「水分摂取」だけでは不十分 夏休み明けも猛暑見込み、いま改めて知りたい子どもの熱中症対策
この夏は異常な暑さが続いています。消防庁のデータでもほぼすべての都道府県で例年よりも熱中症による救急搬送人数は多く、特に8月は昨年よりも大幅に増えています(1)。熱中症に関連する症状で亡くなったお子さんのニュースも耳にするようになりました。
その中で「水分を摂っていたのに亡くなった」という報道をいくつか目にしました。熱中症の予防手段の中で水分摂取は非常に大切です。「心がけていたのにどうして?」と疑問になるのはもっともです。とはいえ、水分摂取の有無ばかりが話題になっているようにも思いました。熱中症予防のカギとなるのは、熱中症が起こるしくみを知ることだと思います。そこで今回はこどもの熱中症について、そのしくみから考えてみたいと思います。
体は汗をかき、皮膚に血液を集めて熱を逃がす
熱中症とは「高温の環境下に長時間いることで、体温を平熱に保つために汗をかいたりした結果、体内の水分や塩分が減少し、血液の流れが滞り、体温が上昇して重要な臓器の働きが悪くなることで生じた症状の総称」とされています(2)。
人の体温は常に37度前後に維持されています。この体温が体の代謝や酵素の働きにとってもっとも良い条件だからです。
運動すると体内では熱が産生されます。また、暑い環境では体が温められます。その結果体温が上昇し始めますが、それを抑えて体温を37度前後に保つには、熱を外に逃がす必要があります。
そのため体は汗をかいて、それが蒸発する時の気化熱で熱を外に逃がしたり、毛細血管という細かな血管を広げたりすることで、体内の熱を血流に乗せて皮膚の表面に集めて熱を外気に逃がそうとします。この働きがうまくいかなくなると熱中症になるのです。
「高温多湿」「風が弱い」環境が熱中症リスクを高める
では、これらの働きがうまくいかなくなるのはどのような環境でしょうか。
まず、外気温が高くなると熱中症になりやすくなる理由は皮膚の表面からの放熱がうまくいかなくなるためです。また湿度が高い場合も汗がうまく蒸発しないため十分な放熱ができなくなります(3)。他にも風が弱いなどの条件も熱中症リスクを高めます。
子どもはそもそも熱中症になりやすい
また、子どもは一般的に熱中症のリスクが高いです。その理由は汗腺が未発達で大人よりも汗でうまく体温調節ができないこと、また体重あたりの体表面積が大きいため、外気温の影響を受けやすく、暑い環境下では体温が上がりやすいためです(4)。さらに代謝が活発なので、汗や尿として体外に出る水分が多いこと、背が低いため大人より地表の照り返しを受けやすいことなどが挙げられます。
血液の流れが悪くなることでリスクが高まる
また熱を放散するために血液を体内から体表に循環させるのは、ポンプとしての心臓の役目ですが、心臓などに病気があったり高齢だったりすると、そのポンプ機能の働きが弱くなり、血液を十分に循環させられないため、体内の熱を体表に移動させられず結果的に体温が上がりやすくなります。また、汗をかいているうちに体の水分や塩分が体外に失われ、体内の塩分や水分や不足して脱水気味になります。その結果、血液の流れが悪くなるために同様の理由で体温が上がりやすくなります。嘔吐・下痢などの胃腸炎症状があったり、熱が高くなる感染症などの病気にかかって脱水気味だったりすると熱中症になりやすいのもこれが理由です。
熱中症予防の3本柱は「休む」と「冷やす」と「水分摂取」
これらのしくみを知ることで、冒頭でも述べましたが、「水分を摂っているのにどうして熱中症に?」に対する答え、そして効果的な予防対策が見えてきます。
まず、水分摂取は非常に重要ですが、それだけで熱中症を予防することはできません。体の熱産生が熱放出の能力を超えないように、暑い環境をなるべく避け、「休むこと」が大切です。筋肉が動くと熱が生まれます。したがって休憩することで筋肉の動きが抑えられ、熱産生を抑えることができます。そして熱を体表面から逃しやすくするために体表を「冷やす」ことも重要です。繰り返しますが、水分摂取さえしていれば熱中症を予防できるわけではないということです。
また、熱中症になりやすいリスクを知っておくことも重要です。先ほど述べたように心臓などに病気がある場合、胃腸炎などの体調不良時は熱中症のリスクも高くなります。そのようなケースでは普段以上に暑い環境を避けることが重要です。
学校での熱中症は中学高校の運動時に多い
子どもの熱中症がもっとも起こりやすいのはどのような状況でしょうか。
それは、中高生の運動時です。多くは体育や運動部の授業中です。ちなみに学校管理下での熱中症による受診件数は増えていますが、死亡事故は近年減少傾向にあります。これは熱中症への認識が高まり、早めに受診するようになったためとされています(5)。これはもちろんのぞましいことです。とはいえ昨今の暑さでは、例年以上に夏の運動には慎重な熱中症対策が必要です。
そこで、あらためて基本に立ち返り、スポーツ活動中の熱中症予防5か条(日本スポーツ協会)を確認しましょう(5)。
スポーツ活動中の熱中症予防5か条
1)暑いとき、無理な運動をしない
2)急な暑さに気を付ける
3)失われた水分と塩分を取り戻す
4)薄着を心掛ける
5)体調不良時はスポーツを避ける
1)の「暑いとき」の目安となるのがWBGT(いわゆる暑さ指数)になります。WBGTは最近よく目にするようになりましたが、温度や湿度、気流などを反映した指標です。この値が25度を超えると熱中症の発生が目立ち、28度を超えると急増するとされています(4)。日本スポーツ協会はWBGTが28度以上では激しい運動は中止、31度以上では特に子どもは運動を中止すべきとしています(5)。環境省のホームページでは、毎日全国各地のWBGT指数を公表しているので、運動前の参考になります(6)。
最後に、実際に熱中症になった場合の対応をまとめておきます。。
熱中症かもしれないと思った時も「休む」「冷やす」「水分摂取」を
熱中症かも、と思った場合の対処方法のポイントも、予防と同様に3つです。
つまり「涼しい場所で休ませる」「とにかく体を冷やす」「水分を摂らせる」です。
こちらのイラストをご参考にしてください。
症状が改善しない、水分補給ができなければ受診を
熱中症かもしれないと思った時、どのタイミングで受診すればいいのでしょうか。症状と受診の目安についてもイラストを作成しました。
熱中症の症状
熱中症の受診の目安
まだまだ暑い日が続きます。くれぐれも無理せずお過ごしください。
参考文献:
1.総務省消防庁. 熱中症情報:救急搬送状況(令和5年の情報) 2023( https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/post3.html).
2.環境省. 熱中症環境保健マニュアル2022(https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_full.pdf)
3.黒澤寛史. 【知っていますか?小児科領域のスポーツ障害】急性スポーツ障害 熱中症. 小児科診療. 2020;83(2):139-44.
4.植松悟子. 【季節依存性疾患・病態】子どもの熱中症. 東京小児科医会報. 2019;38(1):4-10.
5.日本スポーツ協会. スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック 2019 (https://www.japan-sports.or.jp/Portals/0/data/supoken/doc/heatstroke/heatstroke_0531.pdf.)
6.環境省. 熱中症予防情報サイト「暑さ指数の実況と予測について」 2021 (https://www.wbgt.env.go.jp/wbgt_data.php.)