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東京五輪で結託したが新型コロナで対立する安倍と小池の暗闘

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(503)

卯月某日

 安倍総理は7日、新型コロナウイルスの爆発的感染を抑えるため史上初の「緊急事態宣言」を発令した。対象区域は東京など7都府県、期間は5月6日までの1か月間で、商業施設の使用停止指示など私権制限を伴うが、欧米各国などが実施している都市封鎖(ロックダウン)は行わないとした。

 安倍総理は「このままでいくと2週間後に感染者数は1万人、1か月後には8万人を超える」と言い、「7割から8割外出を控えると、2週間後に感染者数は減少に転じる」と見通しを語ったが、なぜそう言えるのかについて説明はなかった。

 つい先週の木曜日と金曜日に開かれた衆参の本会議では「緊急事態宣言」の発令に消極的な姿勢を示していた安倍総理が、土日の2日間で一転して「緊急事態宣言」を発する決断をした事情についても、専門家の意見に従ったというだけで説明になっていない。

 安倍総理は以前から緊張感を持って推移を見守っていたというが、それならなぜ国会でそう言わなかったのか。「頭の中には緊急事態宣言を出す考えもあるが、出すにはこれだけの条件が必要」と説明して野党に理解を求め、「その時には野党の協力も得たい」と言ってワンチームを作るのがリーダーの役目ではないか。

 安倍総理は「ギリギリの瀬戸際ではあるがまだ出す段階に至っていない」という抽象的な答弁を繰り返していただけだ。瀬戸際とは具体的に何を指し、何が変われば瀬戸際を超えるのかも説明しない。

 2月末に唐突に大規模イベントの自粛や学校の全国一斉休校を打ち出した時もそうだったが、なぜそれを打ち出すのか具体的な説明をしないから、こちらにはもやもやした感覚だけが残る。新型コロナウイルスを巡って安倍政権は、国民にもやもやのまま恐怖感だけを植え付けてきた。

 フーテンは日本と米国の政治リーダーを長年見てきたが、リーダーが何かやる時には、まず現状がどうなっているかを説明し、それに対しどのような解決方法があるかを複数示し、その中で自分はどの方法を選択するかを言って国民を説得する。説明もせずに一つの方法だけを「これが最善」と押し付けても国民は納得しない。

 しかし日本人は納得しなくとも総理から言われれば言われたことに従う。従わなければ糾弾される「空気」がこの国にはあるからだ。だが本音では納得していない。だから突然一斉休校を押し付けられ、それを我慢して続けながら、桜が咲けば外に出て花見をしたくなる。気の緩みと批判されたが、緩みというより本当には納得していなかったからだ。

 今度の「緊急事態宣言」についても国民は外出するなと言われればそれに従う。しかしそれが新型コロナウイルスから日本を守るためだと本当に納得している人がどれほどいるだろうか。とにかく今起きていることは分からないことが多すぎてもやもやしたままなのだ。

 まず新型コロナウイルスというのが分からない。それが「世界の工場」中国から発生した。なぜ中国から始まったのかわからない。習近平政権は警告する医師を口封じしようとした。それが一転して「都市封鎖」という経済を度外視した強硬手段に打って出る。すると新型コロナウイルスは習近平政権の「一帯一路」を襲う。イランとイタリアで爆発感染が起こり、瞬く間に欧州各国に広がった。

 今ではスペインが上回ったが当初は「一帯一路」の最終ゴール、イタリアの死亡率が最悪だった。4月7日時点でイタリアでは1万6千5百人、人口の0.027%が死亡した。人口に対する死亡者の比率はスペイン、イタリア、フランス、英国、スイスの順で高く、次にイラン、米国、ドイツ、韓国、中国そして日本となる。

 死者数は米国、イタリア、スペインが1万人を超え、フランスと英国はそれぞれ9千人と5千人で、中国とイランが3千人台である。ドイツは千7百人、スイスが6百人で、韓国がおよそ2百人、日本は80人で、他の国に比べると日本はけた違いに死者が少ない。

 日本は今頃になって法律に基づく緊急事態宣言を出したが、外国では都市封鎖(ロックダウン)を行っている国が多い。日本はそれをしないが、しないどころではない。商業施設などに対する休業要請も、国の方針では2週間の様子を見てからとなっている。極めて緩いのだ。それを東京以外の知事たちが受け入れ、速やかに休業要請を出す構えだった東京都の小池百合子知事は孤立した。

 つまり東京五輪の1年延期で提携した安倍総理と小池知事は、新型コロナ対策では一転して対立関係になった。そうなると「緊急事態宣言」というのは、安倍総理と小池知事の政争と絡んでこの時期に出てきた可能性がある。そう考えれば感染リスクを減少させると言うのは表の看板で、裏は夏の東京都知事選挙とその先の政局を見据えた政争によるものだ。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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