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核使用の懸念 56年前に地球をめぐった放射性物質

饒村曜気象予報士
ノーモア・ヒロシマ(提供:イメージマート)

核実験による放射性物質

 ロシアがウクライナに侵攻し、ロシアの劣勢から核が使用されるのではないかと懸念されています。

 しかし、ひとたび核が使用されると、大規模な核戦争に突入する可能性が高いのですが、仮に地域限定の核爆発でも、その影響は広範囲に及びます。

 地域限定の核爆発でも、放射性物質は世界を駆けめぐったという例が、今から56年前にあります。

5か国目の核実験

 第二次世界大戦後、アメリカやソビエト連邦だけでなく、イギリス、フランスでも核兵器開発のため、大気圏核実験が盛んに行われています。

 核実験による放射性物質放出の影響を過小評価した結果ですが、当時は、大量の人工放射性物質が大気中に放出されています。

 日本中がオリンピック開催にわきたっていた昭和39年(1964年)10月16 日、中国はタクラマカン砂漠で核実験を行っています

 核実験の規模(総爆発量)は、TNT爆薬に換算して約20キロトンといわれています。

 アジアでは初めて、世界では5番目の実験でした。

 中国は、台湾にある中華民国が国としてオリンピックに参加することは認めないとして、オリンピック大会のボイコットを続けていました。昭和39年(1964年)のオリンピック東京大会もボイコットでした。

 そして、オリンピックという世界中が注目しているタイミングで、存在をアピールするかのように核実験をしたのです。

 核実験によって生じた放射能を含んだチリが偏西風に乗って日本にやってくるのではないかという懸念があったため、気象庁では全国各地で雨粒や雨が上がった後の大気に含まれる放射能を測定しています。

 そして、17 日夜半から18日にかけ、深い気圧の谷が通過してほぼ全国的に20ミリ程度のまとまった雨が降ったとき、微量ですが、雨の中に放射能を出す物質が含まれていました。

 放射能対策本部(本部長は愛知揆一科学技術庁長官)は、19 日夕方、「中国の核実験によって日本に降った放射能チリは、1平方メートル当たり12万キューリで平常の100倍に達したが、特に人体への影響はない」と発表しました。

世界をめぐる放射性物質

 中国は、昭和40年(1965年)5月24日に2回目の核実験(約30~50キロトン)、昭和41年(1966年)5月9日に3回目の核実験(約200キロトン)を行っていますが、これまでより大きい3回目の核実験の時に発生した放射性物質が地球をめぐった様子が解析されています(図)。

図 中国の第3回核実験における放射能チリの流線推定図(昭和41年(1966年)5月、丸数字は日付け)
図 中国の第3回核実験における放射能チリの流線推定図(昭和41年(1966年)5月、丸数字は日付け)

 5月9日にタクラマカン砂漠の核実験で発生した放射性物質は、2日後の5月11日に日本上空に達し、その後、偏西風に乗ってワシントンやロンドンを通って地球を一周し、2週間後の25日には再び日本に達しています。

 このように、放射性物質は世界を掛けめぐりますので、地域限定であっても、核爆発は他人事ではありません。

 しかも、地域限定とは限らない恐ろしさがあるのです。

図の出典:「日本気象協会編(昭和42年(1967年))、気象年鑑、森北出版」をもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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