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憧れの桐敷先輩(阪神タイガース)の背中を追ってNPBに行く!林悠太(富山GRNサンダーバーズ)の決意

土井麻由実フリーアナウンサー、フリーライター
富山GRNサンダーバーズ・林悠太(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)

■初めてのNPB選手との対戦

 自身が目指すステージで戦う選手に、初めて投げた。5月30日、富山GRNサンダーバーズ林悠太投手は“格上”相手に真っ向からぶつかった。

 「いつも以上にやろうとしないこと。今以上を出すのではなく、今の自分自身の実力や立ち位置を確かめるため、そのままの状態でチャレンジャーとして挑もう。短いイニングでやれることをしっかりとし、楽しみながら投げよう」。

 そう心に誓って、立ち向かった。

 自チームが石川ミリオンスターズとともに所属する日本海リーグ。両チームから選抜されたリーグ代表メンバーで1つのチームを結成して、千葉ロッテマリーンズのファーム本拠地、ロッテ浦和球場に乗り込んだ。

 六回裏にマウンドに上がった林投手は、連打を許しながらも後続を一飛、三ゴロ併殺打に抑えて無失点で役目を終えた。

 貴重な経験ができたし、さまざまなものが見えた。「ストレートはまだまだな部分がある。もっとファウルや空振りが取れることを目指してやっていきたい」と、改めて強く感じた。けれど変化球では打ち取ったり、狙ったアウトが取れたことは大きな収穫だったという。

 「でも満足はいっさいしていません。打ち損じてもらったと感じたので、実力で抑えられたと自信をもって言えるようにしていきたいです」。

 自分の“現在地”を知ることができた。これは必ず今後の練習や試合に反映させていくつもりだ。

林悠太(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)
林悠太(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)

■独立リーグを選んだわけ

 地元・富山は下新川郡入善町出身の林投手は、ずっとプロを目標にやってきた。桜井高校2年秋には調子もどんどん上がり、冬を迎えるころには球速が140キロを超えるようになった。と同時に注目もされはじめた。ところが3年生に上がる直前の3月、遠征中に右肘の内側側副靭帯を痛めた。

 そこで休めばよかったのだが、痛み止めを飲んだりしながらごまかし、そのまま投げ続けた。当然、万全なピッチングはできなかった。

 高校野球を引退して約半年間はノースローでリハビリに取り組み、2月にようやくキャッチボールができるまでに回復、春からは新潟医療福祉大学に進学した。大学時代に再発はしなかったが、念願のNPB入りはかなわなかった。

 「それでもNPBに行きたいという気持ちが強かった。社会人という選択肢もあったんですけど、幅を広げるという意味ではNPBを目指してやっている人の集団に身を置くことで刺激になるというか、意識もより上がると思った。それに、育成でも獲ってもらえるということを考えると、独立のほうが可能性があるなと思って選びました」。

 地元の独立球団からNPB入りを目指す決意をした。

林悠太(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)
林悠太(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)

■今季ここまでを振り返る

 初登板初先発は開幕2戦目(4月30日、宮野運動公園野球場)で、家族や親戚はもちろんのこと、高校時代の保護者会のみなさんなど、多くの人が応援に来てくれた。この日は5回2失点で勝ち負けはつかなかった。

 中継ぎでの1イニング(5月5日、金沢市民野球場)をはさんで2度目の先発(同14日、金沢市民野球場)では、6回1失点(自責0)とクオリティスタート(QS)を達成して初勝利も挙げた。3度目(同21日、県営富山球場)も6回2失点でQSだった。

 4度目(同27日、県営富山野球場)は4回2失点(自責1)。二回に連続死球などで満塁とし、1発同点のピンチを背負うも、味方のエラーによる1失点のみでしのいだ。三回は三者凡退に斬ったが、四回は先頭に四球を与え1失点した。

 「テンポを上げるという解釈が間違っていて、自分自身を焦らせてしまった。いらない点数をあげてしまった」。

 試合後にそう悔やんだが、これも次戦への糧になる。「ゾーンで勝負してテンポよく」という持ち味を、次からもしっかり発揮していく。

林悠太(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)
林悠太(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)

■ピンチでギアを上げる

 登板を重ねるごとに自分自身の成長は実感している。投げた試合は何度でも動画を見返す。相手打者の狙いは何だったのか、この場面はこうすべきだった、なぜ四球(死球)を出したのか、などと自己分析しながら考え、次に同じことを繰り返さないようにする。

