スーパーコンピュータ「富岳」がグラフ解析性能で「8期連続の世界1位」に
理化学研究所などは2023年11月13日、スーパーコンピュータ「富岳」が、大規模グラフ解析に関するスーパーコンピュータの国際的な性能ランキングである「Graph500」のBFS(Breadth-First Search、幅優先探索)部門において世界第1位を獲得したと発表した。同ランキングでの1位は8期(年2回)連続となる。一方、全体の計算性能の評価である「TOP500」で第4位(前回2位)、「HPL-MxP」(AIなどに応用できる計算能力を加えた評価)で第3位だった。
頂点と枝によるグラフ解析とは
スーパーコンピュータとは、科学技術計算用途にて大規模かつ高速な計算が要求されるハイパフォーマンスコンピューティングに用いられる電子計算機のことだ。
日本では2019年8月に役割を終えた「京」がスーパーコンピュータとして有名だったが「富岳」は「京」の後継機として理化学研究所と富士通により開発され2021年3月に共用が開始された。新型コロナの感染パンデミックが拡大していた頃、「富岳」による飛沫の飛散シミュレーションなどの情報提供が行われていたのは記憶に新しい。
今回のランキング「Graph500」はコンピュータによる高速なグラフ解析の性能を競い合う。「Graph500」のランキングは6月と11月に更新され、BFSのほか、SSSP(Single-Source Shortest Path、単一始点最短路)とBFSの省電力能力を競うGreenの3部門がある。2023年6月のBFSのランキングで、2位は中国の武漢スーパーコンピュータ、3位は米国のフロンティア、6月のSSSPのランキングで「富岳」は4位だった。
この高速なグラフ解析のグラフというのは、頂点と枝によってデータ間の関連性を示した図のようなものだ。実世界の複雑な現象を表現するため、こうしたグラフを用いることが多いという。BFSでは頂点間の枝の長さが同じグラフを扱い、SSSPでは頂点間の枝の長さが異なるグラフを扱い、単位時間(1秒)当たりの処理数を競ってランキングを決める。
高性能グラフ探索ソフトウエアの開発
今回の成果は、理化学研究所、九州大学マス・フォア・インダストリ研究所、フィックスターズ、NTT、富士通の共同研究グループによるもので、「富岳」の15万2064ノード(最小計算資源の単位、この数値は全体の約95.7%)を使い、約4.4兆個の頂点と70.4兆個の枝から構成される超大規模グラフに対するBFS問題を平均0.51秒で解いたという。
この実行速度はTEPS(Traversed Edges Per Second、テップス)というベンチマークスコアによって評価され、1テップスは1秒当たりに処理した枝の数だ。今回の「富岳」に対する「Graph500」のスコアは13万8867GTEPS(ギガテップス)で前回(2023年6月)の性能から1771GTEPS向上したという。
また、スーパーコンピュータには、シミュレーションなどの規則的な計算だけでなく、複雑な実世界を表したビッグデータによるグラフ解析の機能も求められるが、そのためにはシステム内の大規模ネットワークを効率的に最適化させる必要がある。
同共同研究グループは、最適化のためのソフトウエアの開発も進め、今後さらに増えるビッグデータと複雑化に対応できるだけのグラフ探索ソフトウエアの開発にも成功しているという。