11月1日、国際音楽祭オスロ・ワールドの一環として、音楽業界のジェンダーバランス達成を目指す運動「Keychange」の1日イベントが開催された。
Keychange運動ではフェスやカンファレンスなど全ての環境下で、女性やジェンダマイノリティの割合を「最低でも50%」にする著名に参加する。
国際音楽祭オスロ・ワールド中にKeychange1日イベントが開催され、運動が必要な理由を語るChristina Hazbounさん 筆者撮影
Keychange欧州支部のプロジェクトマネージャーであるChristina Hazbounさんは、この運動が必要な理由をこう語った。
なぜこのようなことをするのか?なぜなら、統計に関するあらゆる調査でも、音楽業界のあらゆる側面、フェスティバルのプログラミングからメディアへの露出、会場へのアクセスからラジオやストリーミングまで、業界として女性やジェンダーが多様なアーティストの割合が不均衡であることが示されているからです。
なぜ私たちの社会は家父長制的で覇権主義的な規範を克服できていないのでしょうか?これは音楽業界そのものにも現れており、音楽業界にもジェンダーの問題があります。
私たちは日々才能を失っており、音楽における公平性は日常生活のあらゆる側面に波及する可能性があるため、この問題に早急に取り組む必要があります。私たち全員が力を合わせれば、必ず変化を起こすことができます。
私たち全員が必要とする、より良く、より公正で、より包括的な世界を創造する助けとなるような空間を、自分の影響力の及ぶ範囲に創り出すよう努力することが重要です。そして私はパレスチナ人としても、「これは集団行動でなければならない」ということを言わずにはおけません。
この構造問題の解体のためにKeychangeは誓約書をツールとして使用している。女性やジェンダー的に多様なクリエイターや専門家、彼らの仕事の1つ以上の分野で、「少なくとも50%の代表を達成する」という内容だ。
「50:50を達成できなければ辞任する」宣言
筆者撮影
ノルウェーの音楽のショーケース&カンファレンス「by:Larm」を代表して、総括マネージャー代理のErik Egenesさんが、Keychangeの宣誓に著名してからいかに平等達成を果たしたかを紹介した。
By:Larmは2018年からKeychangeの著名者です。私たちが誓約書に署名した時、当時のブッキング・ディレクターは、「もしジェンダー平等コーディネートを50:50で満たさなければ辞任する」と宣言しました。
ノルマは達成できたので彼は辞任する必要はありませんでしたが。私たちは自分の特権と立場を自覚しなければいけません。私はノルウェー出身の男性なので、視界は限定されています。だから多くの異なる人の意見を聞いて、彼らの視点を考慮しなければいけません。
「自分の特権を自覚する」は北欧ではまだまだ足りていない意識だと筆者は感じている(自分も含めて)。「特権を自覚し、自分とは異なる人の意見を考慮する」姿勢は、これからのリーダーやイベント主催者には必須の認識だろう。
舞台でヘイトスピーチをしたらギャラ差し止め Erik Egenesさんは、「舞台の外」でも測定は必要だとして、「アーティストがステージ上でヘイトスピーチをした場合、ギャラを差し止める」対策を導入した。実際にそういうことが過去に起こったからだ。50:50は達成しても、そこで満足せずに次へと進み続けること、ジェンダー平等達成のためには「測定の追加と更新」が非常に大切となるとも語った。
「ガラスの天井を壊すだけでなく、橋をかけよう」
筆者撮影
ノルウェーで音楽マネージメントをするLittle Big Sister社のSilje Larsen Borganさんは、「音楽業界で働き始めた時、業界は『男性ばかりだった』と語る。起業して8年目になり振り返ると、互いに手を差し伸べ、支え合うシスターフットがあったからこそ、ここまでこれたと語る。「相互支援システムと真のつながりが集団的成長のカギ」であり、「競争するだけでなく、互いに刺激し合い、お互いが学ぶ安全な空間を作り出すために必要」だと話した。
もしあなたが誰かを選んだり雇ったりする力を持つ立場にあるのなら、その影響力と力を使って変化を起こしてください。音楽ビジネスにおける男女平等と団結への道を忘れないようにしましょう。ガラスの天井を壊すことだけではありません。橋を架けましょう。ビジネスを内側から変えましょう。
多様性・平等の達成はなぜ「子どもフェス」で「より当たり前」とされて、大人向けのイベントでは困難なのか
これまでの過去記事で、ノルウェー最大の音楽祭「オイヤ」(Øya)を紹介してきたが、この「子ども版」として「ミニオイヤ」(Miniøya) がある。開催地は首都オスロの中でも移民や社会課題が多いとされるトイエン地区だ。
Miniøyaは単なるフェスティバルではなく、平等、多様性、機会均等が核となる活気に満ちたユニークな場です。2010年のスタート以来、多様性とジェンダー平等が賞賛されるような、より質の高い芸術的なプログラムを組もうという意識と意欲を示してきました。
ジェンダー平等と多様性は、私たちの芸術的な質を損なうことなく、より豊かなものにしてくれます。
2023年にはノルウェーのヒップホップ・ロック界で最も輝く才能の一人であるMusti というアーティストがフェスを締めくくりました。Mustiは多文化の背景を持ち、トイエン地区で育ちました。つまり、彼女は女性が少ない音楽界における「流れ星」です。トイエン地区で育った地元の女の子たちは、「自分たちと同じような容姿で、同じような背景を持ち、同じようなストーリーを持ち、将来の夢や憧れを抱くような、若くてパワフルな女性アーティストに共感できる誰か」を見に来るのです。
若い女の子たちにとって、パワフルで才能のあるアーティストは、彼らが尊敬し、将来そうなりたいと思えるような存在です。フェスのブッキングが多様性とジェンダー平等を祝うものであることを保証する必要があることは明白です。
なぜ、大人の観客を対象としたフェスティバルでは、同じように明白で自然なことをできないのでしょうか?なぜ、子どもたちのフェスティバルの方が、これらの価値観に関してより高い基準を持つのが自然なのでしょうか?
ノルウェーの音楽フェスティバルのジェンダーバランスで女性の平均は25%です。これは恥ずかしくなるほど低い数字です。私たちはこの状況を何とかしなければなりません。
私たちは、より多くのフェスティバルが私たちの例に続くことを願っています。難しいことではありませんから。
Miniøya広報Tarjei Westbyさん
ジェンダーバランス達成は不可能ではない Keychangeのイベント参加者のほとんどが女性 筆者撮影
北欧では「ジェンダー平等」(Gender equality)という言葉をよく使うが、Keychange運動では「ジェンダーバランス」(Gender balance)が主要用語であることも良いなと筆者には新鮮だった。
「ジェンダーバランスを50:50」は日本の音楽業界では不可能に聞こえるかもしれない。欧州でもこの目標は達成には程遠く感じるものだが、すでに達成したフェスは存在しており、「運営関係者にやる気があれば可能」だ。
「できない理由探し」よりも「まず実行のために動く」ことにエネルギーと時間を費やし、家父長制が受け継がれてきた業界は国境を越えた「組織化」(オーガナイズ)で変えていくことができる。
VIDEO
VIDEO
VIDEO