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深い議論のために「問いを問うこと」から始めよう:いま求められる人材とは

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(写真:アフロ)

筆者は大学で、学問系の講義とは別に、産業社会実習というプログラムを受け持っている。これには5人の教員が携わっていて、一年をかけて社会人になるための多様な能力を身につけていく。また夏には、実際に企業でインターンシップを行う。無断欠席を許さない、気合いの入った授業だ。

12月3日には、三重県経営者協会が主催する学生のインターンシップの事後研修会に、学生とともに参加してきた。わが皇學館大学のほか、三重大や三重短大などの学生が参加した。

研修会では、就職アドバイザーの講義とあわせて、グループディスカッションの体験を行った。内容は「企業が求める人材とは?」である。皆がとっつきやすく、よいテーマだ。時間が来たら学生が結論を発表する。先生たちは、どのチームが最も良かったか、投票する。

筆者は少し困った。どのチームも、言っては何だが薄っぺらいのである。まぁ予想通りではあったのだが、一つ二つのチームからは抜けた回答が得られるのではないかと思っていた。これではちょっと、就活の選考には通過しない。

どうしてだろうか。研修会終了後に学生数人を引き連れて、反省会を行ってみた。どうやら彼らは、正しい答えを求めてさまよってしまったようである。

問いを問うことから始める

言っておきたいのだが、本学の産業社会実習を受講している学生は優秀である。変な意味ではなく意識が高いし、話もできる。論理的に議論を進める能力もなくはない。地方大というのは、みかけの偏差値によらず、上位層にはこういう学生が集まってくるのが特徴である。

しかし、それゆえにダメだった。彼らは議論を進めてしまった。進めることができたから、進めることに注力してしまったのである。そのため答えが、正しく導きだされてしまった。ようするに、彼らが優れているがゆえに、結論が一般論と合致してしまったのである。

シンプルなテーマほど、はじめに注意して、議論を進めなければならない。外資コンサル「マッキンゼーをつくった男」として名高いマービン・バウアーは、次のように述べている。「企業がつまずくのは、正しい問いに間違った答えを出すからではなく、間違った問いに正しく答えるからである。」

今回のテーマは「企業が求める人材とは?」であった。最初に考えなければならないのは、このテーマの意味するところは何なのか、である。いくつかの隠された言葉が存在することに気づかなければならない。正しくは「いま、我が国の、企業が求める人材とは?」である。

よってこのディスカッションにおいて考えるべきプロセスは、次のようになる。

1. いまの我が国における企業のあるべき姿とは

2. それに対して我が国の企業の現状はどうであるか

3. それらの間にはいかなる問題があるのか

4. ゆえに設定すべき課題は何か

5. したがって、いかなる人材が求められるべきか

問題は、あるべき姿と現状とのギャップのうちに存在する。問題とは、あるべき姿に対して生じている困ったこと、である。それに対して課題とは、問題を解決して先に進むために、やると決めたこと、である。この課題を実施するに見合った能力を持った人が「企業が求める人材」である。

最初に自分たちのチームが考える問題のコンセンサスを取ることから始めなければならない。あるべき姿をはっきりさせ、現状との差異のうちにある問題を明確にしなければならない。これが「問いを問う」ということである。

真摯な不同意を尊重する

想定されるあるべき姿は、人によって異なる。それでよい。意見が異なるのは、各々の見方、見え方が異なるからである。よってドラッカーのいうように「真摯な不同意」こそ、尊重されるべきである。「最初から全員が賛成ということは、誰も何も考えていないことを意味する。何についての意思決定であるかを知るためにも、反対意見が必要である。全員一致で決めたのでは、問題の本質ではなくうわべの現象で決めたことになる。まさに、建設的な反対意見が求められている。」

求められる姿勢は、いずれが正しいかを論じ合う姿勢ではなく、いずれも正しいことを前提とする姿勢である。各々には各々の意見があり、よき信念がある。意見の対立とは、よき信念とよき信念との対立である。ゆえにそれらの信念は、いずれも価値がある。各々がどのような問題に答えようとしているのかが、見定めなければならない。

各々の問題意識の違いを明らかにすることで、何が問題なのかが明らかになってくるのである。そうしたときに、チームごとに異なる問いが見出されよう。ディスカッションにおいては、テーマは同じであっても、問いは異なるのである。あとはその問いに、できる限り正しく、合理的に、最大の成果が上がるように、結論を導きだせばよい。

もはや言うまでもなかろう。実際のビジネスにおいても、そのような姿勢が求められる。再び問いたい。我が国におけるあるべき企業の姿はいかなるものか。対して我が国の企業はどうであるか。そこにはいかなる問題があるのか。課題は何か。したがってわれわれは、いかなる人物になるべきか。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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