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白人はなぜ黒人デモを支持し始めたのか

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
米コロラド州デンバーで開かれたデモ行進(写真:ロイター/アフロ)

白人警官による黒人男性の暴行死事件への抗議デモが続く米国。人種差別をきっかけとしたデモは繰り返し起きてきたが、これまでのデモと大きく違うのは、白人の姿が非常に目立つことだ。なぜ白人は黒人デモを支持し始めたのか。

「白人の町」にも広がる黒人への共感

「こういう場面は何度も見てきましたが、今回ほど心を動かされたことはありません」。人口500人余りのコロラド州ノーウッドに住むジュディ・マラーさんは、感極まって言葉を詰まらせながら、米公共テレビPBSのオンライン取材に答えた。

5月25日にミネソタ州ミネアポリス市で起きた白人警官による黒人男性の暴行死事件をきっかけに全米に広がった人種差別抗議デモ「Black Lives Matter」は、ノーウッドのような、人種対立やデモとは無縁だった地方の静かな町にまで及んでいる。

今月上旬、住民の1人がフェイスブックで、抗議デモへの支持と犠牲になった黒人男性への追悼の意を表明するため、独自の抗議デモをその日の晩に開くことを提案し、参加を呼び掛けた。すると、人口の1割近い約40人がマスク姿で集まり、町の中を行進した。

2000年の国勢調査によると、ノーウッドは人口の97.5%を白人が占め、次に多いのがネイティブアメリカン(先住民)で1.6%。2016年の大統領選では投票した有権者の半分以上がトランプ氏に投票した。要は、典型的な米国の田舎町。マラーさんも白人だ。

ただ、マラーさん自身は若いころ、ジャーナリストとして人種差別や人種対立の現場を何度も目撃しており、1992年に起きた歴史的なロサンゼルス暴動の際には、テレビの三大ネットワークの特派員として現地で取材もしている。米社会の人種対立がいかに根深く、激しいかを肌で感じていただけに、ノーウッドのような白人の町が1人の黒人の死に抗議の声を上げたことが「非常な驚き」であると同時に、米社会の地殻変動を感じ取ったのだ。

全米に広がった今回の人種差別抗議デモの最大の特徴が、差別してきた側の白人の参加にあることは、多くの米メディアが報じている。ワシントン・ポスト紙は、首都ワシントンンでの抗議デモを伝える記事の中で、昔を知る何人もの黒人の高齢者に取材し、デモ参加者の顔ぶれの変化に驚く本人たちの声を紹介している。

和らぐ偏見や差別意識

これまで、黒人たちの抗議デモをよく思わず、遠巻きに見ていた白人たちは、なぜ、黒人と連帯し始めたのか。理由はいくつかある。

まず、人種対立は依然、米社会の悪しき象徴とは言え、長年の差別反対運動の成果などもあり、昔に比べれば学校や職場、地域社会の中である程度、人種の融合が進み、白人の黒人に対する偏見や差別意識が和らいできたことだ。

調査機関ピュー・リサーチ・センターの異人種間結婚に関する意識調査によると、「近い親戚が黒人と結婚することに反対する」と答えた黒人以外の米国人は、1990年には全体の63%にも達していたが、2016年には14%と大幅に減少。「白人との結婚に反対する」の4%や、「ヒスパニックとの結婚に反対する」の9%(「アジア系との結婚に反対する」も9%)と比べるとまだ高いが、黒人というだけで嫌われる時代は、多くの地域では、ほとんど過去のものとなったと見ていい。

政治家や企業経営者など、スポーツやエンターテインメント以外の分野で活躍する黒人が増えていることも、偏見や差別意識の改善に貢献していることは間違いない。連邦議会の上院、下院合わせた黒人議員の数は、2001年には36人だったが、2019年には56人と、20年弱で1.5倍増。2009年にはオバマ氏が黒人初の大統領に就任している。

黒人に対する白人の意識変化は、主に民主党を支持するリベラル派の間で顕著だ。ピュー・リサーチ・センターの別の調査によると、白人の民主党支持者の中で「国は黒人が白人と同じ権利を享受できるよう、もっと動くべきだ」と考える人の割合は、2009年には全体の50%にすぎなかったが、2017年には80%と急上昇している。

この間、2014年には、ニューヨーク市で黒人男性が白人警官に羽交い絞めにされて窒息死する事件や、ミズーリ州ファーガソンで18歳の黒人男性が白人警官に射殺される事件が立て続けに発生。大規模な抗議デモも起きた。こうした黒人に対する残忍な事件が相次いだことが、リベラル派の白人の意識に影響を与えたことは、想像に難くない。

白人のトランプ離れ進む

白人の人種差別抗議デモへの参加を促したもう1つの大きな要因は、トランプ大統領だ。トランプ氏は、2016年の選挙戦の時から、黒人などマイノリティ(少数派)に強い拒否反応を示す白人保守層の票を狙い、移民も含めたマイノリティを激しく攻撃する言動を繰り返してきた。今回の抗議デモへの対応で大きな批判を招いた「略奪が起きれば発砲する」などの発言も、自身の再選を意識した白人保守層向けの発言だ。

こうした大統領の反黒人的な言動の数々が、黒人との心理的距離を縮めている白人リベラル派の反感を招き、彼らを抗議デモへと向かわせているのは明らかだ。リベラル派だけでなく、中間層(無党派層)からも、「さすがにトランプはやり過ぎだ」との声が上がっている。それが早くも結果となって表れたのが、2018年の中間選挙と言われている。同選挙では、下院で民主党が議席を増やし多数派に返り咲いた。

いまだに収束していない新型コロナウイルス危機では、感染して重症化したり死亡したりするのは経済的に恵まれない黒人の比率が圧倒的に高いなど、人種間の「格差」の問題は依然大きい。だが、今回の抗議デモで何度も映し出される、黒人と白人の若者が肩を並べて行進する姿は、キング牧師が有名な1963年のワシントン大行進で訴えた「夢」の実現に向かって米社会が進みつつあることを示しているかのようだ。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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