「カニの殻」が「半導体」へ。東北大学などの研究
生成AIの進化発展もあって半導体の需要が高まっている。東北大学などの研究グループは、カニやエビ、昆虫などの殻や骨のキチンから作られるキトサンという物質を半導体などの材料として活用できる可能性を見いだした。
キトサンのナノファイバーで電子デバイスを
植物や動物などの材料を使い、半導体や蓄電体などのエレクトロニクス技術に応用しようとする研究開発が盛んだ。
白川英樹氏らによる有機化合物利用やバイオミネラリゼーション(生体鉱物化)による有機半導体は以前からあるが、植物のセルロースを主成分にした植物繊維をナノメートル(10億分の1メートル)サイズまでほぐしたセルロースナノファイバーが持つ半導体特性を利用したり、生体に親和性の高いナノサイズのフッ素ゴムに電子回路を印刷するといった技術が進化している。
シリコンなどの無機物で作られるエレクトロニクス部品は、レアメタルなどの人工化合物のため、希少で価格も高く、環境負荷が大きい。一方、有機材料によるエレクトロニクス部品は、環境負荷が低く、再生資源として利用でき、強度が強く熱膨張しにくく、吸水性が高いなどの特性がある。
東北大学などの研究グループ(※1)は、ベニズワイガニの殻から得られたキチンを脱アセチル化して作られるキトサンのナノファイバーを原料に電極を付けたシートにしてデバイス化し、電流を流したところ、半導体のn型特性を示すことを発見し、米国物理学協会の学術誌で発表した(※2)。
電流-電圧特性がオームの法則に従わず、ある電圧以上で電流が低下する負性抵抗がみられた。また、抵抗-電圧特性ではオンオフを繰り返すスイッチング効果がみられ、さらに蓄電特性も持つことがわかったという。
同研究グループの福原幹夫氏は、以前から植物(ケナフ)のセルロースから作られるセルロースナノファイバーを半導体や蓄電池(固体量子蓄電池)などの材料にする研究を続けてきた。キチンやキトサンのナノファイバーを利活用する研究開発はこれまでもあったが(※3)、初めてキトサンのナノファイバーで作ったデバイスが半導体(n型)特性を持つこと、蓄電特性を持つことを示した。
豊富なバイオ原料でエレクトロニクスが
水産物は、骨や殻などの食べられない部分が多く、漁獲量の半分ほどが廃棄物となる。カニやエビの殻も大量の廃棄物となるが、エキスを抽出したり、そのキチンやキトサンを医薬品や化粧品、金属電池の電解質などに使ってきた。
キチンは、カニやエビ、昆虫、カビやキノコ類などの細胞壁を構成し、植物のセルロースに次ぐ量のバイオ原料だ。キトサンは、キチンから簡単に生成することができる。
だが、その半導体での利活用はあまり研究されていない。
半導体は絶縁体(電気を通しにくい物質)と導体(電気を通しやすい物質)の中間の特性を持つ物質のことだが、電圧をかけることで電流が流れる特性を持つのがn(negative)型半導体という。半導体の多くは、このn型半導体とp(positive)型半導体を組み合わせて利用される。
同研究グループは、キトサンのナノファイバーのデバイスがn型特性や蓄電特性を持つことがわかったことで、従来のセルロースナノファイバーによるものと合わせ、豊富な原料によるバイオエレクトロニクスの可能性がみえてきたという。
※1:東北大学未来科学技術共同研究センター、福原幹夫学術研究員、橋田俊之特任教授、東京大学の磯貝明特別教授ら
※2:Mikio Fukuhara, et al., "n-Type Semiconductor with Energy Storage made from Chitosan" AIP Advances, Vol.14, Issue3, 1, March, 2024
※3:Shinsuke Ifuku, Hiroyuki Saimoto, "Chitin nanofibers: preparations, modifications, and applications" Nanoscale, Vol.4, 3308-3318, 26, March, 2012