「スーダンが壊れる」市民の避難殺到 新たな食糧危機は世界の脅威に「外国人避難後の国際的孤立が心配」
イード停戦を求めるハイレベルな要請にもかかわらず、スーダンではハルツームを中心にスーダン軍(SAF)と即応支援部隊(RSF)の衝突が続いている。
紛争による死者は増え続け、これまでに400人以上が死亡、3,500人以上が負傷した。国連WFPやIOMなど国連機関などの職員も犠牲になった。
保健省によると、4月20日現在、ハルツームでの132人を含む全国で少なくとも413人が死亡し、3,500人以上が負傷している。4月21日には、国際移住機関(IOM)の援助者が、北コルドファンのエル・オベイドの南で、家族とともに移動していた車両が、紛争当事者間の銃撃戦に巻き込まれ、死亡した。これにより、4月15日以降、スーダンで殺害された援助関係者は5人となった。
IOM・国連の国際移住機関によると、戦闘や基礎物資の不足により、ハルツーム州全域、アジャジラ州、センナー州、白ナイル州、ナイル川、ゲダレフ州で、避難民の増加が報告されている。
UNHCRによると、チャドに到着した推定1万人から2万人のスーダン難民の大半は女性と子どもで、そのほとんどは現在、野外に避難している。
保健省によると、紛争地域で多く報告されている安全な飲料水の不足は、コレラなどの水を媒介とする病気のリスクを高め、デング熱やマラリアなどの蚊を媒介とする病気の対策は、患者数の増加を引き起こす可能性があるという。
人道危機が発生している一方で、人道支援団体は複数の地域で活動の停止を余儀なくされた。
IOMは、スタッフの殺害を受け、スーダンでの人道活動の停止を発表。国連WFPも職員3名が殺害され活動の停止に追い込まれている。
また、国連WFPが食糧や支援要員を届けるために運営している国連人道支援航空サービス(UNHAS)も完全に運行が見合わされている。
国連WFPによると、平常時、UNHASはスーダンの30以上の都市に就航し、年間約2万6000人の乗客と人道物資を運んでいるが、ハルツーム国際空港への攻撃でUNHASの航空機1機が修復不可能なほど大きく損傷した。その他、少なくとも10台の車両と6台の食料運搬トラックが盗難に遭った。
南ダルフールのニャラにある国連WFPのゲストハウス、事務所、倉庫が襲撃、略奪され、飢餓に苦しむ人びとへの配布が予定されていた食料が最大4000トン失われた。
紛争勃発前、スーダン全土の人道的ニーズは記録的なレベルに達しており、2023年のHNO(Humanitarian Needs Overview)によると、全人口の約3分の1に当たる1580万人が人道支援を必要としている。これは、2022年に比べて人道支援を必要とする人が150万人増え、2011年以降で最高となっていた。
そうした中での、今回の衝突。
一刻も早い沈静化が望まれるが「先行きの見通しは非常に厳しい」。そう語るのは、スーダン出身で東洋大学国際共生社会研究センター客員研究員のモハメド・オマル・アブディンさんだ。
筆者は、2019年12月末、ハルツーム市内にあるアブディンさんの実家を訪ねたことがある。
今、アブディンさんの家族も避難を強いられている。ハルツーム市内ではこれまで経験したことがないほどの攻撃で避難者が急増。狭い一室に何人もの家族が身を寄せ合う状況で、高額の宿泊費や家賃となっているという。
アブディンさんに今後の懸念を聞いた。
◆スーダンの情勢は「もっと悪くなる」
堀)
今これだけの混迷を極める状況になってしまい、ロシアとの関係や西アフリカの混乱などを考えると今後の状況が大変心配です。アブディンさんはどのように見ていますか?
