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【夏休みにひそむ危険】詐欺グループは闇バイトと気づかせないよう誘導する 女性を罠にはめた一つの言葉

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:アフロ)

夏休みが始まりました。スキマ時間でアルバイトをしようとしている方も多いかもしれません。しかしその仕事は本当に大丈夫でしょうか?

「短時間、高額報酬は闇バイト!」の注意喚起を逆手にとるように、詐欺グループは闇バイトと応募者に気づかせないようにして、一般人を罠にはめて使うケースが出ています。詐欺だとわからなかったとしても逮捕される危険があります。

SNSでみつけた暗号資産のアルバイト

30代主婦の川田さん(仮名)は、子どもを預けているスキマ時間に仕事ができればと思い、SNSで「日払いバイト」の検索で出てきた「日給1万5千円、平日9時から18時の間で、週4日くらいできる方」というものに応募します。相手からは「暗号資産の仕事」との返信がありました。

仕事の説明をしたA男によると「これは相対(あいたい)取引で、本来なら互いに顔を合わせて取引するのですが(取引の)相手同士が遠方に住んでいると直接会うのが難しいので、その代わりを自分たちがしている」といいます。

川田さんは暗号資産の知識はありませんでしたが、やってみることにします。

闇バイトは知っていました。普通のアルバイトだと思いました…

最初の仕事は、中年男性が持ってきた荷物を受け取り、それを指定した場所に届けるという簡単なものでした。闇バイトとはつゆほども思わずに、仕事をこなします。実際に応募時の説明の通り5日分の待機業務(日給1万円)と、今回の仕事の報酬(1万5千円)がプラスされての6万5千円が手に入ります。

「もちろん闇バイトは知っていましたし、SNS上でみたこともあります。闇バイトは日給が5万、10万と高いじゃないですか。しかしこの仕事は、最低保証の日給は1万円からといわれて、6日分の仕事をして説明通りのお金が手に入ったので、普通のアルバイトだと思いました」(川田さん)

詐欺グループが彼女を罠にはめた一つの言葉こそが「日給1万円」だったのです。

高額報酬・高収入が闇バイト そう思っているあなたは犯罪行為に手を染めることになるかもしれない(Yahoo!ニュース エキスパート 多田文明)

2回目の仕事で、詐欺かもしれないと疑う

では、どこで彼女は詐欺かもしれないと思ったのでしょうか。それは指示されて行った2回目の仕事でした。

「月曜日に仕事があると思いますので、動けたらお願いします」と、事前に仕事先の男から連絡があります。

当日、川田さんは都内のD駅で10時頃から1時間半ほど待っていると、男から「千葉のE駅に向かってほしい」といわれます。

彼女がE駅に着いたことを連絡すると、相手方の住所が送られてきました。

道に迷いながらも、住所の付近に到着すると次のような指示がなされます。

「立ち止まらないで、そのまま住所の家の前を通り過ぎて下さい。その周りにあなたと同じような同業者はいないでしょうか?」と聞いてきます。

特に人影もなかったために、彼女は「いません」と答えます。

彼女は気づいていませんが、警察が騙されたフリ作戦をして「受け子」を待ち構えて逮捕することがありますので、その辺りを警戒しての指示だった可能性があります。

80代くらいの高齢女性が紙袋を持ってやってくる

「荷物を渡してくれる方の服装は伝えられていて『紙袋を持ってこられるので、書類を受け取って下さい』といわれました」(川田さん)

そして80代くらいの高齢女性が紙袋を持っているのをみかけて、彼女は近づきます。

「『書類を受け取りに来ました』というと『はい』と答えて渡して下さいました」(川田さん)

どんな紙袋だったのでしょうか?

「普通の紙袋で、手持ち部分がガムテープでとめられていて中はよくみえてないんですけど、A4サイズの封筒が中に入っているのはちらっとみえました。重くはありませんでした」

荷物を受け取り、高齢女性と別れます。すると今度は埼玉の駅を指定されて別な人にそれを渡すようにいわれます。

彼女の心に不安がよぎる

電車で移動しながら、川田さんの心に不安がよぎります。

「私のイメージでは相対取引の仕事は、相手の自宅に行き、書類を受け取る感じでしたが、自宅にも行かないし、その辺りをウロウロさせられる。もしかすると袋の中身は現金かもしれない」(川田さん)

彼女は指示してきた男に電話で疑問をぶつけます。

すると最初に仕事の説明をしたA男が出てきて「それはあなたの先入観です」といって、延々と相対取引がどういうものなのかを説明されます。

「結局、うまく話をはぐらかされて、丸め込まれてしまった感じでした」(川田さん)

詐欺グループにとってはこうした不測の事態を突破することになれているので、川田さんのような一般人に対応できるはずもありません。疑問があれば、仕事をしている相手ではなく、必ず利害関係のない第三者に相談することが必要です。

予定の時間が過ぎていく

「A男は私が書類を受け取った時点で取引が成立しているから、次の人に必ず渡さなければ仕事は終わらない。迷惑がかかると、責めたててきました」(川田さん)

すでに子どもを迎えにいく時間が過ぎており「早く仕事を終えて、行かなければならない」という焦りの気持ちが強くなり、A男に「早く終わらせたい」と強くいうとA男は「本来は、別な人に受け渡すのですが、仕方がありませんね。コインロッカーに書類を入れて下さい」といいます。

駅のロッカーはQRコードのタイプで、それをメッセージで送信しました。報酬は交通費込みで、翌日、銀行口座に2万5千円が振り込まれたといいます。

逮捕されるかもしれない

「1人になって冷静に振り返った時に、やっぱりおかしいと思い、ネットで調べたんです」(川田さん)

すると自分のしていた仕事が「詐欺の受け子」とよく似ていて、疑念は深まります。それとともに「逮捕されるかもしれない」という不安がよぎります。そうなれば、子どもは誰が育てることになるのか…。大変な思いのなかで、今回の経緯を話してくれました。

彼女は「この仕事が詐欺ではないと思いたい自分もいて…」と率直な思いを口にします。しかし筆者が長年、詐欺をみてきて「一連の内容を聞く限り、詐欺に加担させられたことはほぼ間違いない」ことを伝えました。
現在、弁護士さんにもこの件を話して、警察に相談する方向で動いているとのことです。

「無知は罪」と真情を吐露

今、闇バイトが警戒されて、犯罪行為だとわかって行う人が少なくなっているためでしょう。闇バイトが高額報酬だと思いこんでいる人や、特殊詐欺の手口に精通していない人を狙って募集を出しています。

彼女の話では、A男からは「自宅でのオンラインの仕事もあり、月額20万円ほどになる」ものも紹介されているといいます。ここでも一般的な月額の給料を提示しています。

筆者は「自宅から詐欺の電話をかけさせる『かけ子』の仕事もあるので、絶対に応じないように」と話しました。一度でもかかわると次々に電話がかかってきて、犯罪行為を重ねさせようとしてきます。

最後に、川田さんは「無知は罪であることがよくわかった」と真情を吐露します。

詐欺の手口は日々、進化しています。いつ何時、私たちのもとに魔の手が伸びるかわかりません。高額報酬だけでは、闇バイトは見極められません。「日給1万円」の言葉で罠にはめることもあります。

「闇バイトは知っているから、大丈夫」とたかをくくらず、詐欺の手口をよく知って「おかしい」と気づいたら必ず立ち止まり、応募先の人間ではない第三者に相談するようにして下さい。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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