価値は、じつはとんでもなく下落していることになる。

■官制相場によってさらに富は失われる

安倍首相と政府は、株価を見て政治をしていると言われている。株価が上がれば、支持率も下がらず、アベノミクスは成功していると考えているという。

だから、最近では運用資産127兆円を誇る世界最大級の機関投資家GPIFの資金や、そのほかの準公的資金を株価につぎ込んでいる。ドルベースで見て魅力のない市場では、外国人投資家の食指は動かない。だから、いまの株式市場は、完全な「官制相場」になってしまっている。

その官制相場が、為替によって目減りしているのだから、もう目も当てられない。しかも、政府は4 〜6月期のGDP成長率の落ち込みが想定以上に悪かったので、10兆円規模の補正予算まで組む話になってきた。

こうなると、アベノミクスというのは、単なるバラマキでしかない。もういい加減でこれを止めないと、日本は大変なことになりかねないだろう。

ここで、再度株価に話を戻して、ここ10年の日本の株価の推移を見ると、ドルベースの日本の株価が150ドルを越えて維持され続けたことはない。つまり、150ドルが日本の株価の上限と考えていい。

とすると、たとえば、一部に株価が1万8000円台まで上昇するとの見方があるので、ここまで行くと仮定すれば、ドルベースの株価が150ドルとすれば、円は1ドル120円になることになる。

おそらく政府は、今後も株価を上げなければ、年末の消費税の再増税を決められなくなると考えている。そうすると、さらに資金が株価につぎ込まれる。

これは、日本の富がさらに失われることを意味する。

■貿易赤字深刻、日本は中国という稼げる国まで失った!

株価、住宅資産だけではない、日本人の個人資産も大幅に目減りしている。そのうえ、アベノミクスになってからは、日本の貿易赤字は拡大の一途となり、経常収支までマイナスに転じている。

安倍首相が登場する前、日本は中国貿易でかなりの黒字を稼いでいた。鳩山政権当時は、約4兆円の史上最高の対中貿易の黒字を稼いでいた。それが2013年は、1兆円の赤字に転落した。

日本は、中国という稼げる国まで失ってしまったのだ。こうなると、中国から安い雑貨や食糧などの輸入で支えて来た庶民生活は、破壊される可能性がある。

円ベースで株価が上がって潤うのは、一部の大企業と、円ベースでしか投資していない一部富裕層だけだ。アベノミクスは金融・財政のトリックで、その本質は旧来の自民党の“バラまき政治”である。

■アベノミクスでいったいなにが変ったのか?

現在、消費税の再増税をするべきかどうかの議論が盛んに行われている。しかし、日本の官僚システムは1度決めたことは、ほぼ確実に実行する。変更はほぼありえない。

「首相が年末までに最終判断する」という約束事から言えば、その日は7~9月期のGDP成長率の修正値が出る12月8日過ぎだ。

そのときまで議論は続くだろうが、それはどう見ても茶番としか思えない。

アベノミクスが始まって、そろそろ2年になろうとしている。しかし、いったいなにが変ったのだろうか? 本当に日本経済はよくなっているのか? 規制緩和のような改革はかけ声と議論だけで、なにかが本当に行われたのだろうか? もっとも肝心な「第三の矢」は、いつ放たれるのだろうか?

誰かアベノミクスを止めてほしい。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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