長いトンネルからの脱出へ。バレンシアに漂う「復権」の予感。
崩れかけたクラブの再建をーー。それが、長らくバレンシアニスタが抱えてきた想いだ。
バレンシアはチャンピオンズリーグ・グループステージ第2節でマンチェスター・ユナイテッドに、リーガエスパニョーラ第8節でバルセロナに引き分けた。マルセリーノ・ガルシア・トラル監督は手ごたえを感じているはずだ。
■強いバレンシアを再び
2000年代初期に、2度のリーガ制覇と、2度のチャンピオンズリーグ決勝進出を果たした。しかし2004年夏にラファエル・ベニテス監督(現ニューカッスル)が辞任すると、バレンシアはそこから先の見えないトンネルへと足を踏み入れた。
そんなバレンシアに転機が訪れたのは、2014年5月のことだった。アマデオ・サルボ当時会長は、経営難に陥っていたバレンシアを救うため、クラブの売却を決断。その「買い手」となったのが、シンガポール人の実業家であるピーター・リムだ。
アジア人のオーナー就任には賛否両論あったが、それでも多くのバレンシアニスタが彼を歓迎した。クラブが資金のやり繰りに窮していたのは自明の事実であり、現状を打破するために売却を決めたサルボは英雄扱いを受けた。
バレンシアはその夏に総額1億4530万ユーロ(約188億円)を補強に投じ、合計12選手を次々に獲得した。期待感が高まったが、2015年7月にサルボとスポーツディレクターのフランシスコ・ルフェテがクラブを去ると、雲行きが怪しくなり始める。ヌノ・エスピリト・サント当時監督との意見の相違が引き金となり、要職に就いていた2人が一挙に抜けていった。
リムは指揮官ヌノを支持したにもかかわらず、その後あっさりと彼を解任してしまった。その後ガリー・ネビルを招聘したものの、経験不足は明らかで、それはリムの「友人人事」であるとさえ言われた。そのネビル政権が長く続くはずもなく、わずか4カ月でパコ・アジェスタランが新たに指揮を執る運びとなった。
■マルセリーノの就任と的確な補強
大富豪のオーナー就任で、誰もが輝かしい未来を思い描いていた。しかしながら、立て直しは簡単にはいかなかった。
リムの就任期間を含め、この5年で実に10人の指揮官がバレンシアを率いている。当然、監督交代の度にチームのプレースタイルは変わる。これでは選手たちは堪ったものではない。
2017-18シーズンを前に、「改革」が断行される。マルセリーノ・ガルシア・トラル監督が就任。それだけではなく、アニル・マーシー会長、スポーツディレクターのホセ・ラモン・アレシャンコ、ゼネラルディレクターのマテオ・アレマニーが次々に入閣した。
昨年夏の補強に成功したバレンシアだが、ゼネラルディレクターを務めるマテウ・アレマニーの手腕がそこで光った。ガブリエウ・パウリスタ、ジェイソン・ムリージョ、アンドレス・ペレイラ、ジョフレイ・コンドグビア、ゴンサロ・ゲデスらが続々と加入した。
なかでも、「大当たり」となったのがゲデスの獲得だった。そのスピードを武器に、ゲデスは瞬く間にリーガ屈指のサイドアタッカーとなった。ポルトガル代表のフェルナンド・サントス監督の目に留まり、ロシア・ワールドカップでクリスティアーノ・ロナウドと2トップを組むまでに成長した。
議論の余地がない、4-4-2に、マルセリーノ監督好みの選手たちが嵌っていく。マルセリーノ監督の戦術は、アトレティコ・マドリーを率いるディエゴ・シメオネ監督のそれに類似している。中盤にはセントラルMF型のプレーヤーが起用され、ボランチはアンカーを置くのではなく、パラレロ(平行)にダブルボランチが据えられる。
今季のアトレティコが新戦力の特徴により戦術に変化を加えている一方で、マルセリーノ監督の考えは変わっていない。この夏にミシー・バチュアイ、ダニエル・ワス、デニス・チェリシェフ、ケヴィン・ガメイロらが加入して、選手層は厚くなっている。
長くレアル・マドリー、バルセロナ、アトレティコが覇権を握ってきたリーガで、今季のバレンシアは開幕から1勝6分け1敗と「勝ち切れない」試合が続いた。だが先のユナイテッド戦、バルセロナ戦は試金石になり得る。強豪相手に対等に渡り合えたという自信が植え付けられ、チームは上昇気流に乗るかもしれない。
その時、マルセリーノ色に染められた選手たちが、躍動しているのは間違いないだろう。