ジャック・スターズ・バーニング・スターが新作を発表。アメリカン・ヘヴィ・メタルの炎の守護神【前編】
ジャック・スターズ・バーニング・スターがニュー・アルバム『Souls Of The Innocent』を海外で発表した。
1980年代初め、ヴァージン・スティールの一員としてデビューしたジャック・スターは、40年以上にわたってアメリカン・ヘヴィ・メタルの炎を絶やすことなく前進してきたギタリストだ。彼の世代のアーティスト達が扉を大きく開け放ったことでヘヴィ・メタルは世界に拡がり、今日でも聴き継がれるムーヴメントになった。ヴァージン・スティールの1983年のセカンド・アルバムのタイトルは『Guardians Of The Flame』だが、彼こそがヘヴィ・メタルの“炎の守護神”だといえる。
ヘヴィで攻撃的、エピック(壮大)でメロディックなサウンドがさらに鋭さを増した新作を世界に問うジャックとのインタビューが実現。『Souls Of The Innocent』の音楽世界とその軌跡を、全2回のインタビューでお届けしよう。
まず前編では、ジャックに最新アルバムについて訊いた。
<『Souls Of The Innocent』は純正アメリカン・ヘヴィ・メタルだ>
●私(山﨑)があなたの音楽に初めて触れたのは1983年頃、イギリスの“ミュージック・フォー・ネイションズ”というレーベルを知ったときでした。第1弾リリースがヴァージン・スティール、その後にメタリカ、マーシフル・フェイト、ラウドネス、ラットなどが続いて、非常にエキサイティングなレーベルだったと思います。
俺たちにとってもすごくエキサイティングな時期だった。デビュー作だったし、当時ヘヴィ・メタルはまだ新しい音楽で、メタル系インディーズ・レーベルというものが動き始めた時期だった。アメリカの“シュラプネル・レコーズ”や“メタル・ブレイド・レコーズ”、イギリスの“ミュージック・フォー・ネイションズ”などと交流することが出来たのは幸運だったし、貴重な経験をしたよ。当時、日本でもヴァージン・スティールのLPが発売になって、インタビューが日本の雑誌に載ったりもしたんだ。自分たちの音楽が太平洋の向こうの国で聴かれているということにスリルを感じたよ。
●最新作『Souls Of The Innocent』のサウンドについて、日本のファンにどのように説明しますか?
純正アメリカン・ヘヴィ・メタルだよ。俺たちは“エイティーズ・メタル”や“エピック・メタル”と呼ばれることを恐れていないし、むしろ誇りにしている。もちろん1980年代スタイルのヘヴィ・メタルといっても、ポイズンやモトリー・クルーのような西海岸のヘア・メタルではない。ニューヨーク・メタルだよ。マノウォーやライオット、ザ・ロッズとは同志なんだ。さらに俺はフランスに生まれたから、ヨーロッパの文化の影響を取り入れている。初期ヴァージン・スティールで確立したスタイルを受け継いでいるのがバーニング・スターなんだ。ソングライティングにもまったく妥協しなかったし、オールド・ファンも新しいリスナーもきっと満足してくれるだろう。
●アルバムのサウンド面ではどのようなこだわりがありましたか?
すべての楽器をバランス良く聴くことが出来るように心がけたんだ。ヘッドフォンで聴くと、ダイナミックな音に吹っ飛ばされるよ。『Souls Of The Innocent』はプロダクションもミックスも最高だ。共同プロデューサーのケヴィン・バーンズはドッケンにいたこともある人で、ギターのことをよく判っている。ベーシストのネッド・メローニとの共同作業も息が合って、素晴らしい成果を得ることが出来たね。俺たちはスタジオでドラム・マシンやクリックに合わせてプレイしたりしない。人間のドラマーに合わせることで生のパワーとグルーヴが生まれるんだ。もちろん、それにはしっかりリズムをキープ出来るドラマーが必要だ。ライノはそんな意味で理想的だよ。彼はマノウォーにいたことがあるし、ネッドはジョー・リン・ターナーのバンドやキックス(KIX)のシンガー、スティーヴ・ホワイトマンがやっていたファニー・マニーでもプレイしていた。歴戦の強者だよ。
<ポジティヴなメッセージ、ファンタジーよりも現実に根差したテーマを描いている>
●40年を超えるベテランでありながら、今なお心臓をグサリと突き刺すエッジがありますが、どうやって殺傷力を維持しているのですか?
