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ブルキナファソは北朝鮮に接近 西アフリカは武装勢力結集の地に 襲撃相次ぐ

堀潤ジャーナリスト
TOKYOMX「堀潤モーニングFLAG」コーナーNEW GLOBALより

西アフリカのナイジェリアでは7日、北西部ザムファラ州で武装勢力が女性や子ども少なくとも80人を拉致する事件が発生。ブルキナファソでは8日、北部の複数の村が武装勢力に襲われ44人が死亡したと地元当局が明らかにした。9日、AFP通信が報じた。

今、西アフリカは世界の紛争の火種になりつつある。紛争地での食糧支援などを手掛ける国連WFPも警鐘を鳴らしている地域だ。

国連WFP西アフリカ地域局の橋本のぞみさんは取材に対し「元々の脆弱性に加え、貧困や気候変動による農作物減少で食料をめぐる紛争が追い討ちをかけるなど国内情勢が悪化している」と現状への危機感を語った。

西アフリカでは、過去10年間で最も深刻な食糧危機を迎えている。特に去年6月から8月の不作期には、4300万人の人びとが緊急・危機的レベルの食料不足に直面、今年はさらに1000万人以上その数が増加するという予測もある。

国連WFPの橋本のぞみさん(右)が現場の実態を語った 8bitNews「月刊国連WFP」配信より
国連WFPの橋本のぞみさん(右)が現場の実態を語った 8bitNews「月刊国連WFP」配信より

今、西アフリカで何が起きているのか。TOKYOMX「堀潤モーニングFLAG NEW GLOBAL」で特集した。

■サヘル地域で進む脱欧米・親ロシアの動き

先月末、韓国の中央日報はブルキナファソが北朝鮮との外交関係を修復させると報じた。ブルキナファソ軍事政府外務省が先月30日、報道資料を通じて閣僚会議で駐ブルキナファソ北朝鮮大使のアグレマンを承認したと発表。「北朝鮮と軍事装備や鉱業、医療、農業、研究などの分野で集中的に協力する計画だ」と説明した。

ブルキナファソは2017年、北朝鮮の核兵器計画に対する国連安全保障理事会の制裁に歩調を合わせ北朝鮮との外交関係を断絶していたが、昨年、イスラム過激派の武装勢力の活動により悪化した治安を回復するとして、2度のクーデターで軍事政権が樹立。

今年1月、軍事政権はフランスと2018年に締結した駐留部隊の地位協定の効力を停止したと発表、フランス軍は撤収した。

さらに、今月2日、旧宗主国フランスのルモンド紙とリベラシオンの記者を国外追放。先月26日には、アルカイダのリーダーのインタビューを放映したという理由で「フランス24」の放送を全土で停止した。

昨年からブルキナファソでは、ロシアを支持する声が高まっていて、脱植民地旧宗主国化が進んできた。

西アフリカをはじめとしたサヘル地域を描いたドキュメンタリー映画「グレート・グリーン・ウォール」より
西アフリカをはじめとしたサヘル地域を描いたドキュメンタリー映画「グレート・グリーン・ウォール」より

隣国のマリでは、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」が政府軍と共にイスラム過激派に対する掃討作戦を実施するなど関係が深まり、クーデターでは親ロシア政権が立ち上がった。民間人の殺害や拷問など人権侵害も報告され、治安は逆に悪化しているとされる。

そのワグネルが次に狙うのがブルキナファソだと言われてきた。既に軍事政権がワグネルと接触していると、ガーナのアクフォ・アド大統領が警鐘を鳴らすなど、アフリカや欧米各国もその動向を注視する状況にある。

■紛争によって避難民が増加、耕作放棄地も広がっている

武装勢力の活発化は、金をはじめとした鉱物資源だけではなく、水源や耕作地など土地をめぐっての衝突も激しさを増している。

国連WFPの橋本のぞみさんは「日本では西アフリカでの紛争というのはあまり知られていないと思いますが、2021年の1年間で、テロ活動の犠牲になった方の数はブルキナファソ・マリ・ニジェールの3カ国で全世界の26%に上ります。1カ国にはなりますがアフガニスタンよりも多い数字です」と厳しい現状を地図をもとに説明してくれた。

国連WFP橋本さん提供の資料 紛争の激化で耕作放棄地が増えている
国連WFP橋本さん提供の資料 紛争の激化で耕作放棄地が増えている

上の地図は、国連WFPが精度の高い衛星写真を使って定点観測して得た耕作放棄地の分布図。

前年と比較し、土地の利用法が変わってしまった地域や集落が焼けてしまっている地域などを把握し、紛争の影響で耕作地が放棄されてしまった場所を赤い点で記している。緑の点は数は逆に耕作地が増えている場所で、避難した人たちが新たに農業を始めた場所だと考えられている。

こうしたデータをもとに、食糧危機に直面している地域や人の数を分析。食糧危機に直面している人の数が急増している現状を炙り出した。3年前の1300万人から2022年は4300万人に、今年はさらに増えるという予測だ。

