太陽を見上げたとき「クシャミが出る」のは洞窟暮らしの名残か?
太陽を眺めたりすると、クシャミが出ることがよくあるだろうか。これは光性クシャミ反射などと呼ばれている生理現象だ。では、なぜこんな反応が出るのだろうか。これまでの研究から考えてみる。
遺伝的な反応か
クシャミは、異物や微生物の身体への侵入を防御する役割を持つ生理現象で、冷たい空気を吸い込んだときなど、また風邪などの初期症状としてあらわれることがあり、あるいは感染した病原体が感染を広げるため、クシャミをさせることもある。
だが、クシャミが出る仕組みについて、まだよくわかっていない(※1)。
花粉症の季節になると、クシャミが原因による交通事故が増える。花粉症でなくても暗いトンネルから急に明るい場所へ出た途端、クシャミが出ることもあり、これも事故原因の一つになっている危険性がある。
光に反応してクシャミが出る現象は、光性クシャミ反射(Photic Sneeze Reflex、PSR)とかACHOO症候群(Autosomal Dominant Compulsive Helio-Ophthalmic Outbursts syndrome、常染色体優性の強迫性太陽眼球爆発症候群)などと呼ばれている(※2)。
これは遺伝的な生理現象で、これまでのヒトのゲノム解析により世界的に20%から50%ほどの人にこの反応が出ると考えられ、男性のほうが多く、黒人では少ないとされている(※3)。だが、この反応は主にアンケート調査によるもののため、日本でも類似の研究があるが、正確にどれくらいの人に出る反応なのかはよくわかっていない。
光に反応してクシャミが出るのは、おそらく痛みや温度など顔への刺激を脳へ伝える三叉神経系が関係していると考えられ、三叉神経心臓反射による不整脈などとの関係も示唆されている(※4)。
両親ともにこの反応がある場合は100%、片方の親にだけ反応のある場合は50%の割合で子に受け継がれる。だが、なぜこんな反応を遺伝的に受け継いできたのか、何かメリットがあるのかなどについても謎のままだ。
洞窟生活からの反応か
クシャミには病気予防にたいしたメリットはないという意見が多いが、逆に身体に有害な物質や遺伝子の後天的な変異を取り除くためには効果的だという意見もある(※5)。
光に反応してクシャミをするのは乳幼児の時期が多く、ヒトの新生児は鼻呼吸しかできないため、感染症に脆弱な時期にあらわれる反応という意見もある(※1-1)。そういう意味では、暗い洞窟に暮らしていた頃のヒトの祖先が、湿気が多く不衛生な洞窟から明るい外へ出た際にクシャミをして有害物質や病原菌を排除する反応を備え、乳幼児にはその先祖の反応がよみがえっているのかもしれない(※3-3)。
だが、光に反応してクシャミが出やすい人にとって、自動車や航空機の運転や操縦、外科手術を受ける際などでこの反応はリスクになる(※6)。そのため、反応を抑制する薬剤などの研究が進められている(※7)。
クシャミをすると鼻の奥の血圧が急激に上昇し、聴覚に障害を引き起こしたり、血栓など血管障害が起きたり、あるいは肋骨が骨折するなどの悪影響が起きることがある。光に反応しやすい人も含め、あまり勢いよくクシャミをしないほうがいいだろう。
※1-1:Murat Songu, Cemal Cingi, "Sneeze reflex: facts and fiction" Therapeutic Advances in Respiratory Disease, Vol.3, Issue3, 99-141, June, 2009
※1-2:Fatma Ceyda Akin Ocal, et al., "Sneezing" Airway Diseases, 1-7, doi.org/10.1007/978-3-031-22483-6_18-1, 5, July, 2023
※2:Laura Dean, "ACHOO Syndrome" Medical Genetics Summaries, 15, October, 2012
※3-1:J M. Forrester, "Sneezing on Exposure to Bright Light as an Inherited Response" Human Heredity, Vol.35(2), 113-114, 1985
※3-2:Micholas Eriksson, et al., "Web-Based, Participant-Driven Studies Yield Novel Genetic Association for Common Traits" PLOS GENETICS, doi.org/10.1371/journal.pgen.1000993, 24, June, 2010
※3-3:Philipp Kulas, et al., "Investigations on the prevalence of the photo-induced sneezing reflex in the German population, a representative cross-sectional study" European Archives of Oto-Rhino-Laryngology, Vol.274, 1721-1725, 27, August, 2016
※3-4:Mengqiao Wang, et al., "A genome-wide association study on photic sneeze reflex in the Chinese population" scientific reports, 9, Article number:7993, 21, March, 2019
※4-1:Brandley W. Whitman, Roger J. Packer, "The photic sneeze reflex: Literature review and discussion" Neurology, Vol.43(5), 1, May, 1993
※4-2:D Hyden, S Arlinger, "On light-induced sneezing" Eye, Vol.23, 2112-2114, 3, July, 2009
※4-3:Tumul Chowdhury, et al., "Photic Sneeze Reflex: Another Variant of the Trigeminocardiac Reflex?" Future Neurology, Vol.14, Issue4, 10, October, 2019
※5:Rihab F. Alabedi, "Sneezing-Death Relationship: an Epigenetic Mutation" Scientific Journal of Medical Research, Vol.6, Issue22, 32-37, 2022
※6-1:Ray A. Breitenbach, et al., "The Photic Sneeze Reflex as a Risk Factor to Combat Pilots" Military Medicine, Vol.158, No.12, 806-809, December, 1993
※6-2:Shalini Subramanian, Deepa Shtty, "Stifling the sneeze in ACHOO syndrome—What the anesthesiologist should know" Journal of Anesthesiology Clinical Pharmacology, Vol.39(3), 499-500, July-September, 2023
※7-1:Karim YK. Hakim, Mohammed Awad Alsaeid, "Comparative Study between the Efficacy of Fentanyl, Antihistamines, and Dexmedetomidine in Suppressing Photic Sneeze Reflex during Peribulbar Block" Aneshesia: Essays and Researches, Vol.13(1), 40-43, January-March, 2019
※7-2:Samantha Bobba, et al., "Management of the photic sneeze reflex utilising the philtral pressure technique" Eye, Vol.33, 1186-1187, 19, February, 2019