イエローステッチブーツのメーカーが不正競争防止法で勝訴:ルブタンとの差はどこに?
「ドクターマーチン類似品に販売差し止め命令 "黄色いステッチ"根拠」というニュースがありました。黄色いステッチのデザイン(タイトル画像参照)で知られるブーツのメーカーが、類似品に対して不正競争防止法に基づき提訴していたところ、販売差止判決を東京地裁から得たという話です。判決文は既に公開されています。
上記引用記事でも言及されているように、靴のデザインと不正競争防止法というと、レッドソールのクリスチャン・ルブタンの事件が思い浮かびます(関連過去記事1、関連過去記事2)。ルブタンの裁判では、特徴的な赤い靴底が類似することで、今回と同じく不正競争防止法に基づく販売差止めを求めた提訴が行われましたが、地裁・高裁共に原告敗訴で終わっています。
両裁判の違いはどこにあるのでしょうか?
正直、個人的な感覚を言えば、ドクターマーチンのイエローステッチの方がルブタンのレッドソールより知名度が高いとは言いにくいのではと思います。実際、判決文において、被告が提出した消費者(ランダム抽出と思われます)による調査ではイエローステッチの認知度は約5%という結果になっています。原告が提出したブーツにこだわりがある回答者にしぼった調査結果でも51.1%とルブタンが裁判で使用した数字とほぼ同じです。
原告は、自社の靴の複数の要素が商品等表示にあたると主張しました。裁判所は、そのいくつかについては、十分な周知性がなく商品等表示にあたらないとしましたが、少なくともイエローステッチ部分については周知性を認め、
と判示し、「商品等表示+周知性+消費者の誤認混同」という不正競争防止法2条1項1号の要件を満足するとして、原告の差止請求を認めました。なお、損害賠償は請求されていません。
ルブタンのケース(知財高裁判決)と比較した場合の大きな違いはどこにあるのでしょうか?判決文の文言だけから見れば、ルブタンについては、被告製品と価格帯が大きく異なり、市場種別が異なるので消費者の誤認混同が生じていない(周知性を論じるまでもなく不正競争防止法2条1項1号に該当しない)とされたのに対して、今回のドクターマーチンについては、原告商品と被告商品とは購買層や販売形態を共通にしているので消費者の誤認混同が生じているとされた点です。
ということで、今回の判決から、単純にルブタンのレッドソールよりもドクターマーチンのイエローステッチが有名(周知性が高い)と判断されたということにはなりません。あくまでも被告商品と原告商品で市場(需要者層)がかぶっていたかどうかがポイントだったわけです。
ルブタン以外にも赤底の靴は多数あるのに対して、イエローステッチのブーツはドクターマーチンによって継続的・独占的に使用されてきたという事情が、裁判官の心証に影響を与えた可能性はありますが、それは、判決文からは明らかではありません。