大雪での出勤命令は適法? 大雪に関する労働問題への対処法を解説
仕事は「不要不急の外出」か?
1月24日から26日にかけて、全国的に「10年に1度」の寒波による大雪が予想される中、国土交通省と気象庁は23日、車両の立ち往生などの交通障害が警戒されるとして、「不要不急の外出」を控えるよう呼びかけを行った。また、公共交通機関においても大規模・長時間の遅延や運休の恐れがあるとしている。
国が「不要不急の外出」をしないよう呼びかけているにもかかわらず、職場に通勤して業務を行うことについて、疑問を抱いている方もいるのではないだろうか。 そこで本記事では、災害のリスクがある場合における出勤命令をどう考えるべきなのか、実際に雪によって労災が起きた場合に、どのような対応が可能なのか紹介していきたい。
出勤命令は拒めるのか?
まず、もっとも重要なのは、経営者は労働者を働かせるにあたって法律上「安全配慮義務」を負うということだ。安全が守られてない状態では労働者は安心して働くことすらできない。そのため、経営者は労働者が安全な環境の下で働けるように配慮する義務を当然に負っている。労働契約法や労働安全衛生法では、次のように定めている。
「使用者は労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」(労働契約法第5条)
「事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない」(労働安全衛生法第3条)
災害による危険を国が呼びかけている中で、会社は労働者の安全を守る措置を取る義務を負っているといえよう。そのため、安全の確保されない業務命令は違法である可能性があり、その場合、労働者にはそれに従う義務が労働契約上存在しないと考えられる。
出勤を拒否する際には、一方的に会社の命令を無視するのでなく、必ず出勤できない理由について説明し、証拠(録音やLINEのやり取り)などを残すとよいだろう。これは後に出勤拒否が問題になった際に証拠として使えるからだ。例えば、災害時の出勤拒否を理由にした懲戒処分や降格処分がなされてしまった場合、それが違法であるかどうかを争う際に重要な証拠となるだろう。
休業補償は誰が支払うべき?
次に、大雪を理由に休んだ際の休業補償は、会社が支払うべきと言えるだろうか。
労働基準法26条は休業補償について「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない」と定めている。
大雪のような自然災害は、「使用者の責に帰すべき事由」の範疇にならない可能性がある。ただし、この事情は近年変わってきている点に注意が必要だ。パソコンやタブレットなどの端末の普及によって自宅で就労することも可能になっており、新型コロナ禍で一挙にテレワークが広がっているからだ。
大雪で出勤できない場合でも使用者は自宅での勤務を最大限追求したうえでの休業でなければ休業補償を支払う義務が生じる可能性が高まっている。
また、厚生労働省が相次ぐ自然災害を受けて発表した「自然災害時の事業運営における労働基準法や労働契約法の取扱いなどに関するQ&A」には以下の通り、使用者に労働者の不利益を回避する努力を払うよう求めている。
大雪を理由として休業する場合にも、経営者は十分に労働者に配慮する必要がある、ということはいえるだろう。
非常に危険な雪に伴う労働災害
大雪では労働災害も多い。主なものは転倒災害、交通労働災害、除雪作業中の災害の3つだ。
転倒災害は、凍結した路面で足を滑らせるなどして起きる。また積雪で見えなくなった側溝などに転落する事故もある。自動車運転中の視界不良やスリップなどによって起きる交通事故や、除雪作業中の災害は雪の下敷きになるものが多い。
いずれも非常に危険な労働災害で、厚生労働省の「職場の安全サイト」で事例を検索して知ることができる。
事例1
林道内山線をロータリー除雪車で除雪していた際、路上の倒木を巻き込んだことによりロータリーオーガのピンが破断したため、車外で交換作業を行っていたところ、突如当該ロータリー除雪車が後進し、左側前後輪が路面から脱輪して法面下に横転したことにより、止めようとした被災者が車両の下敷きとなり死亡したもの。
事例2
ゴルフ練習場建屋の屋根の除雪作業において、除雪用スコップを持ったまま、同建屋の西側にあるコンベヤ室の北側を西から東方向へ移動していたところ、同コンベヤ室の屋根に積もっていた高さ約2mの雪が滑り落ち、それに巻き込まれる形で、被災者が高さ約4.1mの屋根から墜落した。
事例3
新聞配達を行っていた際に徒歩によりガソリンスタンド構内を通行していたところ、構内の端の積雪した箇所から隣接する用水路に転落した。その後、用水路内を下流に向かって徒歩により150m程度移動し、壁面が低くなった地点から脱出を試みるも脱出できず、次第に意識を消失して河床にうつ伏せに倒れ、最終的には転落地点から直線距離にして200m程度離れた箇所で溺死した状態で発見されたもの。
労働災害には労災保険を使おう
業務中の怪我に遭ってしまった場合、労災保険が使える。特に、積雪で重要であるのは、会社までの通勤途中の怪我にも労災保険を使うことができるということだ。もし出社・帰宅中に転倒するなどの被害に遭えば、通勤災害として労災保険の対象となる。例えば、通勤のために家の前を除雪している最中に被った被災でも、労働災害と認定された例がある。
労災保険は、労働災害によって生じた損害の一部を補填してくれる国の保険で、主な給付内容には次のようなものがある。
- 療養給付(治療費の全額)
- 休業給付(労災によって休業を余儀なくされた時の休業補償の一部)
- 障害等給付(後遺症が残った場合の年金と一時金)
労災保険を利用するには、労働基準監督署に労災事故に遭ったことを申請すればよい(労災申請という)。労災申請には労働災害の事実を使用者が証明する欄があるが、申請自体は労働者が自分で行うものだ。会社から労災の申請用紙へのサインを断られてもサインなしで申請することができる。
また、労災保険給付が補填するのは、労働災害によって労働者が被った損害の一部だ。たとえば、慰謝料や休業補償の不足分、後遺症によって失われた逸失利益などは労災保険給付では全額を補填できない。労働災害の場合、損害を支払う義務は会社にあるので、労災保険給付を受けた後に会社に請求することができる。労災申請や損害賠償について悩んだ場合は、労災を専門で扱っている労働組合、弁護士などの専門家にぜひ相談してみてほしい。
労災保険の詳細については下記の記事も参考にしてもらいたい。
無料労働相談窓口
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