危機に対応できない岸田ジャパン、電力会社が「災害級の暑さ」の中で暴挙
連日の「災害級」の猛暑や、豪雨による災害―IPCC(気候変動に関する政府間パネル)などが警告してきた地球温暖化による影響は、「遠い未来のこと」ではなく、今、正に我々に猛威として、襲いかかってきている「気候危機」だと言えるのだろう。だが、日本では、政府も企業も、そしてメディアも温暖化に対する危機感が希薄だ。つい先月末も、大手電力2社が、新たな石炭火力発電の営業運転開始という、「暴挙」に出た。
〇温暖化防止には最悪の暴挙
地球温暖化の主因は、人間が排出するCO2でその大部分は、化石燃料、つまり石油や石炭、天然ガスを燃料として使用することから排出される。中でも、石炭はCO2の排出が極めて多く、温暖化防止のため、石炭火力発電の廃止を真っ先に行うべきということは、これまでのCOP(国連気候変動枠組条約締約国会議)でも、繰り返し強調されてきた。ところが、先月末、JERAと四国電力が新たな石炭火力発電所の営業運転を開始したのである。
JERAは、東京電力グル―プと中部電力による合弁会社。テレビCM等で「CO2が出ない火をつくる」と盛んにアピールしているので、その名を知る読者の方々も多いだろう。
そのJERAが、神奈川県横須賀市で新たに本格稼働させた石炭火力発電所が、横須賀火力発電所1号機だ。発電出力は65万キロワットで、この稼働に抗議した環境NPO「気候ネットワーク」によれば、年間363万トンという膨大なCO2を排出するのだという。
先月末は四国電力も、愛媛県西条市で、石炭火力発電所「西条発電所1号機」を本格稼働させた。同発電所の出力は50万キロワットで、気候ネットワークによれば、そのCO2排出は年間で246万トン、既存の施設も含めれば308万トンに達するという。
JERAも四国電力も、建前では「環境への配慮」「脱炭素社会の実現」を謳っている。だが、実際にやっていることは、上述のように、温暖化防止のため真っ先にやめるべき、石炭火力発電を新たに稼働させることだ。筆者は、両社に対し、地球環境への姿勢を問いただした。
〇JERAと四国電力の言い分は?
JERAが広告等で盛んにアピールする「CO2が出ない火をつくる」というイメージと、石炭火力発電の新規稼働は矛盾するのではないか?筆者の質問に対するJERAの回答は要約すると以下のようなものであったが、詭弁にすぎないというのが筆者の印象だ。
・横須賀火力発電所1号機は、超々臨界圧方式を採用した高効率な発電設備であり、可能な限り二酸化炭素排出削減に努めている。リプレース(建て替え)前と比較してCO2排出が3割減少すると見込まれている。
・CO2を出さない水素やアンモニアを石炭火力発電で混焼することを計画し、CCS(二酸化炭素回収・貯留。化石燃料燃焼などで発生したCO2を大気に放出せず地下などに溜めること)の実現を目指している。
四国電力も筆者の質問に回答。その内容を要約すると、以下のようなものだった。
・西条1号機については、経年化の進んだ当社火力を代替する必要性も見据え、超々臨界圧発電方式を採用しリプレースした。新1号機の発電電力量あたりのCO2排出量は、旧1号機に比べると13%程度減少した。
・木質バイオマスの利用拡大やアンモニア混焼の導入を目指して検討を進め、CO2排出量を削減していきたい。
両社の主張は、あたかも、超々臨界圧方式による高効率な石炭火力発電所だから良いのだというように正当化しているようにも見えるが、1キロワット時あたりのCO2排出係数で比較すると、超々臨界圧方式(USC)であっても石炭火力発電は、従来型の天然ガス(LNG)火力発電の約2倍のCO2を排出する。
また、「CO2を出さない水素やアンモニアを石炭火力発電で混焼すること」は、現状、水素やアンモニアの生産過程で大量の化石燃料を使っており、CO2が発生することを無視している。再生可能エネルギーを使い生産した「グリーン水素」「グリーンアンモニア」であれば、上記の問題はクリアされるが、混焼の割合がどの程度になるにせよ、グリーンな水素やアンモニアのみの「専燃」でない限り、火力発電で大量のCO2が排出されることは避けられない。CCSは、技術が確立しておらず、コストや貯留場所等で問題が山積だ。木質バイオマスの混焼は、混焼に必要なウッドチップの確保のため森林破壊を促進しているケースもあるなど、本末転倒にならない注意が必要だ。
〇「再生可能エネルギーは不安定」なのか?
