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シメオネが守備に梃入れ。アトレティコに見る、縦型ボランチの機能性。

森田泰史スポーツライター
CL初戦で勝利したアトレティコ(写真:ロイター/アフロ)

リーガエスパニョーラで不安定な戦いを見せる一方で、チャンピオンズリーグの初戦を白星で飾ったアトレティコ・マドリーだが、アトレティコスはそれほど悲観する必要はないかも知れない。

この夏にはトマ・レマル、ジェルソン・マルティネス、ニコラ・カリニッチら期待の新戦力が続々と到着した。しかしながら、ガビ・フェルナンデスやフェルナンド・トーレスといった経験豊富な選手がクラブを去った。

■戦術の変更

アトレティコスの絶対的なアイドルだったF・トーレスに対して、ガビはディエゴ・シメオネ監督のフットボールを体現する選手だった。まさに「ピッチ上の監督」であり、アトレティコのブレインとなっていた。

そのガビが抜け、指揮官は戦術の変更を余儀なくされる。取り組んだのは、守備の梃入れだ。以前のアトレティコはガビやチアゴ・メンデスという戦術理解度の高い選手をダブルボランチに据え、彼らをパラレロ(平行)に配置していた。ボランチが最終ラインに入り、2人のCBと共に3バックを形成するという状況はほとんどない。バルセロナではセルヒオ・ブスケッツがこれをよくやっている。

ガビが去り、代わりにロドリ・エルナンデスが加入した。それにより、もたらされた変化とは、何だろうか。サウール・ニゲス、コケ、ロドリとセントラルMF型の3選手が並ぶことで、中盤に多様性が生まれるのだ。この選手たちに加えてアンヘル・コレアあるいはレマルが中盤で起用される。すると、4-4-2から4-3-3への試合中の移行がスムーズになる。例えば、左MFに配置されたコケが、ファルソ・ピボーテ(偽ボランチ)としてプレーする。サイドから降りてきて、ビルドアップに参加するコケを、相手チームは捕まえきれない。「数」と「空間」の利を制して、アトレティコの展開力が増すのだ。

モナコ戦のアトレティコの1点目の場面では、フアンフランのパスがセンターラインを超えたところでフリーとなっていたコケに通り、グリーズマンを経由してダイレクトパスが2本続いてジエゴ・コスタがフィニッシュした。モナコのMF陣が、ロドリとコケをマークし切れなかったために、生まれた得点だった。

守備力の高いロドリがいるため、逆説的に、コケが最終ライン付近まで下がってビルドアップに参加できるのである。

■縦型ボランチと可変型トリプルボランチ

現代フットボールにおいては、ボランチが世界的に軽視されている。この10年、バロンドール(FIFAバロンドール含む)を独占してきたのがリオネル・メッシ、クリスティアーノ・ロナウドの2選手だという事実から顧みて、やはり評価されるのはストライカーなのである。ただ、これは何も今に始まった話ではない。

それでも、バルセロナにはブスケッツ、レアル・マドリーにはカセミロという、絶対的なアンカーがいる。相手のカウンターを未然に防ぐ。時に「第三のCB」になる。時には、ファーストディフェンダーとして、プレスを掛ける。そして、彼らはチームの攻撃を方向付けることができる。

ボランチというポジションにおいて、かつては分業制の色が濃かった。ダブルボランチで、ひとりは攻撃型、もうひとりは守備型といった具合に、である。トニ・クロースなどはハイブリッド型の選手に挙げられるが、先のロシア・ワールドカップの傾向として、各チームのプレースタイルから彼らのような選手の相棒を見つけるのが非常に難しくなっていた。

対して、成功を収めたのがフランスだ。エンゴロ・カンテ、ポール・ポグバ。それにブレーズ・マテュイディを加え、フランスの中盤は時として歪な三角形を形成した。可変型トリプルボランチで、ボール回収量は大会随一だった。だからこそ、カンテの凄みが映えた。

今季のアトレティコでは、ロドリが実質的にアンカーとしてプレーしている。サウールとの関係性は「縦型ボランチ」で、状況によってはコケが絡んで可変型トリプルボランチを形成する。フランスに倣うように、アトレティコもまた中盤の構成力を高めている。

■前線からのプレス

そして、シメオネ監督の戦術に大きな影響を及ぼしたのがジエゴ・コスタの復帰だ。FIFAの処分により、今年1月から正式にプレー可能となったジエゴ・コスタだが、彼の加入でアトレティコが勝ち得たのは屈強な体躯を生かしてのポストプレーだけにとどまらない。

シメオネ監督がコスタを獲得した、本当の理由。それはグリーズマンと共に、2トップで前線からのプレスを掛けることにあった。相手のディフェンスラインで、ビルドアップアップの能力が低い選手を的にする。ボール扱いが不得手な選手にプレスをかけて、苦し紛れに出されたパスをコケ、ロドリが「刈り取る」。そして、インターセプトしたボールを間髪入れずにコスタあるいはグリーズマンに送り、少ない手数で仕留める。昨季の後半戦からシメオネ監督はこれを徹底していた。

また、アトレティコが今季見せたいもう一つの形は、逆サイドで引っ張って、一気にカウンターだろう。ロシアW杯で、キリアン・ムバッペが見せたように、である。コケから正確なロングパスが出る。そこにレマルあるいはコレアが走り込み、決定機を作り出す。そういうシーンが出てくれば、シメオネの戦術が浸透したという証になる。

CL初戦のモナコ戦では、先制して1-0で逃げ切るという展開ではなく、アトレティコらしくない、逆転勝ちを収めた。今季、アトレティコが逆転で勝利したのはUEFAスーパーカップのレアル・マドリー戦(4-2)に続いて2度目。そして、CLでは1996年のボルシア・ドルトムント戦(2-1)、2013年のポルト戦(2-1)、2014年のチェルシー戦(3-1)に続いて実に4度目の逆転勝利だった。

ポゼッション率(60%/40%)とパス本数(594本/396本)、パス成功率(82%/76%)でアトレティコはモナコを上回った。これも「らしくない」と言えるかもしれないが、それだけ戦術の幅が広がったということだ。

だが2得点はカウンターからセットプレーから生まれた。そこはアトレティコ「らしい」ところだった。まだ、シメオネ監督の戦術が完全に熟したわけではない。だが改革は着々と進められている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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