持続可能な音楽業界の未来をつくる!ジェンダー平等の宣誓「Keychange」運動が拡大中 前編
EUの支援を受けるKeychange(キーチェンジ)は、完全なジェンダー平等を達成するために音楽業界の全面的な再構築を目指す世界的なネットワーク・運動だ。筆者が取材する北欧の音楽祭もこの運動に関わっていることが多い。
Keychange は2015年に開始し、12カ国のパートナーで構成され、当初のキャリア開発プログラムから「音楽業界を大きく変革するための世界的な運動」へと変貌している。同団体によると、
- 「ビルボード・ホット100年間チャート」で10年間、1000曲のアーティストのうち、女性または性別に幅のあるアーティストが占める割合は22%
- 2022年の英国で大手レコード会社の平均賃金格差は28%
- Keychangeパートナー国のCMO(最高マーケティング責任者)の平均メンバーの84%が男性
- 2020/21年の世界の主要オーケストラで演奏した男性の割合は95%
「女性の少なさをめぐる気の滅入るような統計に終止符を打つ」べく、この不正・不平等を正そうと現状を放置せずに「変えよう!」と意思のある人々がKeychange運動に集まっている。
この運動が目指すのは、「代表的な」(representative)才能に恵まれない人々、つまり「女性やジェンダーマイノリティの数を増やす」ためのキャリア開発プログラム、音楽団体のジェンダー・バランスに関する誓約、政策に影響を与えるマニフェストなどを通じて、より包括的な音楽業界の未来を実現しようとしている。
より包括的な音楽業界の未来をつくる
音楽業界における不平等は今も膨大だ。問題は、舞台でパフォーマンスをするアーティストのジェンダー比率だけではない。業界の裏を仕切る人たちが「異性愛の白人男性ばかり」になりがちな構造解体は、北欧でも現在取り組み中だ。
Keychange は、ラインナップを精査し、レコード会社の雇用方針を検討し、賃金格差を是正するなどの様々な取り組みをしている。
- 女性やジェンダーの幅を広げるアーティストや業界のイノベーターを対象としたキャリア開発のための広範なプログラム
- 参加者全員が業界の主要な舞台や指導的な地位へとステップアップできるよう支援
- 2024年には、272人のアーティストとイノベーターがプログラムを修了する予定
- その地位が十分でないアーティストを支援し、ジェンダー平等の誓いを立てるよう組織に働きかけ
「変革のためのマニフェスト」
Keychangeの代表的な取り組みの一つが、フェス・音楽団体・企業がジェンダー・バランスを達成するための誓い「Keychange Pledge」への著名拡大だ。すでに600以上の音楽団体がジェンダー・バランスの達成を誓約している。
ただ著名するだけではなく、女性やジェンダーマイノリティの数を増やし、「ジェンダーバランスを50%」にするという、音楽業界関係者にとっては「そんなことが可能なのか」という行動努力が求められる。
音楽業界における女性や多様なジェンダーを背景にもつ才能の代表(顔ぶれ)は、欧州の全体で非常に低いままだ。参加国全体で、女性は登録作曲家・作詞家の20%以下と団体側は指摘している。
女性の収入はさらに低く、女性やジェンダーにとらわれない人材は、音楽業界全体の指導的役割やフェスティバル・プログラムの舞台で十分に代表されていない。
このような状況を変えるための「集団的な取り組み」として、変革を約束する音楽フェスティバルや組織のネットワークをKeychangeは構築している。その取り組みに参加するために、2018年に欧州議会で発表された「変革のためのマニフェスト」への著名活動が拡大中だ。
4つの分野での集団行動を呼びかけ
1. 承認
採用、報酬、キャリア開発、セクシャルハラスメント方針への対応
2. 投資
社会的地位の低いアーティストや業界関係者に力を与える、的を絞ったプログラムにより多くの資金を提供する
3. 研究
ジェンダー・バランスを向上させた企業の経済効果調査による、現在のジェンダー・ギャップの分析と報告
4. 教育
ロールモデルやキャリアの機会を促進することで、多様化した新しい規範を作る
ジェンダーバランス目標は50%
音楽業界といっても幅が広いので、「ジェンダーバランス目標を50%」とする際に「どこに的を絞る」か、各業界ごとに合わせたマニフェストが用意している。例えば
- オーケストラは、作曲家・奏者・首席奏者・上級スタッフに的を絞る
- コンサートホールは、ステージ上のラインナップ・シニアスタッフ・バックステージスタッフなど、組織の他の側面
- エージェント・出版社・レーベルは、契約しているアーティスト
- 放送局は、番組に招くゲストやプレゼンター・放送する音楽
- 慈善団体・業界団体は、理事会やスタッフの構成
- 出版社や編集スタッフを雇用している企業は、ライター、編集者、写真家などに依頼する際にKeychangeのマニフェストを適用する
進捗状況を測定するための毎年のデータ集計も重要な取り組みだ。
他に、フェスや企業以外など立場の異なる人々がどのようにジェンダーバランス達成のために貢献できるかもアドバイスしている。
例えば、「個人」には「マニフェストに著名したフェスやコンサートを選ぶ、友人にもそうするように伝える」。そして筆者自身も重要だと思うのが「自分のジェンダー知識をアップデートする」だ。
自分自身が「代表的なアーティストではない」と感じる人には、「トレーニング、指導、世界的なPRなどを提供するkeychangeプログラムに申し込む」ことなども推奨されている。
現時点で、Keychange運動によって
- 13の映画祭パートナーが先駆的な活動を展開
- 100以上のイベントとパネルディスカッションで認知度を向上
- 280の過小評価されている才能の支援
- 2022年までにジェンダー・バランスを実現することを約束した音楽団体は600以上
音楽界の巨大な構造には「組織化」して立ち向かおう
音楽界のジェンダーバランスの不平等という巨大な構造に、たったひとりで立ち向かっても無力感を感じるばかりだろう。国内だけでなく、国境を越えて、この問題をみんなで解体していこうというのがKeychange運動だ。
筆者も北欧の音楽祭やカンファレンスを何年も取材してきたが、この運動が成長していることを年々感じている。「組織化」して音楽界の構造問題を解体しようという動きは、日本でも参考にできる部分が多いのではないだろうか。
続きは「音楽業界の社会運動、男女割合50:50をすでに達成した北欧フェス Keychange運動・後編」へ
Keychangeに参加するノルウェーの国際音楽祭オスロ・ワールド