JERAも四国電力も、「(太陽光や風力などの)再生可能エネルギーの出力変動に対応するための調整電源として、石炭火力発電所は必要」との立場であるが、こうした主張は、使い古された「言い訳」にしか聞こえない。確かに、太陽光発電や風力発電は、天候の影響を大きく受けるが、電気の余っているところから電気の足らないところへと融通する「仮想発電所」などの柔軟な電力網の構築や、大規模蓄電施設の活用、電気自動車を「動く蓄電施設」として活用するなど、自然の変動に対応する方法は既に示されており、欧州では既に実用化もされている。また、非常時用に、グリーンな水素やアンモニアをあらかじめ蓄えておき、必要な時に「専燃」すれば良いはずだ。近年、再生可能エネルギーの普及は各国で進み、電源構成比での割合は、ドイツで48%、ポルトガルで50%、風力発電大国のデンマークでは実に80%を占める(以下、自然エネルギー財団のサイトを参照)。
日本においても再生可能エネルギーは有望で、特に洋上風力発電のポテンシャルは極めて大きく、それだけで、現在の総発電量をまかなえることは、環境省の調査でも示されている。十分な資源量があり、かつ自然の変動への対応策もある中で、石炭火力発電に固執するのは、結局のところ、既得利権を守ろうとしているだけではないのか。
〇国策の問題も大きい
問題なのは、JERAや四国電力だけではなく、岸田政権が石炭火力の延命にご執心だということだ。一昨年11月、英国グラスゴーで開催された温暖化対策の国際会議COP26では、岸田首相は、石炭火力発電にアンモニアや水素を混焼するとして、「ゼロエミッション火力」をアピールし、さんざんに酷評を浴びた。
今年5月に広島県で開催されたG7サミットでも、日本政府は、「2035年電力部門の完全な脱炭素化」や「石炭火力発電フェーズアウト」に反対するなど、国際的な脱炭素の取り組みの足を引っ張っている。日本の大手電力が石炭火力発電を維持し続けようとするのは、これらの電力会社自体の利害もあるのだろうが、国策として、石炭火力発電を延命しようとする、岸田政権の責任は極めて大きい。
〇ウクライナ危機で変わった欧州、変われない日本
欧州各国はこれまでも再生可能エネルギーの普及に努めてきたが、昨年2月にロシアがウクライナに侵攻したことで、ロシアへの天然ガス依存から脱却すべく、再生可能エネルギー普及をさらに推し進めた。その結果、今年2月には、EU全体で再生可能エネルギーによる発電量が、天然ガスによる火力発電によるそれを上回るようになった。こうした動きにより、EUでの発電における完全な脱炭素化の実現は早まったと目されている。
ウクライナ危機による、国際的な化石燃料価格の高騰は、日本での電気料金にも大きな影響を及ぼしたが、残念ながら、岸田政権には、EUのような具体的かつスピーディーなリーダーシップが決定的に欠如している。それは、岸田政権自体の問題もあるが、日本社会全体の問題でもある。日本のメディアも「災害級の暑さ」が人災であることや、酷暑と関連付けて日本のエネルギー政策を報じることをもっとすべきであるし、有権者もそうした報道にもっと関心をもつべきなのだろう。
(了)