不毛な憲法論議を見せられるとドイツやスイスが輝いて見える
フーテン老人世直し録(344)
極月某日
自民党憲法改正推進本部は20日に全体会合を開き中間とりまとめを行ったが、注目された9条改正は、安倍総理が主張する9条の1項と2項を残したまま3項に自衛隊を明記する案と石破茂氏らが主張する2項を削除して「国防軍」を創設する案の両論を併記したまま年を越すことになった。
石破氏らが主張する2項を削除する案は2012年に自民党がまとめた憲法草案に基づく。1項の「戦争放棄」によって平和主義を維持し、しかし2項の「戦力不保持」と「交戦権の否定」は自衛隊が存在する現実とかけ離れているため削除する考えである。
かつ「戦力なき軍隊」とされる自衛隊は警察と同様に国内法で縛られているため海外でのPKO活動などに制約がある。その制約を取り払うため諸外国と同じように国際法の適用を受ける軍隊にすべきだとしている。
これに対し安倍総理が今年5月に突然言い出した案は9条をそのままにして3項を付け加え、そこに自衛隊を明記するというものである。現在のままだと自衛隊を違憲と主張する憲法学者が出てくるので、合憲であることを明確にするためだとしている。
しかし現実に日本政府は自衛隊を合憲と解釈しており一部に反対する者がいるとしても大方の国民は自衛隊の存在を認めている。わざわざ3項を付け加え自衛隊を明記する必要があるのかという議論はある。護憲派も含めて国民の賛成を得やすくし改憲の実績を上げたいだけの不要な改憲論ではないかと言うわけだ。
実は安倍総理の9条改正論はオリジナルなものではない。36年前に結成された右翼組織「日本を守る国民会議」は大衆運動方式で憲法改正を行うことを目標にした。そのときに作られた憲法改正草案にすでに3項を付け加える案が盛り込まれているのである。
起草者は早稲田大学の学生時代に「新日本学生連盟」という民族派学生運動の委員長を務めた竹花光範で、当時は駒澤大学で憲法学を教える助教授であった。彼は「時代感覚や時勢にマッチし、かつ国民に理解される合理的内容の改正案」を主眼とした。そして「平和主義の原理そのものには手を触れず、しかし2項は削除する必要がある」と主張した。
それでも反対運動を高まらせると判断した場合には別に3項を設け、「自衛戦争や自衛のための武力の保持が1項や2項によって禁じられるものではない旨の解釈規定を置くのも良い」としたのである。これが1項、2項をそのままにして憲法を変えていこうとする柔軟路線の始まりであり、安倍総理の9条改正案の原点といえる。
「日本を守る国民会議」は学者、財界、政界、宗教界などに幅広い人脈を広げ、全国の市町村議会をターゲットに組織化を進め、護憲派の社会党議員や作家の野坂昭如氏らを招いてシンポジウムを行うなど「大衆受けを狙った新路線」に右翼運動を切り替えた。
この「日本を守る国民会議」の後継が現在の安倍総理を取り巻く「日本会議」である。彼らの第一の目標は「改憲アレルギーの排除」にある。そしてその柔軟路線の原点を作った竹花はいったん改憲に成功すれば、あとはスムーズに目標とする憲法改正が成し遂げられると考えた。
ポイントは天皇の元首化と軍隊の保持にあるが、それ以外にも国会に関わる憲法の規定を変えて国会より内閣を優位に置くことが意図された。中曽根政権が誕生した1981年と時を同じくして始まった右翼運動の大衆運動方式による憲法改正戦略は、安倍政権によって実現への一歩を踏み出せるかどうかというところまできたのだ。
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