「園バス置き去り」を予防するために
園バスに置き去りにされ、熱中症で死亡した子どものニュースが大きな話題となっている。私のところにも連日多数のメディアから取材の依頼がある。その時述べた意見をまとめ、現時点の私の考えを書き留めておきたい。
報道によると
ニュースを見ると、今回は国の動きも早いようだ。岸田文雄首相は9月9日、小倉将信子ども政策担当相に全国で安全管理の一斉点検をするように求めた。安全マニュアルの整備に加え、「バスに設置する安全装置の導入支援も検討する」としている。(9月10日付 静岡新聞東京支社の記事より)
この事故に関連する報道では、主に管理体制の不備や園長の資質などが取り上げられている。新聞記事の見出しの中には「思い込みや怠慢 重なる」と理事長個人の責任を取り上げているものもある。昨年、福岡県中間市で起こった園バス置き去りによる事故死でも、同じように個人の資質、責任が指摘されていたが、そのような指摘では予防にはつながらない。また、「この園は近所からの評判も良く、親や子どもの話を熱心に聞いてくれ、こういう事故が起こる類の園ではない」という記事もあるが、そのような評判と置き去りの件は切り離して考える必要がある。
何が問題だったのか
今回の置き去り事故についてはっきり言えることは、昨年の中間市の置き去り事故を受けて出された通知や対策は有効ではなかったという厳然たる事実だ。それでは、今、具体的に何をすべきなのだろうか?まずは、今回の事故が起こった状況を場面ごとに細かく分け、何が問題だったのかを明らかにする必要がある。
対策案を考えてみた
1.昨年の事故後に挙げられた対策が機能しているかどうかを検証し、それぞれの対策がなぜ機能しなかったのかを明らかにする。(例:マニュアルはなぜ読まれないのか、ダブルチェックはなぜできないのか、など)
2.園バスの安全管理体制について、誰がどのように管理しているのかを明らかにする。管理体制が不十分であれば、早急に管理項目を追加し、実施する。監査をする場合は抜き打ちとし、監査項目についても見直す。
3.「人」による安全確保以外の方法の導入を検討する。バスの中の「人」の存在を感知するシステムの導入について、企業の参入を支援し、このような機器を購入する場合には補助金を支給することを検討する。
4.すぐにできる新たな対策を提案する。たとえば、ドライバーは運転を始める前に、自分の携帯、財布などの貴重品を園バスの最後尾の箱に入れておくことを推奨する。
5.子どもにGPSデバイスを携帯させ、保護者・保育者が常に子どもの位置情報を確認できるとともに、緊急時に子どもが操作するとアラームが鳴り、その情報が保護者や園の職員室に届くようにする。
6.園バスで、死角を生む状況(子どもの体格、姿勢、運転席の位置などとの関係)を調査する。アメリカのスクールバスとの比較が行われているが、アメリカのスクールバスに乗車する児童は原則として5歳以上であるが日本の園バスに乗っているのは乳幼児であることに留意しなければならない。
7.安全の専門家による検討委員会を設置する。保育の専門家だけでなく、労働安全や食品安全の専門家も委員会のメンバーに加え、多様な視点を取り込めるようにする。
8.センサーなどの機器の開発においては、センサーの会社だけでなく、自動車やその関連企業も加わった協議会を設置して検討する。
9.いろいろなアイデアを募集するため、園バス置き去り防止のためのアイデアや製品のコンテストを開催する。
10.置き去りの問題だけでなく、園バスへのチャイルドシートの設置、ドライバーの資質など、園バスに関する安全全体についても検討する。
11.これらの活動は、取り組み開始前と開始後の変化について検証・評価することができるよう、あらかじめ共通の検証項目を設定しておく。
まだ他にもできることはあるはずだが、できるところから、すぐに取り組むことが必要と考えている。