“心臓をグサリと突き刺す”という表現は気に入ったよ。次のアルバムで使わせてもらうかもね(笑)。俺は熱いパッションのある音楽が好きなんだ。心地よいBGMをやるつもりはない。首根っこを捕まえて強引にリスナーに聴かせる、そんな音楽をプレイするんだ。それは俺だけではない。ベーシストのネッド・メローニとはソロ・アルバム『アウト・オブ・ザ・ダークネス』(1984)で初めて共演したけど、やはり情熱を持ったミュージシャンだ。彼のプレイには独自のスタイルがあって、それに安住することなく、常に向上を目指している。現在の彼は、当時よりずっと優れたプレイヤーだ。ライノはかつてのマノウォー時代よりも凄いドラマーに変貌を遂げているんじゃないかな。
●新加入のシンガー、アレックス・パンツァについて教えて下さい。
アレックスはイタリア出身で29歳のシンガーだ。前任者のトッド・マイケル・ホールも良いシンガーだったけど、脱退してライオットに入ってしまったんで、同じかそれ以上の力量があるシンガーを迎える必要があった。でも、そんな人がすぐ見つかる筈もなく、2年かけてようやくアレックスを見つけたんだ。俺の元マネージャーが何人かのシンガーを紹介してくれたけど、その1人が彼だった。声量や声域、技術はもちろんだけど、クラウス・マイネっぽい声質で、ヨーロピアンな個性があるのが気に入ったんだ。ロニー・ジェイムズ・ディオやジェフ・テイトのクローンではなく、ユニークなところが魅力だよ。
●アルバムは新型コロナウィルス禍の最中に制作されましたが、アレックスはどのような形でレコーディングに参加したのですか?
彼は新型コロナウィルスのパンデミック直前にアメリカに来て、数回ライヴをやって、曲のアレンジもしたんだ。イタリアに戻ってからパンデミックが始まったんで、リモートで本格的にトラックを録ることにした。英語の発音はネッドがコーチしたよ。さほど問題はなかったし、ちょっとしたアクセントはむしろ長所になっていたけどね。
●ライヴは行っていましたか?
バーニング・スターとしての正式なライヴは数年やっていないんだ。早くツアーに戻りたいんだけどね。去年(2021年)の2月、ハーレーダビッドソンのディーラーが主催する野外コンサートに出演したよ(注:このときはライノがヴォーカルを務めた)。その前には元UFOのポール・チャップマンの追悼ライヴをやった。ネッドの奥さんの母親がポールと結婚したから、ポールはネッドの義父ということになる。彼が亡くなったのはコロナ禍の真っ最中の2020年6月だったから、感染リスクを軽減するために屋外でやったんだ。6〜700人が集まって、ポールの人生と彼の音楽にトリビュートを捧げたよ。
●現在バンドはどこに活動拠点を置いていますか?
フロリダ州メルボルンだよ。俺はフランス生まれで、英語は10歳のときに始めたんだ。親に連れられてニューヨーク州ロングアイランドに移住して、2003年にフロリダに引っ越してきた。フロリダに移ったのは、アルバム『Under A Savage Sky』(2003)を作るためだったんだ。ニューヨーク州は寒いし、物価も高すぎるから、レコーディングしたくなかった。それでネッドの住むフロリダに行くことにしたんだよ。一瞬で恋に落ちたね。当初はパームベイに暮らしていたけど、今ではメルボルンの彼の近所に住んでいる。ポール・チャップマンもメルボルン在住で、友人になることが出来た。彼はとてもユーモアのある、寛大な人物だったよ。
●『Souls Of The Innocent』にゲスト・ミュージシャンは参加していますか?
共同プロデューサーのケヴィン・バーンズが「All Out War」でギター・ソロを弾いている。彼が唯一のゲストだよ。『Land Of The Dead』(2011)ではマノウォーにいたロス・ザ・ボスやデヴィッド・シャンクルがゲスト参加したけど、今回は“バンド・アルバム”にしたかったんだ。
●『Souls Of The Innocent』のアルバム・ジャケットはドラゴンと剣、墓石と謎めいた女性をフィーチュアしたファンタジックなものですが、歌詞はどんなことを題材にしていますか?
