Yahoo!ニュース

「日本は今すぐ同性婚容認を」欧米ビジネス界が政府に異例の提言

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
(写真:つのだよしお/アフロ)

 欧米のビジネス界が日本政府に対し、一刻も早く性的マイノリティー(LGBT)に婚姻の権利を認めるよう、異例の提言をしている。現在、主要先進7カ国(G7)の中で、婚姻やそれに準じる権利をLGBTに認めていないのは日本だけ。G7以外でも同性婚の合法化に踏み切る国や地域が急速に増えている。このままでは、日本企業は人材獲得競争で遅れをとり、国際競争力を維持できなくなると警告している。

 LGBTの婚姻の権利をめぐっては、同性婚を認めないのは憲法が保障する「法の下の平等」に反するなどとして、今月14日、全国各地の同性カップル13組が国を相手取り、一斉訴訟を起こす予定だ。政府は、国の内外から圧力を受けることになり、早急な対応を迫られそうだ。

5商工会議所が共同声明

 提言は、米企業の活動を支援する在日米国商工会議所(ACCJ)がまとめ、在日オーストラリア・ニュージーランド商工会議所(ANZCCJ)、在日英国商工会議所(BCCJ)、在日カナダ商工会議所(CCCJ)、在日アイルランド商工会議所(IJCC)が支持を表明。昨年9月、5商工会議所の共同声明という形で公表した。その後も、在日デンマーク商工会議所(DCCJ)が支持を表明するなど、欧米を中心とした外国の商工会議所の間で、提言に対する支持や賛同の動きが広がっている。

 提言は英語と日本語で書かれ、日本語では「在日米国商工会議所(ACCJ)は、日本政府に対して、LGBT(Lesbian(レズビアン)、Gay(ゲイ)、Bisexual(バイセクシュアル)、Transgender(トランスジェンダー))カップルにも婚姻の権利を認めることを提言する」と明記。その理由を、人口の数%いるとされるLGBTに婚姻の権利を認めることが、海外から優秀な人材を引き付けると同時に優秀な人材の海外流出を防ぎ、その結果、日本企業も含め日本で活動する企業の生産性向上につながるなどと説明している。

日本への赴任を拒否

 ACCJのナンシー・ナガォ理事によると、現状では、米企業が自社のLGBT社員を日本に長期派遣しようとする場合、その社員のパートナーに配偶者ビザが発給されないという問題が生じ、結局、派遣を断念するケースがある。また、そうした法的な壁が日本にあることを知り、LGBTとして日本で暮らすことに不安を感じた当人が、赴任を辞退することもあるという。「いずれにせよ、長期派遣の対象となる社員は替えの利きにくい幹部クラスや専門職が多く、LGBTの婚姻が日本で認められていないことは、米企業にとって大きな問題となっている」(ナガォ理事)。

 さらに、同性婚が認められていないため、「企業が健康保険や住宅手当といった福利厚生面で、一般社員に対するのと同様のサービスをLGBT社員に提供できない」(ナガォ理事)といった問題もあり、米企業は対応に苦慮しているという。

 提言が5商工会議所の共同声明となったのは、ビザや福利厚生などの問題は、米企業に限らず、他の同性婚を合法化している国の企業にとっても大きな問題となっているためだ。ACCJによると、欧米の商工会議所が特定のテーマで互いに協力することは珍しくないが、正式な立場を表明する共同声明を出すのは異例という。

人材の海外流出も

 ACCJは、LGBTに婚姻の権利を認めることは、外資系企業ばかりでなく、日本企業にも恩恵をもたらすと強調する。実際、日本のLGBTカップルの中には、結婚や子育てを望んで、同性婚を認めている国に移住するケースもある。婚姻の権利をLGBTにまで広げることは、優秀な人材の海外流出を防ぐことにもつながるというわけだ。

 海外では、2000年にオランダが同性婚を合法化したのを皮切りに、同性婚を認める動きが広がり、現在は欧米を中心に25以上の国や地域で同性婚が可能になっている。

高まる機運

 日本では、国は同性婚を認めていないが、東京都渋谷区や世田谷区、兵庫県宝塚市など、同性カップルを夫婦に相当するパートナーと認めるパートナーシップ制度を導入する自治体が急速に増えている。また、ソニーやパナソニック、ソフトバンクなどグローバル企業を中心に、人事制度や福利厚生面でLGBTに対する差別をなくす取り組みが活発化。さらには、NHKが2017年に実施した世論調査で、回答者の51%が同性婚を認めるべきと答えるなど、LGBTへの理解が着実に広がりつつある。今回の外国商工会議所の提言は、こうした日本社会の機運の高まりをとらえたものだ。

 提言は最後に、「日本が2020年オリンピック開催国として準備を進めていく中で、日本に対する国際社会からの注目が今後一段と高まると予想されることから、日本政府が今、こうした変化に向けて踏み出すことが大きなメリットになると考える」とまとめ、早期の行動を促している。

 

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

猪瀬聖の最近の記事