岸田政権の無策がプーチンの戦争に加担する―海外メディアも批判
先日、筆者が配信した記事で、岸田政権が石炭火力発電の廃止に後ろ向きであり、世界的な脱炭素の動きの足を引っ張っていることについて述べた(関連記事)。今、石炭や石油、天然ガスといった化石燃料への依存を減らすということは、地球温暖化対策だけでなく、ロシアによるウクライナ侵攻への対応という意味でも重要だ。侵攻前にロシア産原油・天然ガスへの依存が大きかったEU各国は、再生可能エネルギーの普及をさらに押し進め、「経済の脱ロシア」を実現しつつある。他方、日本は欧米の脱ロシアに同調しつつも不十分であり、既に一部の海外メディアでは、化石燃料に固執する日本のスタンスが、対ロシアの国際的な結束を乱すとの指摘もされ始めている。
〇ウクライナ侵攻の戦費となる化石燃料の収入
ロシアは世界最大規模の化石燃料の輸出国だ。ウクライナ侵攻前の2021年の統計では、原油では世界第2位、石炭では第3位、そして、天然ガスでは1位である(関連情報)。こうした化石燃料による収入は、ロシアの同国政府歳入の4割強を占める。そして、当然であるが、こうした化石燃料による収入は、ウクライナ侵攻の軍事費にも投じられているのである。だからこそ、ウクライナ侵攻の直後から、EU各国はロシアの化石燃料への依存から脱却することを急ピッチで進めてきた。侵攻前は、EU全体でのロシアへの依存度は原油で約3割、天然ガスで4割近くであった(関連情報)。
〇EU「ロシアからの脅迫に打ち勝った」
これらの原油・天然ガスの輸入を他の国々からのものへと切り替えた他、EUは、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの普及を強力に推し進めてきた。元々、EU諸国には、温暖化対策として再生可能エネルギー普及に熱心な国が多かったが、ウクライナ侵攻を受け、再生可能エネルギーの新規導入は記録的なものとなり、2022年のEU全体の発電量で再生可能エネルギーの発電量が天然ガスのそれを超えた。英シンクタンク「エンバー」も、脱ロシア依存で貢献したのは、「太陽光や風力」と強調。「再生可能エネルギーの発電量が50テラワット時(=約500億キロワット時)増加したおかげで、天然ガスに使うはずであった120億ユーロ(=約1兆4000億円 今年2月のレート)のコストを節約できた」と分析した。
欧州委員会の副委員長で、脱炭素経済・社会の実現を担当するフランス・ティメルマンス氏は、今年2月、AP通信の取材に対し、「我々は、資源を使ったロシアの脅迫に打ち勝った」と誇らしげに語っている。
〇不十分な日本の「脱ロシア」に批判も
一方、日本の「脱ロシア」は不十分だとも指摘されている。2022年度の日本の対ロ貿易は、輸出入ともに減少したものの、天然ガスは前年度比で6.2%の減少にとどまった上、天然ガス価格の高騰で、金額では、むしろ19.8%も増加してしまっている(関連情報)。日本のロシア産原油の輸入は8割減と、大幅に減ったものの、一方で、欧米が対ロシア制裁の一環として定めているロシア産原油の取引価格の上限を超えた価格で、日本が輸入している。これについて、米紙「ウォールストリートジャーナル」は、今年4月2日付の記事で「日本による購入は、ロシアの原油輸出総額では、無視できる量に過ぎないが、ロシア産原油に対して価格制限を課そうとする世界的な取り組みを台無しにするものだ」と批判した。
この件は、上述の記事を引用するかたちで、ウクライナでも、同国メディア「Mind.UA」が報じている。また、昨年末にロイター通信が報じたところによれば、日本政府は、日本の商社が出資しているロシアの石油・天然ガス開発事業「サハリン2」での安定的な生産のため、同事業から原油を購入するよう主要石油元売り会社に打診したのだという(関連情報)。
日本の原油・天然ガス輸入全体において、ロシア産のものは1割弱ほどで、割合としては、決して大きくない。これを太陽光や風力などの再生可能エネルギーで補うことは十分可能であるはずだし、ウクライナ危機への対応という点でも、日本での脱炭素社会の実現という点でも、やるべきことである。岸田政権は、化石燃料優遇のエネルギー政策を改め、再生可能エネルギー活用のため、EUが行ったような強いリーダーシップを発揮するべきだろう。
(了)