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韓国の釜山に英攻撃原潜「アスチュート」が入港(アートフルではないことが判明)

JSF軍事/生き物ライター
英海軍よりCSG21随伴の攻撃原潜(7月7日投稿写真、スエズ運河通過直後の紅海)

 8月11日、韓国の釜山にイギリス海軍のアスチュート級攻撃原潜が入港しました。これは極東遠征中の英空母打撃群CSG21の一員で、空母「クイーン・エリザベス」が入港する前の下見を兼ねたものです。

 韓国の報道では釜山に入港したのはアスチュート級攻撃原潜3番艦「アートフル( Artful )」と伝えられていますが、違います。実際に来たのは1番艦「アスチュート( Astute )」です。

英最新鋭空母群所属の原子力潜水艦 韓国・釜山に入港:聯合ニュース

検証のため、聯合ニュースの報道写真を拡大。右舷の穴に注目(2021年8月11日、釜山)
検証のため、聯合ニュースの報道写真を拡大。右舷の穴に注目(2021年8月11日、釜山)

 釜山に入港した英攻撃原潜は、右舷セイル後方の注排水用のベント穴が4×2の上下と、さらに後方の艦尾にも3つの穴があります。これはアスチュート級の中では1番艦「アスチュート」のみの特徴です。

Royal Navy (@RoyalNavy)

英海軍よりHMSアスチュート拡大写真(2018年11月30日投稿、スコティッシュ入り江)
英海軍よりHMSアスチュート拡大写真(2018年11月30日投稿、スコティッシュ入り江)

 アスチュート級は2番艦「アンブッシュ」以降、ベント穴の数と位置はセイル後方の3×2に変更されています。艦尾の3つの穴は無くなりました。

  • 1番艦アスチュート・・・右舷:4穴×2+3穴、左舷:3穴×2+3穴。
  • 2番艦以降・・・右舷:3穴×2、左舷:3穴×2。

 3番艦「アートフル」も右舷側の穴はセイル後方に3×2のみです。つまり釜山に来ているのはアートフルではありません。

Royal Navy (@RoyalNavy)

英海軍よりHMSアートフル拡大写真(2021年6月17日投稿、地中海)
英海軍よりHMSアートフル拡大写真(2021年6月17日投稿、地中海)

 HMSアートフルはCSG21と共に6月6日にジブラルタル海峡を通過して地中海に入り、当初はCSG21に随伴する水中戦力はこの艦だと見られていました。ところがCSG21が黒海への護衛艦艇分派作戦を終えて7月初めにスエズ運河を渡り始めた頃にアートフルはジブラルタルに引き返し、8月13日現在はイギリス本国に戻っていることが確認されています。

 そしてCSG21の護衛艦艇、フリゲート「リッチモンド」は7月7日に「スエズ運河を一緒に通過した仲間」として具体的な艦名を紹介しないで攻撃原潜の写真をTwitterに投稿しています。

 この時の投稿写真を見ても分かる通り、右舷の穴の数の特徴はHMSアスチュートを示していました。

検証のため、英海軍の投稿写真を拡大(2021年7月7日投稿、スエズ運河通過後の紅海)
検証のため、英海軍の投稿写真を拡大(2021年7月7日投稿、スエズ運河通過後の紅海)

 イギリス海軍はCSG21に随伴している攻撃原潜の個艦名を遠征計画当初から現在に至るまで未だに発表していません。このため韓国側にも正確な艦名の公表をしないように協力を頼んで、報道には欺瞞情報を発表させている可能性があります。

 潜水艦は秘匿性が重要になるので、できるだけ情報を知られたくないのでしょう。ただしHMSアスチュートは同型艦の中でも特定しやすいので隠し続ける意味はあまり無く、そろそろ正しい個艦名が公表されるのではないでしょうか。

 追記:10月29日にHMSアスチュートがオーストラリアのパースに寄港。なお堂々と個艦名を出していますが公式発表ではなおも「アスチュート級」とだけ記載。

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軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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