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逮捕されたのは、捨て駒リクルーターか 上位者にたどり着き、次々に起きる連続強盗事件に終止符を打てるか

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:イメージマート)

連続強盗を引き起こしていたリクルーターの男が逮捕されました。果たして上位者にたどりつき、今も起こり続ける強盗事件に終止符を打てるのでしょうか。

逮捕された男は「闇バイトで応募した」と話す

リクルーターという存在は、実行犯を指示役に斡旋(あっせん)するという立場から、より綿密に連絡を取る必要がありますので、強盗の実行犯に比べて、より犯罪組織の上位にいるといえます。それだけに強盗グループの全容解明に向けた捜査の手が一歩近づいたことになります。しかし捨て駒リクルーターだった場合、大きな一歩にはなりえない可能性もあります。

逮捕された男は「闇バイトで応募した」と話しています。

リクルーターも「闇バイト」に 「指示役に個人情報」と供述 埼玉・所沢市(出典:フジテレビ 2024/11/4)

リクルーターが闇バイトで募集されることがあるのだろうか。疑問?

この報道を聞いた時、首を捻りました。

「リクルーターが闇バイトで募集されることがあるのだろうか」と疑問を持ったからです。10数年にわたって、闇バイトの募集に調査電話をかけるなどしていますが、特殊詐欺グループがリクルーターを募集しているなどということを、聞いたことがないからです。基本的に家を訪れてお金をだまし取る「受け子」、ATMからお金引き出す「出し子」、時に電話をかける「かけ子」の募集などがされます。

捨て駒リクルーターである可能性がみえてきた

しかし一連の強盗事件を精査してみて、なるほどと思うことがありました。このリクルーターは、組織的強盗グループならではの存在であり、捨て駒リクルーターである可能性がみえてきたからです。

通常、特殊詐欺グループのリクルーターは長年、詐欺などの犯罪をしてきた人物であることは、数多くの者たちと話してきてわかっています。時に「かけ子」がリクルーターを兼ねていたり、アウトソーシングの形で数多くの犯罪グループとつながり、人を紹介する者もいました。

あるリクルーターに「すぐに仕事はあるのですか?」と聞いてみると、その男は「幾つかグループをあたってみます」といってテレグラムの通話を切ります。その後、再び電話がかかり「明日の案件がありました。品川駅にいけますか?」といわれたことがあります。

リクルーターをするには、犯罪グループの指示役らの信頼を得たうえで、人を紹介する形をとっているはずです。

通常のビジネスでも、得体のしれない人物から人を紹介されても受け入れないはずで、その逆に信頼のある人や企業であれば、その人を雇おうかを考えることになると思います。それと同じです。

それを考慮してみた時に、本来、闇バイトで募集された人物、つまり犯罪未経験である者がリクルーターという役をこなせるはずがないのです。

これまでの詐欺と今回の強盗事件との人集めの仕方に大きな違い

しかしこれまでの詐欺と今回の強盗での人の紹介の仕方には、大きな違いがあることに思い至りました。

詐欺では「受け子」「出し子」を紹介するにあたっては、犯罪現場のそれなりの経験がなければ、仕事を紹介するうえで具体的な説明はできません。何より犯罪グループは手足となる実行犯によるお金の持ち逃げを警戒していますので、それをしないような人物をリクルーターは選定して、犯罪グループに紹介しなければなりません。それゆえに、それなりにリクルーターの力量が問われます。

しかし今回の強盗の募集には、そうしたスキルが必要ありません。

「ホワイト案件」と嘘をついて人を募ればよいだけ

詐欺の場合は、一人で被害者宅を訪れますが、複数人で押し入る強盗では、互いに監視の目があり、奪ったものを持ち逃げすることは極めて難しい状況です。そのために、指示に従うような者たちを集めさえすればよく、一定の条件さえ合えば、誰でも構わないことになります。

それに今回の強盗の募集では「ホワイト案件」「運びの仕事」といった、犯罪行為になると思わせずに、嘘をついて人を募っているので、特に犯罪に関する深い知識は必要がありません。

おそらく今回の強盗のリクルーターには、何かしらの募集要項のフォーマットが渡されて、それをSNSに貼り付けて募集する。そして応募者から連絡があれば、秘匿性の高い通信アプリに誘導して後、身分証を送らせて、指示役につなげる。
指示役は応募者に「危害を加える」といって脅して犯行をさせますので、リクルーターは応募者と話して、最低限の必要事項さえ聞き出せれば、充分にこなせる役だといえます。そうした点から、今回逮捕された男は、強盗グループならではの捨て駒リクルーターであり、特殊詐欺におけるリクルーターとは立場が違うのも頷けます。

指示役には一気にたどりつかない可能性も

そうなると、今回の逮捕で指示役に一気にたどり着けるかというと、それは難しいかもしれません。特殊詐欺のリクルーターのような長年、犯罪にかかわってきた者であれば、裏で過去に指示役との何かしらのつながりはあるかもしれませんが、闇バイトで募集された人物となると、指示役とは通話くらいしかしていないでしょうから、深いつながりはないことが考えられます。

ただし、上位者に近づいたリクルーターの逮捕であることはいうまでもありません。

私も闇バイト募集などに調査電話をするなかで、犯罪グループの人間が関西弁だったり、ついうっかりと自分の居場所を特定されてしまうような言葉を吐いた者もいます。

今回、逮捕されたリクルーターはそれなりに密に指示役と連絡をとっていたでしょうから、何かしらの指示役の特徴や情報をもっている可能性があります。何より、すべて同じ指示役と連絡をとっていたのか。それとも複数の指示役と話していたかなどを通じて、強盗グループの実態もみえてくることになります。

被害金の回収・運搬役の女性も逮捕される

今回、奪った金品を回収していた女性も捕まっています。

強盗で奪った金を都内の公園で回収か…横浜・青葉区の強盗殺人事件、新たに30歳女を容疑で逮捕(出典:読売新聞 2024/11/03)

特殊詐欺では、金品の回収・運搬役は複数おり、非対面で人から人を介して授受させることで、お金の行く先をたどれないようにしています。この回収・運搬役が指示役に現金などを届ける極めて近い人物であれば、一気に指示役に近づきますが、今回は、強盗の実行役が公園においた被害品を回収しており、指示役から遠い存在の存在といえます。
しかしこの人物から別な運搬役へと金品が受け渡されているでしょうから、その線をたどっていけば、より指示役に近い立場の存在に近づくことは充分に可能です。

強盗グループの指示役は自分には捜査の手が及ばないように様々な画策をしていると思いますが、組織的な犯行には必ずどこかにほころびが生じるはずです。すでに連続強盗事件の実行犯らが30人以上が逮捕されており、警察の捜査は、一歩一歩、指示役に近づきつつあるといえます。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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