 「勝つためにどうすればいいのかというのを柔らかく考えながら、先発としての役目は最低限、果たせているのかなと思います」。

 柔軟に考えつつ、己と向き合う。

 とくにピンチでのギアの上げ方は、投げるごとに手応えが深まってきている。ランナーが出てからも狙ったところに投げられたり、自らが意図した打ち取り方ができたりもしている。また、狙って三振が取れることも増えた。それらが現在の結果につながっているという。

 たとえば3度目の先発のときだ。先頭を三振に取ったあと、満塁のピンチを招いたところで三振が取れ、続いて押し出しで1点を失いはしたが、最後も空振り三振で切り抜けた。

 「野手に頼るだけじゃなくて、自分でいかないといけないところは、しっかりと自分でやれた」。

 ピンチでも動じず、いや、むしろアドレナリンがより出て、投球に魂がこもる。

林悠太(撮影:筆者)
林悠太(撮影:筆者)

■自己分析をして次に活かす

 大学時代は「一点しか見られない、視野が狭くなりやすいタイプだった」と省み、ピッチング以外のところで変えられるところはないかと探した。たどり着いたのは「周りを見る力」だ。ピンチでこそ、状況や相手などを冷静に観察する。

 また、2試合目に盗塁を3つ許した反省から、投球の間合いやクイック、牽制のタイミングを工夫するようになった。同じ相手との対戦が多い中では必須でもある。

 「そういうところの変化というのも大きく結果に出てきているので、先発としてやっていく中で成長しているかなと思います」。

 試合が終われば自己分析し、それを次に活かす。その繰り返しが着実に、自身をステップアップさせている。

林悠太(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)
林悠太(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)

■吉岡雄二監督の見立て

 見守る吉岡雄二監督も「自己分析が好きなので」と笑みを浮かべつつ、「最初は自分のボールをしっかり投げて抑えるという感じだったのが、ここ2試合くらいの内容は“自分のアウトの取り方”が見えるようになってきた。こういう特徴だというのが少し出てきた。そういう部分が成長かなと思いますね」と目を細める。

 「本当に順調にきている。球速も上がってきたし、変化球の質もよくなってきた。投げられる量も増えてきた。あとは毎週投げられるコンディションですね。大学のときとは違う疲れもあると思うので、ケガのリスクも減らしながら、少しずつでもパフォーマンスを上げていってくれれば」。

 大きな期待をかけている。

球場入り口では“のぼり”がお出迎え(撮影:筆者)
球場入り口では“のぼり”がお出迎え(撮影:筆者)

■鉄壁のリリーバーたち

 今の環境も、林投手にとっては大きなプラスになっている。富山の高いレベルの投手陣から得るものは限りない。

 「大学のときは『自分が、自分が』って、自分が抑えなければと思っていた」と背負う気持ちが強かったのが、「ここでは先のことを考えず、目の前の1イニング1イニングに集中して、ゲームを作って後ろにつなげば大丈夫。1点差でも勝っていれば」と、大島嵩輝日渡柊太山川晃司ら安定した鉄壁のリリーバーたちに任せられる。

 「そういう人たちの存在があるから、周りをしっかり見て投げられているのかなと思います」。

 技術も意識も考え方も高いレベルの中にいることで、自身もどんどん高めることができているのだ。

左から:大島嵩輝、日渡柊太、快(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)
左から:大島嵩輝、日渡柊太、快(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)

■スタンドから見守るご両親

 ご家族もスタンドから温かい眼差しを送っておられる。小中高とずっと「プロ野球選手になる」と言い続けてきた林投手に、「好きな道に進みなさい」と説いてきたご両親だが、聞けばお父さんはサッカーをされていたとか。「おじいちゃんの影響でしょうね」と、幼いころからおじいちゃんとよくキャッチボールをしていたことを明かしてくださった。「家でよくしゃべる子なんです」と、お母さんは林投手と過ごすひとときを楽しみにされている。

 「富山は投手陣がすごくいい。レベルの高いところでやらせていただいている」と感謝し、息子の登板日には必ず駆けつけてこられるご両親。林投手も、夢をかなえる姿を早く届けたいと願っている。

