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「紅麹」の麹菌はカビ、カビ毒の「シトリニン」との関係は不明

石田雅彦科学ジャーナリスト
写真は本文と無関係です(写真:イメージマート)

 小林製薬が製造販売した健康食品を摂取した人に腎疾患などの健康被害が出ている。同社は、原料として使っている紅麹によるものではないかと発表し、同じ原料は国内外のメーカーへ供給していることで影響が広がっている。麹はカビの一種であり、過去にもカビ毒(マイコトキシン、真菌毒)による健康被害が出ているが、同社は以前、カビ毒の一種であるシトリニンができない遺伝子の麹を使っているとしている。食品とカビ毒の関係について考えてみた。

カビ毒(マイコトキシン)とは

 小林製薬は、2024年3月22日に「紅麹コレステヘルプ及びそれに使用している紅麹原料(自社製造)の成分分析を行った結果、一部の紅麹原料に当社の想定していない成分を含む可能性が判明」したと発表している。紅麹といえばカビ毒(マイコトキシン、真菌毒)の一種であるシトリニンによる健康障害が考えられるが、同社はシトリニンは検出されていないとしている。

 カビ毒には数百種類があり、厚生労働省はデオキシニバレノール(コムギなど)、パツリン(リンゴ果汁など)、アフラトキシン類(穀類、ナッツ、牛乳、チーズ、豆など)などで規制値を設定している(※1)。この中では、アフラトキシン類が発がん性があって強毒とされ、多種多様なカビ毒に対する警戒と制御が重要とされている(※2)。

 シトリニンはコメや穀類、ブドウなどを汚染するカビ毒で、体重1キログラムあたり0.2マイクログラム(成人)で腎臓や胎児などへの毒性があるとされる(※3)。シトリニンの摂取量については、厚生労働省は1グラムあたり0.2マイクログラム以下(第8版食品添加物公定書)、欧州食品安全機関(EFSA)では1キログラムあたり2000マイクログラム(1グラムあたり2マイクログラム)以下にすることを定めている。

シトリニンを作り出さない紅麹菌だった?

 一方、紅麹菌は日本を含むアジア諸国で食品の着色料や肉の保存、発酵食品などに活用され、最近ではコレステロール値を下げる機能があることでサプリメントなどにも使われるようになっている。だが、発酵すると二次的にカビ毒のシトリニンを作り出してしまい、過熱しても毒素はなくならないため、その制御が長く問題になってきた(※4)。

 2020年10月、小林製薬と奈良先端科学技術大学院大学の研究グループは、世界で初めて紅麹菌の(Monascus pilosus)の全ゲノムを解析したとし、その結果、この種類の紅麹菌がゲノムレベルの解析により、腎機能障害をもたらすシトリニンを作り出せないことを証明したと科学雑誌上に発表した(※5)。紅麹菌にはいくつか種類があるが、このMonascus pilosusのみがシトリニンを作り出せないのだという。

 同社がシトリニンを作り出せない紅麹菌を見つけ出すことに注力したのは、過去にシトリニンの汚染による健康被害が多く起きているからだ。特に有名なのは戦後の寿司文化にも影響したとされる敗戦直後の黄変米事件だろう(※6)。

 だが、今回の事象では、腎疾患の患者が多数出ている。シトリニンではないのなら、いったいどんな成分が悪影響をおよぼしているのだろうか。解明が待たれる。

※1:Tomoya Yoshinari, "Mycotoxin regulations for food and official analytical methods in Japan" JSM Mycotoxins, Vol.71(2), 75-78, 2021
※2:Md Atiqul Haque, et al., "Mycotoxin contamination and control strategy in human, domestic animal and poultry: A review" Microbial Pathogenesis, Vol.142, May, 2020
※3:Dubravka Flajs, Maja Peraica, "Toxicological Properties of Citrinin" Archives of Industrial Hygiene and Toxicology, Vol.60, Issue4, December, 2009
※4:Biing-Hui Liu, et al., "Evaluation of Citrinin Occurrence and Cytotoxicity in Monascus Fermentation Products" Agricultural Food Chemistry, Vol.53, Issue1, 170-175, 10, December, 2004
※5:Yuki Higa, et al., "Divergence of metabolites in three phylogenetically close Monascus species (M. pilosus, M. ruber, and M. purpureus) based on secondary metabolite biosynthetic gene clusters" BMC Genomics, Vol.21, article number679, 1, October, 2020
※6:Masayo Kushiro, "Historical review of researches on yellow rice and mycotoxigenic fungi adherent to rice in Japan" JSM Mycotoxins, Vol.65, No.1, 22, April, 2015

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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