まず言っておきたいのは、俺たちは悪魔や黒魔術を讃える歌詞を書いたりはしない。ポジティヴなメッセージを伝えようとしているんだ。このアルバムでは、ファンタジーよりも現実に根差したテーマを描いているよ。「Demons Behind Me」はドラッグの危険性についてだし、「Souls Of The Innocent」は2017年、ラスヴェガスであった銃乱射事件を題材にしている。カントリー音楽のフェスで、犯人がホテルの高層階から観客に向けて発砲して、60人が亡くなったんだ。ネッドも俺もショックを受けて、この歌詞を書いた。音楽を楽しむという無垢な喜びの最中に命を失った人々に捧げる曲だ。
<俺がやってきた音楽にはひとつの連続性がある>
●アルバム・ジャケットのキャラクター“ブレイズ・ザ・バーニング・スター・ドラゴン”について教えて下さい。
ジャック・スターズ・バーニング・スターというバンドのイメージ・キャラクターが欲しかったんだ。アイアン・メイデンの“エディ”やライオットの“ティオール”のように、俺たちの音楽をヴィジュアル的に象徴するシンボルをね。『Souls Of The Innocent』ジャケットのドラゴンがピッタリだと思って、ネットで名前を募集した。ただし“パフ”はピーター・ポール&マリーに既に取られたからNGだって条件を付けてね(笑)。“ブレイズ”は“炎”という意味だし、バンドのイメージに合っていると思う。これからステージの垂れ幕やビデオなど、さまざまなところで登場させるよ。ヘヴィ・メタルはあまり深刻にならず、楽しいものであるべきなんだ。マスコットがいれば、バンドの音楽をより楽しめるんじゃないかな。
●ヴァージン・スティールのファースト・アルバム『危険地帯 Virgin Steele I』(1982)ジャケットのドラゴンも“ブレイズ”でしょうか?
いや、あのジャケットはどこかの惑星を舞台にしているから、別のスペース・ドラゴンだよ。宇宙船が描かれているけど、胴体には“NWAHM”と書かれているんだ。New Wave of American Heavy Metalの意味だよ。アイアン・メイデン、サクソン、エンジェル・ウィッチらを輩出したイギリスの“ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタル”に対する返答だったんだ。マノウォー、ライオット、ザ・ロッズ、ジャグ・パンツァー、そしてヴァージン・スティールが新しいムーヴメントを起こすという宣言だった。
●『Souls Of The Innocent』はイギリスの“グローバル・ロック・レコーズ”からのリリースとなりますが、彼らとの関係はどのようなものですか?
“グローバル・ロック”は新興レーベルだけど、バーニング・スターの音楽を信じてくれているし、バック・カタログもまとめて再発してくれるんだ。新しいファンを開拓したいとも言ってくれているし、ミュージック・ビデオも「Souls Of The Innocent」「Demons Behind Me」「I Am The Sinner」と、3本作ってくれる。きわめて良い関係だよ。
●アルバム『Under A Savage Sky』(2003)は当時ガーディアンズ・オブ・ザ・フレイム名義で発表されましたが、今回(2022年)“グローバル・ロック”からの再発盤がジャック・スターズ・バーニング・スター名義になったのはどんな事情があったのですか?
7〜8年のあいだ音楽シーンから離れていて、『Under A Savage Sky』はカムバック・アルバムだったんだ。それで自分にとって新しいスタートだと考えて、ガーディアンズ・オブ・ザ・フレイムというバンド名で活動を再開した。ただ、俺がやってきた音楽にはひとつの連続性があるし、1枚だけ別名義なのはファンを混乱させると考えたんだ。ガーディアンズ・オブ・ザ・フレイムとしては一度もライヴをやっていないし、アルバムを作るためのプロジェクトだったんだよ。当時、マノウォーのジョーイ・ディマイオにも言われたんだ。バーニング・スターでファン層を築き上げてきたのに、実態を持たないバンド名義で出すのはもったいないってね。今になってみると、彼の言うことにも納得出来る。それで今回、再発するにあたって、バーニング・スターの作品として出すことにしたんだ。このアルバムではネッドがベースを弾いていて、オランダのピクチャーというバンドにいたシュムーリク・アヴィガルが歌っている。彼はザ・ロッズに在籍したこともあるけど、良いシンガーだよ。
●ジョーイ・ディマイオとは親しい仲ですか?
うん、1980年代から友達だよ。『Defiance』(2009)はジョーイの“マジック・サークル・ミュージック”レーベルからリリースしたんだ。最近レーベルは動いていないようだけど、彼はナイスガイで、今でも連絡を取り合っている。
●ところで、あなたは日本に来たことはありますか?
まだ一度もないけど、1から10まで日本語で数えられるよ。イチ、ニ、サン...ってね。12歳ぐらいの頃、空手を習っていたんだ。1年しかやらなかったし、流派の名前も忘れてしまったけどね。父親が毎週土曜の朝9時に車で送り迎えするのがキツくて、「歩いて道場まで通え」と言われたんで、足が遠のいてしまった。だからすごく真剣に空手の道を追求していたわけではない。でも、それで日本の文化に興味を持つようになった。日本人はちょっとした贈り物をしあう習慣があると聞くけど、素晴らしいと思うね。タオルとかカレンダーとか...とてもビューティフルだよ。年長者や先祖を敬うというのも良いことだし、アメリカ人も見習うべきだ。
後編記事ではジャックの40年を超えるキャリアについて、知られざる逸話を交えながらじっくり話してもらおう。