航空自衛隊スクランブルで初確認された中国軍機の正体とは?
防衛省は6月8日、中国軍の情報収集機Y-9の1機が沖縄県・先島諸島南方の太平洋上空を飛行したと発表した。航空自衛隊の戦闘機が緊急発進(スクランブル)して対応したところ、機体の形状などからこれまでに確認されたY-9とは異なる初めての機体だったと防衛省は説明した。では、どのような機体なのか。
結論から述べると、今回初めて確認された機体は、中国空軍最先端の電子偵察機「Y-9DZ」だ。同機は2017年11月に衛星写真によって西安の飛行試験研究院(CFTE)で初めて撮影され、2019年に中国で公表された。中国の陝西飛機工業公司が製造する多用途中型輸送機Y-8の後継であるY-9の派生型シリーズの1つで、別名Y-8GX-12とも呼ばれている(GXは中国語でハイテクを意味する「高新」の略語)。
そのY-9DZの写真はこれまで中国のSNSのウェイボー(微博)などにも投稿されてきた。
これまでのY-9と比べ、Y-9DZは胴体下部などで従来の機体とは異なる膨らみがみられる。
内外の中国軍事専門家によると、Y-9DZには新型のセンサーと通信システムが装備されている。同機がEW(電子戦)や電子情報収集(ELINT)、電波探知(ESM)、合成開口レーダー(SAR)による敵軍の動向監視、ジャミング(電子妨害)、心理戦(PSYOPS)などさまざまな特殊任務を飛行できる新世代の多用途電子戦機であることを示唆している。
具体的には、胴体中央上部には通信衛星 (SATCOM) アンテナ、胴体後部の両側には2つの大きな長方形のESM/ELINTアンテナがそれぞれ設置されている。垂直尾翼の上部にも楕円皿状のESMアンテナが備えられている。SARアンテナは胴体前部の下に設置されている。これらの装備により、Y-9DZは情報収集・警戒監視・偵察(ISR)の任務でより高い力を発揮すると考えられる。
●台湾島東側の太平洋上空を旋回
防衛省が公表した飛行経路図によれば、Y-9DZは8日に台湾とフィリピンの間にあるバシー海峡を通って台湾島東側の太平洋上空で旋回。そして、バシー海峡の方向に同じ経路で戻っていた。
その飛行目的は何だったのか。
●米空母2隻や海自いずもなどを偵察監視
防衛省によると、ちょうど7日から10日まで日米仏共同訓練が沖縄東方から東シナ海で行われていた。米海軍の原子力空母ロナルド・レーガンとニミッツ、海自護衛艦いずもを含め、計12隻が参加した。航空自衛隊や米空軍も加わった。力による現状変更を図る中国の軍事力増強を念頭に、日米仏で各種の戦術訓練を実施して連携をアピールする狙いがあったとみられる。
これに対し、中国軍は台湾島東方の太平洋海域で共同訓練を実施中の日米仏へのISR活動をするために、新型電子偵察機であるY-9DZを飛来させた。Y-9DZと日米仏が共同訓練を実施した海域の距離は500キロ以内だったとの見方もある。
中国共産党系の英字ニュース「グローバルタイムズ」は11日、「米国と日本の空母が台湾島東で訓練を行う中、人民解放軍は新型偵察機を配備」と題する記事を配信した。
「Y-9情報収集機は重要な軍用機として、米空母に対する捜索活動で重要な役割を果たしている。その姿は、中国軍がすでに強力な情報収集能力を有しており、いつでも敵の行動を掌握していることを示している。同時に、それは中国軍の強さと決意を世界に証明した」と豪語する中国メディアもあった。
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