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「サッカーゴール等固定チェックの日」を前に #こどもをまもる

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
小学生向けのリーフレット(表紙) 筆者撮影

 2017年1月13日、福岡県大川市の小学校の校庭でハンドボール用ゴールが転倒し、小学校4年生の男の子が死亡した。私は、その新聞記事を読んで「まだ、こんなことが起こっているのか!」と愕然とした。2004年1月13日には、静岡県清水市(当時)の中学校でサッカーゴールが転倒し、中学3年生が死亡していた。文科省からは、2009年3月、2010年3月、2012年7月、2013年9月など、毎年のようにサッカーゴール等の転倒による事故防止の通達が出されていた。なぜ、同じ事故が起こり続けるのか?

 これ以上、同じ事故を起こしてはならない!文科省関係の会議で知り合いになった弁護士の望月浩一郎先生に電話をして「もうこの状況を放置できない!われわれでやりましょう」と、この問題に取り組むことにした。

 この事故をきっかけにして、多職種の人が自発的に集まり、予防のための取り組みが始まった。2017年8月27日、 を開催し、予防のための提言を出した。以後、毎年課題を決めて、「組体操」、「ムカデ競走」、「プール見守り」、「サッカーのヘディング」、「跳び箱」、「体育館」などについて検討し、提言を出した。2023年9月30日、それまでの6年間の活動を評価するシンポジウムを行い、「これで防げる!学校体育・スポーツ事故 〜科学的視点で考える実践へのヒント〜」(望月浩一郎ら編、中央法規出版)という本を出版した。

サッカーゴール等の転倒事故の発生状況(2017年〜2021年)

 日本スポーツ振興センターの災害共済給付のデータでサッカーゴール等の転倒事故の発生数を知ることができる。産業技術総合研究所の北村光司主任研究員の分析結果を図1〜4に示した。

図1 事故件数の経年変化(小学校)
図1 事故件数の経年変化(小学校)

図2 サッカーゴールの転倒事故状況別の件数(小学校)
図2 サッカーゴールの転倒事故状況別の件数(小学校)

図3 事故件数の経年変化(中学校)
図3 事故件数の経年変化(中学校)

図4 サッカーゴールの転倒事故状況別の件数(中学校)
図4 サッカーゴールの転倒事故状況別の件数(中学校)

 小学校では、2017年には15件、2020年には4件発生し、状況別では、「ぶら下がり、よじ登り、揺らし」が最も多くなっていた。中学校では、2017年は39件、2021年には19件発生し、状況別では、「片付け、運搬、設置中」が最も多くなっていた。

 2020年、2021年は、新型コロナウイルス感染症の流行のため、学校生活が制限されていたので、そのために発生数が減少したのかもしれない。このデータを見ると、いまだにサッカーゴール等の転倒事故は起こっていることがわかる。今後も、サッカーゴール等の転倒事故の発生状況をフォローしていく必要があり、さらに、どのような状況で転倒したのか、それを予防するためにはどのような対策が必要かを明らかにしていく必要がある。

サッカーゴール等の固定に関するこれまでの取り組み

 2017年8月のシンポジウムで提言を出しただけでは予防にはつながらない。そこで、具体的な予防活動に取り組んだ。

① サッカーゴール等固定チェックの日の制定

 NPO法人 Safe Kids Japanでは、2人のこどもが亡くなった1月13日を「サッカーゴール等固定チェックの日」とし、その日を中心にゴールの固定状況をチェックしてもらうことを広く社会に呼びかけることにした。

 Safe Kids Japanのウェブサイトに「サッカーゴール等固定チェックの日」特設サイトを設置し、小・中学生、そして教職員や保護者の皆さんにゴールを固定している状況を撮影してもらい、その写真をウェブサイト上で共有する「フォト・シェアリング」という活動を実施した。

 2018年1月13日から1か月間、学校や公園、スポーツ施設等に設置されているサッカー用ゴール、フットサル用ゴール、ハンドボール用ゴールなどがきちんと固定されているかチェックして、固定の様子を撮影して送ってくださいと呼び掛けたが、送られてきた写真は数枚で、この活動はほとんど機能しなかった。

