「炎症」を避ける食事で「糖尿病」が遠ざかる?14万人データで判明した最新情報。
男性の5人に1人、女性も10人に1人が糖尿病の疑い
もはや身近な病気となった「糖尿病」。
2019年時点では男性の5人に1人、女性でも10人に1人に「糖尿病」の疑いがあることが分かりました。そしてこの割合は「年齢」が上がるほど増えていきます [厚生労働省:令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要 P20] 。
なかでも多いのが「2型」糖尿病です。
これにも2種類あり、血中の糖を減らす(血糖を下げる)「インスリン」というホルモンの「効きが悪い」(インスリンが出ているのに血糖が下がらない:インスリン抵抗性)、あるいは「分泌が足りない」(インスリンで血糖は下がるのだが、十分な量のインスリンが分泌されていない:インスリン分泌不全)に大別されています。
いずれにせよ、一度なってしまうと治すのは簡単ではありません。予防が大切です。ではどうするか。
今回は「食事」についてちょっと目新しい情報をご紹介します。
「炎症を引き起こさない食事が糖尿病を遠ざける」というのです。
中国・天津大学のロンロン・ヤン氏らによる論文で、「BMCメディシン」という学術誌が'23年12月5日に掲載しました [文末文献1]。
「炎症」が2型糖尿病リスクと関連
「炎症」は本来、体外からの異物に対する防御反応ですが [大阪大学微生物病研究所「やわらかサイエンス」] 、防御以外でも引き起こされることがあり、結果として「体外の異物」と勘違いされた自らの体が傷つけられることになります。
糖尿病との関係では、遷延する炎症に伴う「インスリン抵抗性出現」や「インスリン分泌不全」が知られています。先にご紹介した通り、これらは2型糖尿病の原因と考えられています。
したがって、炎症を抑えれば2型糖尿病を予防できる可能性があるわけです。
「炎症」を起こしにくい食事で糖尿病になるリスクが低減
そこでヤン氏たちは今回、英国在住の糖尿病でない14万人強の白人を対象に、食事の「炎症を起こしやすさ」とその後の「2型糖尿病発症」リスクの関係を調べました。
「炎症の起こしやすさ」の評価に用いられたのは「炎症性食事指数」(IDD)という指標です。34種類の食品を「炎症惹起」群と「炎症抑制」群に分け、それぞれの食材がどれほど「惹起」「抑制」するのかをスコア化し、合算しました(食品の詳細はこちら [英語、ワード書類])。
そして観察開始時の「炎症性食事指数」の高低がその後の2型糖尿病発症に及ぼす影響を、約9年間観察したのです。
その結果、「炎症性食事指数」が低いほど、その後2型糖尿病となる確率は低くなっていました。
つまり炎症を「抑制」する食材を多く摂り、「惹起」する食材を避ければ糖尿病を遠ざけられると考えられたのです。
では具体的に何を食べて、何を避ければ良いでしょう?
具体的にはどのような食品が?
今回の検討中、炎症「抑制」作用のある食材で2型糖尿病発症回避と関連が強かったのは、
「デンプン」「ナッツ」「ワイン」「朝食のシリアル」「果物」「野菜」「パン」「魚」などでした(順番は「発症回避」との関連が強い順)。
また「甘味料の入っていない野菜/:果実ジュース」や「ベジタリアン向け代替肉」もリスト入りしていました。
反対に2型糖尿病発症と関連が強かった炎症「惹起食品」は、
「低カロリー飲料」「赤身肉」「加工肉」「高カロリー飲料」「卵」「鶏肉」などです(順番は「発症」との関連が強い順)。
ただし「赤身肉」「加工肉」「鶏肉」以外の肉は、それほど糖尿病発症との関係は強くありませんでした。
いずれの食品も血中の炎症マーカーと付き合わせた結果、「炎症抑制」「炎症惹起」作用が確認されています。
断言はできないけれど・・
ただしこの研究だけでは「低炎症食が糖尿病リスクを減らす」とは断言できません。
そういう食事を好む人たちに共通する何か別の要因が、糖尿病を遠ざけている可能性も否定できないからです。
しかし炎症が2型糖尿病リスクを上げるというのは、他研究でも多数示唆されているところです。
そのためヤン氏たちは「低炎症食は2型糖尿病予防に役立つ可能性がある」と結論しています。
食品を選ぶときの新しい目安に
いかがでしたか?
2型糖尿病になりやすい食事を、カロリーや栄養素ではなく「炎症を起こしやすいかどうか」という観点から解析した研究でした。
「炎症惹起食品を避ける」のではなく、「惹起」食品が多い時には打ち消すために「抑制」食品もキチンと摂る、と考えてはいかがでしょう?
カロリーや栄養素ばかり考えていると窮屈になってしまう「健康な食事」ですが、少しは気軽に取り組めるかもしれません。
糖尿病の予防については次のような論文紹介記事も書いています。こちらもぜひ、ご覧ください。ではまた!
今回ご紹介した論文
英語ですが全文無料です。DeepLなどを使ってご自身でもぜひ。
【注意】本記事は最新の医学論文についての紹介あり、研究結果の文責は「論文筆者」にあります。また論文の解釈は論者により異なる可能性もあります。さらにこの論文の内容を否定する論文が存在する可能性もゼロではありません。あくまでも見解形成の「参考」としてご覧ください。