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「王様のブランチ」リポーターを経て、初ヌード写真集も話題。夫の心に自分はいない妻を演じて考えたこと

水上賢治映画ライター
「遠くへ,もっと遠くへ」で主演を務めた新藤まなみ 筆者撮影

 結婚5年目、年上の夫にもう見切りをつけた女と、家を出ていった妻のことをいまだに引きずっている男。

 いまおかしんじ・監督、井土紀州・脚本による映画「遠くへ,もっと遠くへ」は、こんな女と男の出会いの物語だ。

 ここではないどこかを探し求める二人が辿り着く先は?

 新たな愛へと踏み出そうとする彼らの旅路が描かれる。

 その中で、主演を務めるのは、「王様のブランチ」リポーター出身で昨年発表したデジタル写真集が大きな話題を呼んだ新藤まなみ。

 ある意味、天然で自由人、でもものすごく現実的でしっかりもしているヒロインの小夜子役を艶やかにキュートに演じ切っている。

 ちょっとびっくりするユニークなヒロイン像を作り上げた彼女に訊く。(全五回)

「遠くへ,もっと遠くへ」で主演を務めた新藤まなみ 筆者撮影
「遠くへ,もっと遠くへ」で主演を務めた新藤まなみ 筆者撮影

よくよく考えると、小夜子が洋平の妻探しに同行する必要はない(苦笑)

 第三回も引き続き演じた小夜子の話から。

 夫の心にもう自分がいないことを悟った小夜子は、新たな住まい探しで不動産会社の社員、洋平と出会う。

 その中で、彼が妻に逃げられたこと、その事実をまだ受け入れられずにいることを知る。

 そのとき、元の鞘に収まるのか、未練を断ち切るのか、いずれにしても一度、本人に会わないといけないだろうと、小夜子は洋平を妻探しの旅へと引っ張り出す。

「これはもう前回お話しましたけど、小夜子のほっとけない性格で。

 洋平に『もっとしっかりしなさい』とケツを叩いて、無理にでも一歩踏み出させようとしている(笑)。

 よくよく考えると、小夜子が同行する必要はないといえばない(苦笑)。『頑張ってきてね』と洋平を送り出せばそれで済むと言えば済む。

 では、なぜ同行したのか?

 洋平は奥さんに逃げられたことを小夜子に打ち明けている。

 小夜子は夫ともう離婚しようと思っていることを洋平に打ち明けている。

 互いにもう薄々はわかっているんだけど、パートナーとの関係の答えを見つけなくてはいけない。

 気持ちに一区切りつけないといけない。

 そのための時間が必要で、それがこの二人での奥さん探しだったのかなと。

 お互いに正解を見つけないといけない、だから、小夜子は洋平についていったのかなと思いました。

 まあ単純に洋平が踏ん切りつかなくて、すぐに諦めて戻ってきそうだから、監視役でついていったところもあるとおもうんですけどね(笑)」

「遠くへ,もっと遠くへ」より
「遠くへ,もっと遠くへ」より

小夜子と夫の関係は台本上に詳しくは書いていませんけど、

察するところは随所にありました

 劇中で、詳しく描かれているわけではないが、なんとなく感じられるのが小夜子と夫の関係の距離。

 これは端々からもう埋まりようのない溝があることが感じられる。

 この夫婦の関係はどう受けとめていたのだろうか?

「台本上に詳しく書いていませんけど、察するところは随所にあって。

 たとえば冒頭の釣りの話をするところから、けっこう付き合ってから結婚するまでの期間が長かったことがうかがえる。

 そこからは、初めてのデートで、彼の趣味に付き合うみたい感じでいったことがわかって、なんとなく二人の初々しいころのことが想像させられる。

 でも、一方で、小夜子が『久々に(釣りに)行こうかな』と言うと、夫に『そのときに嫌いって言ったじゃん』と返される。

 小夜子自身は、そんなことを言ったのをほぼ覚えていない。でも、夫はいまだに覚えている。

 この瞬間、小夜子は思っちゃうんですよね。『初釣りデートのときからもうこの人とは噛み合ってなかったんだ』と。

 また『この二人は、たぶん結婚してから釣りには一緒に一度もいっていない。もうお互い仕事にいって、帰宅して家でご飯を食べるだけのドライな関係に収まっていたのかな』といったことが想像できる。

 こういうところから夫婦の現時点の関係やかつてのことまでが見えてくるので、それを受けて感じながら小夜子を演じていました。

 だから、さきほどの釣りのシーンとかはもう切なかったというか。

 夫の気は釣り道具の方にいっていて、入ってきた小夜子にほとんど関心がない。

 その夫の心の所在が自分の方にはないことをひしひしと感じて、もうやり直すレベルではない関係になっちゃっているんだなと感じながら演じていました」

「遠くへ,もっと遠くへ」で主演を務めた新藤まなみ 筆者撮影
「遠くへ,もっと遠くへ」で主演を務めた新藤まなみ 筆者撮影

現実の別れって、予定通りにって感じじゃない

 このようにいろいろなところに小夜子のリアルな感情が隠れているような脚本だったという。

「小夜子は結局、夫の心情をおもんばかって別れを切り出せない。

 で、夫に思いがけないところで逆に別れを切り出されてしまう。

 あのときは、完全にびっくりして面食らってますけど、ちょっとは『やはりそうですか、まあわたしもそのつもりで動いていましたけど』といった気持ちもあって、とりあえずその日のうちに家を出てしまう。

 ただ、なんか別れた実感みたいなものはまだない。

 それでとりあえず友だちに電話をかけて、そこでなんとなく『現実である』と確認する。

 このあたりもリアルで、おそらくわたしも同じような場面に直面したら『自分からいうべきか迷ってたけど、先にいわれちゃったわ』となんともいえない状況になるんだろうなと。

 別れの場面って、映画やドラマだときれい終わるじゃないですか。

 でも、現実はそう簡単にいかない。

 この夫が別れを切り出すシーンのように、思いがけない形で気づけばそうなっていたというか。

 あのとき、夫も最初は別れを切り出そうとはあまり考えていなかった。でも、なにかその場にいた瞬間的に口に出てしまったところがある。

 現実の別れって、そんな感じで予定通りにって感じじゃない。

 そういうところもリアルだなと感じながら演じていましたね」

(※第四回に続く)

【新藤まなみ第一回インタビューはこちら】

【新藤まなみ第二回インタビューはこちら】

「遠くへ,もっと遠くへ」ポスタービジュアルより
「遠くへ,もっと遠くへ」ポスタービジュアルより

「遠くへ,もっと遠くへ」

監督:いまおかしんじ 

脚本:井土紀州

出演:新藤まなみ 吉村界人

和田 瞳/川瀬陽太/大迫一平/佐渡寧子

黒住尚生/広瀬彰勇/佐藤真澄/茜 ゆりか

栃木・小山シネマロブレにて公開中、兵庫・元町映画館にて11/5~公開

ポスタービジュアル及び場面写真はすべて(C)2022レジェンド・ピクチャーズ

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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