② 遺族との連携

 2018年7月28日、西日本新聞のウェブサイトに、「『晴翔、見えているか?』事故死の小4が祖父に託した種…ヒマワリが満開に」という記事が掲載された。亡くなった児童は、事故が起こる1か月前に、ひまわりの種を祖父に手渡していて、祖父がその種を蒔いたところ、ひまわりが満開になったという記事であった。

 この記事を書いた記者の仲介で、秋にひまわりの種を祖父の方から送っていただき、ひまわりをSafe Kids Japanが実施している「サッカーゴール等固定チェック」活動のシンボルにすることにした。また、リーフレットを作成して、サッカーゴール転倒防止固定装置なども紹介し、広く呼びかけを行った。

③ その他の取り組み

・関係機関への働きかけとして、2018年5月、S市とH市の教育委員会を訪問し、サッカーゴール等の固定状況を写真に撮って教育委員会に送ってもらい、固定状況を定期的に調査するシステムを提案し、教員の研修会で話もしたが、フォト・シェアリングの実施にはつながらなかった。

・スポーツ庁の担当部署に、このサッカーゴール等の固定チェックシステムを提案し、各教育委員会に指示してもらいたいと依頼したが、それはスポーツ庁の仕事ではないと言われた。

・ある国会議員に相談したところ、校長会で話をする機会を持つことができ、2019年5月に開催された各県の校長が集まる全国連合小学校長会総会と、全日本中学校長会総会で、それぞれ15分間話をさせていただいたが、現場まで伝わったかどうかは不明である。

・日本スポーツ振興センターの研修会の講演で予防を呼び掛けた。

日本スポーツ振興センターのサイトで、ゴールの転倒の実験映像を紹介してもらった。

・日本サッカー協会に協力の申し入れをしたが、反応はなかった。

・プロのサッカー選手による「ゴールには絶対にぶら下がらない」という子ども向けメッセージビデオの制作を企画したが、コロナの影響で実現しなかった。

・Y市教育長に働きかけたが、反応はなかった。

 一方、地域での取り組みもあった。香川県を中心に活動している非営利団体「子ども安全ネットかがわ」では、サッカーゴールの固定チェック活動を行って成果をあげていた。

 福岡県大川市では、この事故を教訓に学校安全の取り組みを進め、大川市学校安全実践委員会が設立され、2023年4月には、ご遺族などの協力を得てリーフレットを作成した。

 これまで、上記のような取り組みを行ってきたが、いずれも十分な効果を上げるには至らなかった。いまだサッカーゴール等の転倒事故は起こっており、引き続き取り組む必要がある。

事実として:

1 移動が必要なサッカーゴール等は、今後も使われ続ける。

2 それに伴って、サッカーゴール等の転倒事故は、必ず発生する。

3 サッカーゴール等の固定状況を定期的にチェックすることが必要であるが、実施はむずかしい。

4 「フォト・シェアリング」で、定期的、継続的に固定状況をチェックするシステムの実施はむずかしい。

今後の取り組みは:

1 小・中・高校生に、サッカーゴール転倒時の危険性について、ゴールの転倒映像を見せて、その衝撃力を教える。

2 運動場に埋設型固定具の設置を推進する。

3 軽量のゴールを普及させる。

4 重傷事故が起こった時は、「決定権がある」、「予算をつけられる」人にアプローチする。首長に働きかけ、埋設型固定具の設置を予算化してもらう。

5 ゴールの転倒事故が起こったら、すぐに行動を起こすための準備(要望書の作成、地方議員との連携)をしておく。

6 ゴールは、倒れても強く挟み込まれない構造にする。後付けすることができ、安価で、容易に取り付けられる器具を開発する。

 サッカーゴール等が転倒した時の危険性は、ゴールの枠と地面のあいだに身体が挟まれることによる。「挟み込まれない」ようにするには、ゴールの上端に30cmくらいの突起物をつけて、身体が挟み込まれない構造にすればよいのではないか。これまで「固定する」という固定観念にとらわれていたが、倒れることを前提にして、倒れても「挟み込まれない」構造にすればいいのではないか。シンポジウムが終わった数日後、サッカーゴール等の固定具を製作している会社の社長に電話で提案してみた。これまで、そういうことは考えたことはなかったとのこと。あまり乗り気ではない回答をもらっただけであった。

 今年の「サッカーゴール等固定チェックの日」は、この7年間を振り返ってみた。今は、次の取り組みを思案中である。

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小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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