林悠太の横断幕(撮影:筆者)
林悠太の横断幕(撮影:筆者)

■尊敬する桐敷拓馬先輩(阪神タイガース)

 そんな林投手には、どうしても追いつきたい人がいる。大学時代の1つ上の先輩で、現在は阪神タイガースに所属する桐敷拓馬投手だ。

 「一番気にかけてもらったし、後輩の中でも一番、一緒に時間を過ごした。あの人の存在があったからこそプロを目指せたというか、目の前に桐敷さんという姿があったから、自分もここまでこられた。あの人のおかげです」。

 大学時代は毎週月曜日、オフの自主練はいつも誘ってもらって一緒にトレーニングした。自分からも「こういうことしましょ」と提案することもあった。

 キャッチボールもずっと一緒にやっていた。キャッチボールの重要性は野球選手ならみな実感するが、そのパートナーも非常に大事だ。

 「キャッチボール一つでも全然違う。桐敷さんとやることが、すごくいい練習だった。桐敷さんの投げるボールは鞭のようにしなる。体がすごくしなってボールが出てくるので、ゆっくり腕が振れているように見えるけど、そこからすごいボールがくる。だから(試合でも)バッターが思った以上に詰まる」。

 ストレートだけでなく、「ツーシームもスプリットもすごいし、スライダーも2回曲がるくらいの感覚です」と変化球についても絶賛し、「しかも、あの本格派な感じで、あのコントロールなんで」と、いかに素晴らしい投手であるかを力説する。

 技術面だけではない。3年春にピッチャーリーダーが代替わりするとき、桐敷投手からその責務を受け継いだ。自分の結果を出すことはもちろんだが、それだけではなく周りにも目を配らなければならない。そうしているうちに自身の結果も出せなくなり、悩んだ。そんなとき、相談に乗ってくれたのもやはり桐敷先輩だった。

 昨年末も新潟に帰ってくる先輩を駅まで迎えにいき、食事をともにした。

林悠太(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)
林悠太(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)

 入団2年目の今季、プロ初勝利(5月26日 対読売ジャイアンツ @甲子園球場)を挙げた桐敷投手。林投手は登板前に「頑張ってください」、そして勝利後に「おめでとうございます」とLINEを送った。

 これまでは「忙しいかと思うので」と遠慮していたが、「今シーズンに入って初めての1軍登板だったので、送るタイミングは今かなと思って連絡したら、すぐに返事がきました」と白い歯を見せる。ファームでの登板も必ずチェックし、このときを待っていた。

 憧れの先輩の活躍は自身にとっても励みになると同時に、なんとしてもNPBに入るんだという刺激にもなる。

 「まだ目標っていうほど近くないんですけど、いずれああいう舞台で投げたいなっていう思いは強くなりました」。

 桐敷投手も、「そりゃ、また一緒の舞台でやりたいですよ。NPBに入れるよう、願っています」と、かわいい後輩が追ってくるのを待っている。

 桐敷先輩と同じステージで再会するために―。今後も登板ごとに進化した姿を見せていく。

林悠太(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)
林悠太(写真提供:富山GRNサンダーバーズ)

【林 悠太(はやし ゆうた)】

2000年6月23日/富山県

182cm・67kg/右・右

桜井高校―新潟医療福祉大学

最速148キロ

カーブ、スライダー、カットボール、フォーク

【林悠太*今季成績】

5試合(先発4) 22回 1勝0敗

被安打26 奪三振20 与四球7 与死球2

失点7(自責5) 防御率2.05 奪三振率8.18

(6月4日現在)

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開幕戦

開幕2戦目

吉岡雄二監督

日渡柊太①

日渡柊太②

フリーアナウンサー、フリーライター

CS放送「GAORA」「スカイA」の阪神タイガース野球中継番組「Tigersーai」で、ベンチリポーターとして携わったゲームは1000試合近く。2005年の阪神優勝時にはビールかけインタビューも!イベントやパーティーでのプロ野球選手、OBとのトークショーは数100本。サンケイスポーツで阪神タイガース関連のコラム「SMILE♡TIGERS」を連載中。かつては阪神タイガースの公式ホームページや公式携帯サイト、阪神電鉄の機関紙でも執筆。マイクでペンで、硬軟織り交ぜた熱い熱い情報を伝えています!!

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