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「王様のブランチ」リポーターを経て、初ヌード写真集も話題。夫の心に自分はいない妻を演じ切って

水上賢治映画ライター
「遠くへ,もっと遠くへ」で主演を務めた新藤まなみ 筆者撮影

 結婚5年目、年上の夫にもう見切りをつけた女と、家を出ていった妻のことをいまだに引きずっている男。

 いまおかしんじ・監督、井土紀州・脚本による映画「遠くへ,もっと遠くへ」は、こんな女と男の出会いの物語だ。

 ここではないどこかを探し求める二人が辿り着く先は?

 新たな愛へと踏み出そうとする彼らの旅路が描かれる。

 その中で、主演を務めるのは、「王様のブランチ」リポーター出身で昨年発表したデジタル写真集が大きな話題を呼んだ新藤まなみ。

 ある意味、天然で自由人、でもものすごく現実的でしっかりもしているヒロインの小夜子役を艶やかにキュートに演じ切っている。

 ちょっとびっくりするユニークなヒロイン像を作り上げた彼女に訊く。(全五回)

 「遠くへ,もっと遠くへ」で主演を務めた新藤まなみ 筆者撮影
 「遠くへ,もっと遠くへ」で主演を務めた新藤まなみ 筆者撮影

思うようには進まないのが人生なんだろうな

 演じた小夜子についてここまでいろいろと訊いてきた。

 では、この作品の物語については、どんな感想を抱いただろうか?

「人生ってたぶんこういうことを繰り返していくんだろうな、と思いました。

 つまり、ままならないことの繰り返しというか。

 どれほど綿密に予定を立てたとしても、予定通りにはそう簡単には進まないんだろうなと。

 考えると、確かにそういうところがあると思うんですよね。

 たとえばあまり急いでいない、なんなら予定より早く着きすぎてしまうので乗り継ぎがスムースじゃなくていいと思っているときに限って、もう信じられないぐらい乗り継ぎ0分みたいな形で電車に乗れたりしてしまう。

 急ぎでいるときに限って、ダイヤが大幅に乱れていたりする。

 そんな感じで思うようには進まないのが人生なんだろうなと、改めて考えさせられました。

 でも、だから面白いというか。スムースじゃなくて、途中で寄り道してしまったり、思わぬハプニングに遭遇したりする。

 そこで新たな出会いがあって、自分の人生が思わぬ方向へと進むこともある。

 小夜子と洋平もそうですよね。おそらく小夜子が家を出ることを考えなければ出会わなかった。

 こういう新たな出会いがある喜びもこの物語からは感じました」

小夜子は、『なんていい女性なんだ』と思いました

 小夜子については、演じ切ってどんな印象を持っただろうか?

「以前お話しした通り、わたしに似ているところがけっこうある役で。

 痛いぐらい彼女の気持ちがわかるところがあったので、思い出深い役になりました。

 小夜子自身はもう別れを決断している。でも、夫の性格を考えると、ショックで立ち直れない可能性も予見できて自分からは切り出せない。

 どうしようと思っているところ、夫から別れを切り出されてしまう。そこで『だよね』といって彼女は家を後にする。

 これもよく考えるとできそうでできないですよね。心がないとしてもケンカのひとつも起きて不思議ではない(苦笑)。

 それから、洋平と出会って『おまえ、絶対ほんとは出ていった奥さんに会いたいだろうと』とわかって、動き出せない彼を激励して送り出してあげる。

 これもできそうでできない。

 そういう相手の気持ちを察して、自分のことよりもその思いを大切にしてあげることができる小夜子は、『なんていい女性なんだ』と思いました。

 演じていていじらしく、そして愛おしくなる女性でしたね」

「遠くへ,もっと遠くへ」より
「遠くへ,もっと遠くへ」より

小夜子を演じたことで自分としても一皮むけた感触のようなものがあります

 自分の中で、大きな経験にもなった役だと明かす。

「大きな手ごたえのようなものがあって、小夜子を演じたことで自分としても一皮むけた感触のようなものがあります。

 これまで、モデルであったりとか、『王様のブランチ』でリポーターをやったりとか、MCをやったりとか、グラビアをやったりとか、ありがたいことにいろいろなお仕事をすることができました。

 それはそれで楽しかったし、自分にとって大切なものになっている。

 ただ、わたしの中心にはお芝居があるというか。

 お芝居が好きで、この世界に入ったので、一番お芝居をすることが好きなんですね。

 で、なんで一皮むけたと思ったのかというと、今回はこれまでチャレンジしたことのない役であり作品で。

 わたしとしては未知の世界に足を踏み入れるような感覚があったんです。

 『遠くへ,もっと遠くへ』は、決してわかりやすい映画ではないというか。

 たとえば主人公がここでは怒って、ここでは泣いて、ここでは喜ぶ、みたいな感情が明確にされているわけではない。

 心の中にしまいこんでいる感情を、言葉ではなくて、その表情や会話のトーン、所作で表現していかなくてはいけない。

 物語も、ドラマティックなことが起きて話が転がっていくわけではなく、明確に起承転結があるわけでもない。

 淡々とした日常の中での、ごく普通の男女のやりとりになっている。

 でも、その何気ない人と人とのコミュニケーションや人間の営みの中にリアリティがあって、なんともいえない人間らしさが感じられる愛おしく温かい物語になっている。

 つまり、叫んだり嘆き悲しんだりといった大げさなアクションはいらない。

 気持ちのちょっとした揺れを表情ひとつで伝えるような繊細かつリアリティのある演技が求められた。

 だから、ほんとうにプレッシャーだったんです。

 なにか一つでも欠けたらリアリティは失われ、作品が成立しないことになってしまうことは明白なので、自分がそういう繊細な表現ができるのかと。

 ほんとうにひとりの人間としてひとりの役者として真摯に向き合わないといけない作品でした。

 小手先では通用しない。だから、もう映画の中で真っ裸になっているんですけど(笑)、気持ちとしても役者としても丸裸になって飛び込むしかなかった。

 で、自分としては真っ裸になって飛び込んでやることができて、小夜子をまっとうすることができた。

 これは大きな自信で、俳優としてひとつステップアップできたのではないかと思っています」

(※本編インタビューは終了。次回から今後のことや役者としての目標などを聞いた番外編を続けます)

【新藤まなみ第一回インタビューはこちら】

【新藤まなみ第二回インタビューはこちら】

【新藤まなみ第三回インタビューはこちら】

【新藤まなみ第四回インタビューはこちら】

「遠くへ,もっと遠くへ」ポスタービジュアル
「遠くへ,もっと遠くへ」ポスタービジュアル

「遠くへ,もっと遠くへ」

監督:いまおかしんじ 

脚本:井土紀州

出演:新藤まなみ 吉村界人

和田 瞳/川瀬陽太/大迫一平/佐渡寧子

黒住尚生/広瀬彰勇/佐藤真澄/茜 ゆりか

広島県・横川シネマにて12/24(土)~公開

ポスタービジュアル及び場面写真はすべて(C)2022レジェンド・ピクチャーズ

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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