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フランスで一際輝きを放つカンテ。バロンドールとは無縁のポジション、アンカーの重要性。

森田泰史スポーツライター
フランスの中盤を支えるカンテ(写真:ロイター/アフロ)

ボランチの存在は、前回大会でも非常に重要だった。準優勝したアルゼンチンで、出色の出来だったのがマスチェラーノだ。

ロシア・ワールドカップにおいても、その重要性は変わらない。ただ、ダブルボランチよりワンボランチ、つまりアンカーの価値が高まっているような気がするのである。

■アンカーの存在感

フランスはカンテとポグバが横並びではなく、ポグバが少し高い位置を取っている。カンテとポグバが「縦の関係」になっており、見方によればカンテをアンカーとして位置づけることができる。

ベスト4に進んだチームは、対戦相手や状況によって、いずれもアンカーを置いている。フランスはカンテ、イングランドはヘンダーソン、ベルギーはヴィツェル、クロアチアはブロゾビッチが心臓部分を担う。

イングランドでは攻守にわたって走る中盤の選手を「ボックス・トゥ・ボックス」と称するが、ヘンダーソンは縦ではなく横のスペースをカバーする、いわば「掃除屋」だ。脇のスペースを突かれても慌てず、悉く中盤のボールを回収。デレ・アリ、スターリング、リンガード、この3選手のポジションを把握しながら、相手の攻撃の芽を早い段階で摘む。

攻撃時に3バック、守備時に5バックとシステムを使い分けるイングランドにおいて、ヘンダーソンの役割は簡単ではない。ウィングバックが激しい上下動をする中、試合の展開を読み、攻守の切り替えの部分で常に適切なポジショニングを取らなければいけないからだ。

ベルギーは大会前にナインゴランを外して話題を呼んだ。しかしながら、ロシアでの彼らの戦いぶりを見ると、その決断は正しかったように思う。ボール保持を好み、前線にタレントを揃えているベルギーが求めていたのは、「潰し役」ではなく、ビルドアップで起点になれる選手だ。スピードに乗ったカウンターを発動するのはヴィツェルではなく、ルカク、アザール、デ・ブルイネだった。

クロアチアはモドリッチとラキティッチのダブルボランチで大会初戦を迎えたが、その後ブロゾビッチを中盤の底に置き、核となる2選手のポジションを上げている。

■カンテとポグバの関係性

そして、決勝に勝ち進んでいるフランスだ。

ポグバとカンテは解り合える関係にある。今大会、ポグバが随所に良いプレーを見せているのは、カンテの貢献に拠るところが大きい。

思えば、ポグバは近年余りにも大きな期待を背負ってピッチに立っていた。2016年夏に当時史上最高額の移籍金1億500万ユーロ(約136億円)でユヴェントスからマンチェスター・ユナイテッドに移籍して以降、周囲は好奇と偏見の眼差しで彼を見つめていた。攻守において中心になるばかりでなく、得点やアシストまで記録するようなMF像が、暗に求められていた。

だがロシアW杯では、どうか。カンテのおかげで守備のタスクを減らしたポグバは、苦戦を強いられた初戦のオーストラリア戦で決勝点となるオウンゴールを誘発。一方で、準決勝ベルギー戦では上背のあるフェライニを徹底マークし、ゴール前でベルギーのクロスを幾度となく跳ね返した。逆説的に、彼はトータルフットボーラーとしてのMFに近づいている。

そのポグバの進化を促したのが、カンテだ。カンテの今大会のボール奪取数は48回。全選手で1位の数字である。

アルゼンチン、ウルグアイ、ベルギーと、破壊力のある攻撃陣あるいは決定力を備えるストライカーがいるチームと対峙したフランスだが、バイタルエリアへの侵入はカンテが許さなかった。そしてカンテはセカンドボールを可能な限り拾い、危機察知力でカウンターを未然に防ぐ。あの運動量があれば、フランスは12人でプレーしているようなものだ。

■中盤の選手とバロンドール

ボランチが「舵取り役」を意味する一方で、アンカーは「錨(いかり)」を意味する。

一昔前の守備的MFといえば、ボランチという言葉が示す通り、舵を取る役割だった。チームの攻撃を方向づけ、最終ラインからの繋ぎに参加して、ディフェンス面では相手のカウンターを未然に防ぐ。攻撃でも、守備でも、起点になる。総合力が要求されていた。

また、以前は分業制の色が濃かった。ダブルボランチで、ひとりは攻撃型、もうひとりは守備型といった具合に、である。

ただ、稀にこの2つの能力を兼ね備えた選手がいる。ブスケッツ(スペイン)、クロース(ドイツ)らがそれに当たる。しかし、今大会何が起きているかと言えば、各チームのプレースタイルからして、彼らのような選手の相棒を見つけるのが非常に難しくなっている。

スペインはコケやチアゴを試したが、最適な形を見つけられないまま開催国ロシアに敗れた。ドイツはケディラをクロースと組ませたが、FWのプレスバックによってクロースが完全に封じられると、チーム全体が呼吸不全に陥った。

酸素不足の攻撃では、フィニッシュの精度が欠ける。初戦メキシコ戦でそれを露呈して敗れたのは緊急事態への警告だったが、ドイツは最後まで課題を克服できずにグループステージ敗退が決まった。

翻って、シンプルに中盤に錨を置くチームが結果を出している。これはボランチとアンカーの意味合いが変化してきたからだろう。

そもそも、中盤の選手というのは、広義的な認知と評価を得るのが難しい。2010年にスペインが南アフリカ・ワールドカップで優勝した時でさえ、シャビやイニエスタにバロンドールが与えられることはなかった。中盤の選手のバロンドール受賞を探すには、ネドベドが栄誉を授かった2003年まで遡らなければならない。

しかし、だからこそ、淡々と自分に課せられたミッションをこなすカンテのような選手の、凄みが醸し出されるのだ。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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