8bitNews「月刊国連WFP」より 国連WFP提供資料
8bitNews「月刊国連WFP」より 国連WFP提供資料

さらに、こちらの写真は気候変動により砂漠化が進む現状。2020年と2021年で同じ現場を比較したものだ。ブルキナファソ、モーリタニア共に緑が枯れ、水源の水が干上がり、砂漠化が急速に進む様子を記録している。

紛争により耕作放棄地が増え、気候変動により砂漠化が進み、貴重な食糧生産可能な土地が奪い合いになり、さらなる紛争の火種になる。武装勢力の活動は活発になり、貧困に喘ぐ若者たちがその武装勢力にリクルートされさらに活動が活発化する。そんな負のループが西アフリカで繰り広げられている。治安の悪化が非人道的な集団や国家を引き寄せている。食糧生産地をいかに広げることができるかは、世界の平和と安定にも大きな影響を与えているのだ。

■アフリカ連合が取り組む「グレート・グリーン・ウォール」

映画「グレート・グリーン・ウォール」より
映画「グレート・グリーン・ウォール」より

こうした事態を食い止めるため、注目されるのが、アフリカ連合が15年以上に取り組む「グレート・グリーン・ウォール」。

「緑の万里の長城」とも呼ばれる計画で、アフリカ西岸のセネガルから東へモーリタニア、ブルキナファソ、マリ、ナイジェリア、ニジェール、チャド、スーダン、エチオピア、エリトリア、ジブチの沿岸部まで、約8000kmを樹林帯でつなぐ壮大な植林活動だ。サヘル地域と呼ばれるこれらの土地には約1億人が暮らしている。

2030年までに1億ヘクタールの荒れ地を緑に甦らせることを標とする。計画を通じて、1千万の雇をみ出し、年間2億5千万トンの炭素を吸収することを込む。

映画「グレート・グリーン・ウォール」より 
映画「グレート・グリーン・ウォール」より 

サヘル地域は世界平均の1.5倍の速さで気温が上昇しており、気候変動の最前線。砂漠化をくいとめ、生産ができる緑の大地を取り戻さなければアフリカにはさらなる困難に直面し、そして世界の不安定さは増すばかりだ。

今月22日、日本ではこの壮大な計画の最前線を追ったドキュメンタリー映画「グレート・グリーン・ウォール」が公開される。

壮大な計画が、資金不足、技術不足、理解不足により思うように進んでいない実態を描き出している。こうした状況を世界に知らせ、国際社会に対して支援の必要性を訴えるためサヘル地域を自ら横断したマリ出身の女性シンガーの活動を追っている。

マリ出身の世界的ミュージシャン、インナ・モジャがアフリカ横断の旅へ 映画「グレート・グリーン・ウォール」より
マリ出身の世界的ミュージシャン、インナ・モジャがアフリカ横断の旅へ 映画「グレート・グリーン・ウォール」より

旅を通じ出会う様々な窮状。武装勢力に誘拐され性暴力の被害を受けた少女たちとの対面、貧困から逃れるためヨーロッパを目指した人たちがブローカーの食い物にされ絶望の淵に追い込まれる現状。彼女自身が想像以上の現状に打ちひしがれる様子もこの作品のメッセージの一つだ。

私たちが知らない西アフリカの現状をもっと知る必要がある。

映画「グレート・グリーン・ウォール」より
映画「グレート・グリーン・ウォール」より

そうした中、昨年8月、チュニジアで開かれた第8回「アフリカ開発会議(TICAD)で岸田政権が打ち出した、約4兆円のアフリカ支援を覚えているだろうか。

岸田総理は会議にオンラインで参加し、約30万人の人材育成や感染症対策、食料支援などの分野で今後3年間、官民合わせて総額300億ドル(約4兆1000億円)の支援を表明した。

日本国内にも様々な課題があるにも関わらず「なぜ4兆円も支援を?」という声もSNSでは少なくなかった。

映画「グレート・グリーン・ウォール」より
映画「グレート・グリーン・ウォール」より

アフリカで影響力を増す、対中国、対ロシア、対北朝鮮の意味合いも含んだ外交的支援でもあり、人道的支援でもある。

とても重要な支援策だとは思う。しかし、一方で、こうした政策が国民の無関心の中で進められて本当に良いのだろうかという危機感も抱いている。大国同士の政略によって大地を奪われ、尊厳を奪われ、長年にわたる貧困の原因を生み出した植民地政策。

今、再び、分断された国家間の政治の綱引きの現場になろうとしている。

そこに暮らす人々を知り、我々市民同士が本当に支え合えるような社会でなければ問題の本質的な解決には近付けない。次の奪い合いの連鎖に加担するだけだ。もっと目を向けてほしい。もっと多くの人たちと共にこの問題を考えたい。

ジャーナリスト

NPO法人8bitNews代表理事/株式会社GARDEN代表。2001年NHK入局。「ニュースウォッチ9」リポーター、「Bizスポ」キャスター。2012年、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校で客員研究員。2013年、NHKを退局しNPO法人「8bitNews」代表に。2021年、株式会社「わたしをことばにする研究所」設立。現在、TOKYO MX「堀潤LIVE Junction」キャスター、ABEMA「AbemaPrime」コメンテーター。2019年4月より早稲田大学グローバル科学知融合研究所招聘研究員。2020年3月映画「わたしは分断を許さない」公開。

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