アブディン)
現在は、ハルツーム市内に外国人や日本人もいますので一応社会が関心を持ってるということもあって、まだ私は最悪の状況だと思っていません。これからもっと悪くなる。そうした方々が全員退避した後、世界からの関心が引いてしまうことでその後どうなるのか、ということです。
ハルツームのインフラはこれからさらに破壊されていきます。決着はつかないと思います。今首都で起きていることがスーダン全土に広がっていきます。そうすると、政府軍側もハルツームから撤退していきますし、そもそもRSFは国境警備を任務にしてきました。首都では暴力や違法なビジネスなどが蔓延ってしまう。
スーダンが壊れてしまえば、スーダンからつながる西アフリカも政治的に脆弱な国ばかりなのでアフリカ大陸レベルでの混乱に繋がりかねないと思っています。
※参考)ブルキナファソは北朝鮮に接近 西アフリカは武装勢力結集の地に 襲撃相次ぐ
さらに、スーダンは紅海に面していますしここはスエズから繋がる海上航路の重要な地点です。ここが不安定化、関税に無政府化してしまった場合に、海の安全が脅かされるでしょう。
堀)
確かに隣国のエチオピアでも内戦が続いていますし、各国の武装勢力の活動も活発で周辺国へスーダンの状況が波及するのは本当に心配ですね。
◆スーダンが壊れれば世界にとっての脅威が広がる
アブディン)
RSFのような正規軍ではない武装組織が一国を治めようとするある種の「挑戦」が、周辺国に悪い意味でのインスピレーションを与えてしまうことになってしまいます。しかし、今、国際社会は優先すべき案件が多すぎて、ウクライナの問題であったり残念ながらスーダンに関心が向いていかなくなってしまうと、世界の秩序全体を脅かす事態に繋がっていくということに警戒しなくてはなりません。
紅海が混乱すれば、石油の運搬にも大きな打撃を与え、エネルギー安全保障の観点から見てもこれ非常に危険な問題です。
ヨーロッパにとっては、スーダンは不法難民の移動の中継点なので、そのスーダンが崩れると国境警部機能も低下するということになります。数年前に、ヨーロッパに大量の難民が押し寄せた事態がありますが、ヨーロッパはそうした事態を防ぐためにも対処が必要になると思います。人道的関心を期待するよりも、そちらの方が現実的なものとして受け止められるのではと思い期待します。
堀)
一方で、ロシアなどから見た世界観ではまた全く見え方が違うのでは思いますがいかがですか?
アブディン)
全くその通りです。ロシアから見ると、スーダンはヨーロッパとの戦いの一つの戦線であると捉えているでしょう。特にフランスが非常に大きな影響力を持つ地域に対して、ロシアが近年「挑戦」してきています。ブルキナファソや中央アフリカなどでそれが顕著です。フランスの世界での基盤を崩すきっかけでもありますので、ロシアが今後スーダンへの関与を強める機会にもなることが考えられます。
◆日本の皆さんにお願いしたいこと
堀)
こういった大国の対立を持ち込まれることによってさらに混迷を極めてしまう可能性が高まっています。そうした中、日本がスーダンの情勢にどう対処すべきだと考えていますか?
アブディン)
もちろん邦人の退避はとても重要であると思いますし、まずそれをしっかりやっていただければいいと思います。一方で邦人が無事に退避できた後に メディアが一気に報道を減らしてしまう、それは本当に目に見えてしまうので引き続き市民の皆さんにぜひ関心を持っていただきたいと思います。
日本に直接できることは少ないかもしれませんけれど、不安定化が続けば当然ながら4000万人もいるスーダン国民が生活の基盤を失ってしまう。私の家族も避難をせざるを得ませんでした。ある日突然生活基盤を失なってしまえば、貧困層であったり、もっともっと大変な生活を強いられる人が出てきます。日本の皆さんも震災などを経験して、突然暮らしが奪われる大変さをきっとわかってくれると思っています。どうか、まずは知ることを続けて欲しいです。関心を持っていただけたらありがたいです。